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共通の問題意識が醸成する若者同士の連帯感─ITR内山氏主催の「内山塾」に直撃

2009年11月20日(金)IT Leaders編集部

情報システム分野の代表的なアナリストの1人であるアイ・ティ・アール(ITR)代表取締役の内山 悟志氏。多忙な日々を送る中、ライフワークの一環として次世代のITプロフェッショナルを育てるための“塾”を開講している。「内山塾」と呼ぶその塾は、ユーザー企業やベンダーの20~30代の若手が毎週火曜日に会場に集まり、コンサルティング手法をシミュレーションやゲームといった実践を通じて体得する自己研鑽の場だ。去る2009年11月17日には早くも6期生が“卒業”したという。本誌は内山氏に取材し、塾の開催に力を注ぐ狙いや活動内容について聞いた。また塾への“潜入取材”も敢行。そこから見えたものは、共通した課題をもつIT部門の若手同士の連帯感だ。

 企業のCIO(最高情報責任者)に共通の悩みは「人材育成」――。内山氏は交流のあるCIOと話をするたび、IT部門を担うリーダー育成の難しさを嘆く声を多く聞いていた。「若手は恥をかいてでも自分の無知を知り、そこからはい上がってほしい。そんな鍛錬の場があれば積極的に送り出すのだが…」。そんなCIOの悩みの一助になろうと内山氏は2008年、内山塾設立に動いた。

 内山塾の特徴を一言で述べるなら、「理論より実践」だ。同塾で利用するのはKJ法やバランススコアカードといった、市販本やWebを見れば大筋は理解できるメジャーな手法が中心。講義の序盤ではその日に利用する手法を簡単に解説するものの、約2時間ある講義時間の大半は、手と頭を動かして考える実践に充てている。「業務で必要となるのは単純な理論や手法ではなく、それらをいかに組み合わせるかという応用力である」(内山氏)という考えが根底にあるからだ。

 参加者は最大20人程度と、あえて少人数に制限する。「30人程度で試してみたこともあるが、発表などの局面で待ち時間が多く、密な交流が阻害されてしまうことが分かった」(内山氏)。ユーザー企業のIT部門に勤める若手が中心だが、あえてベンダーにも門戸を開いているという。構成比率はユーザー4に対しベンダー1といった具合だ。「ユーザー企業とは違う立場のメンバーを加えることで、新たな“気づき”が与えられると考えた」(内山氏)。ベンダーからは営業やマーケティング部門の参加が多いという。

 1期あたりのプログラムは約3カ月で終了する。1カ月の休止期間を空けて年に3期開講するのが現在のペースだ。第6期は2009年11月17日に終了し、次回の7期目は2010年1月に開催予定だ。1期から6期までに参加したメンバーは、49社120人に達する。カシオ計算機やキリンビールは、毎回メンバーを送り込む“常連”だ。参加には役員・部門長の推薦やテストといった“受験”がある。問題意識を持った人材に絞り込むことが、議論が毎回活発に展開されることにつながっている。

 持論をぶつけ合う議論からは、時に新たなコンサルティング手法が生まれることもある。内山氏はこれまでに内山塾の経験から、アイデアの抽象化手法であるKJ法とイシューツリーを組み合わせた手法などを生み出してきたという。

 筆者は、とある日に講義の様子を取材する機会に恵まれた。当日の講義内容は、想定した課題が発生する理由を、カードを使ったブレーンストーミングで洗い出し、KJ法とイシューツリーを利用して整理するというもの。5人前後で構成した4つの班に分かれ、各班が前回の週までに設定した「なぜIT部門は暗いのか」「なぜ飲み会に参加する若者が減ったのか」といったテーマについて、その理由を洗い出し、整理した。IT部門が暗い理由については「情報システムの価値が業務部門に理解されていない」といった切実な意見も出ていたのが印象的だった。

 塾生が内山塾の魅力の1つと声を揃えるのは、「アフター内山塾」と呼ぶ講義後の懇親会だ。参加メンバーのほとんどが出席するほか、内山氏もほぼ毎回顔を出し、みんなと酒を酌み交わす。ここでの話題は、仕事のことから趣味、恋愛まで幅広い。内山氏も「ここでは無礼講」と、若者と肩を並べて語りあい、笑いあう。ここで得た活力が、次の活動や明日の仕事への糧となる。「私自身も彼らから多くを得ている」(内山氏)。

 内山塾のほかにも、ITRは企業内のIT人材育成プログラムである「ITR Academy」を開催している。内山塾の前身としての側面もある同アカデミーを初期に卒業した20代の若手が、コンサルティングファームを設立するなどロールモデルも豊富だ。共通した課題や悩みを抱える優秀な若者同士が、内山塾を通して交流し、切磋琢磨する。彼らが企業ITを背負って立つCIOや経営者になる日も、そう遠い将来の話ではないと内山氏は期待を寄せている。

写真 内山塾の講義風景。去る2009年11月17日、第6期生が巣立った 写真1:内山塾の講義風景。去る2009年11月17日、第6期生が巣立った
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