EAの取り組みの延長線上に柔軟な情報システムを具現化する上で、ますます重要性が高まっているのがデータマネジメントである。最新動向として、米国を中心に注目を集め始めたDMBOKにフォーカスを当て、その内容を概説する。
データマネジメントに関する国際的な非営利団体であるDAMA(Data Management Association International)は2009年4月、「DAMA-DMBOK(Data Management Body of Knowledge)」と用語辞書「DAMA Dictionary of Data Management」を出版した。
データマネジメントに関わる要素と標準的な考え方、そこでの基礎となる用語の定義を記したもので、全体で800ページにも及ぶ。プロジェクトマネジメントの領域で知られるPMBOK (Project Management Body of Knowledge、プロジェクトマネジメント知識体系)と同様に、データマネジメントに関する知識体系を取りまとめたものだ。
DMBOKの構成要素を図4-1に示した。データガバナンスを中心に、9つの要素が周りを取り囲んでいる。ガバナンスを確立するためには各要素が必要であり、各要素が実行されてガバナンスはさらに高まるという構図を表している。ここで各要素は相互関連は持ってはいるが、むしろデータガバナンスを達成するための独立要素と考えた方が理解しやすい。各要素について、以下に簡単に説明しよう。
■ データガバナンス:データ戦略の設定、データ戦略策定組織(役割)の設定、各要素の実行内容のチェックなど。データ資産について管理され、かつ共有化されるための実行内容
■ データアーキテクチャ管理:エンタープライズデータモデル(※1)の開発保守、他のビジネスモデルとの整合性の確保、DWH(データウエアハウス)/BI(ビジネスインテリジェンス)のアーキテクチャの定義と保守、ビジネス用語の定義と保守、テクノロジーアーキテクチャの定義と保守
■ データ開発管理:概念、論理、物理データモデル(※2)の構築、データベース設計および実装
■ データベースオペレーション管理:DBの環境整備、実装、DBのパフォーマンス管理、チューニングなど
■ データセキュリティ管理:セキュリティポリシー(※3)の設定、手続きの設定、パスワードの設定、監視、監査など
■ 参照およびマスターデータ管理:(詳細は後述)
■ DWHおよびBI管理:ビジネスニーズの理解、DWH/BIの実装、利用状況のモニターなど
■ ドキュメントおよびコンテンツ管理:ドキュメントおよびコンテンツの管理計画、実装、バックアップ、監視、監査など
■ メタデータ管理:メタデータ(※4)標準の設定、ツールなどによる実装、統合、情報配信など
■ データ品質管理:品質管理方針の設定、品質評価方針の設定と評価、品質問題点の発見と解決、監視、監査など
(※1)エンタープライズデータモデル:企業横断的な共用データについての一貫した見方を提供する概念データモデルもしくは論理データモデル
(※2)概念データモデル:ハイレベルのデータモデルであり、主要エンティティおよびリレーションシップを定義する。すべての属性は含まなくてもよい。正規形である必要もない。キー属性は含んでもよい
論理データモデル:エンティティ-リレーションシップ・データモデルであり、属性を含む。ただし、属性はソフトウェア、ハードウェアおよび性能に関わる制約は含まれない
物理データモデル:テーブル、カラム、外部キー、インデックスを含む。物理的な命名規則、DBMS固有のデータ型を含む。論理データモデルに基づくが非正規形である場合がある
(※3)データセキュリティポリシー:無許可で不適切なアクセスあるいは変更からデータを守り、保証するための考え方。DMBOKではITセキュリティポリシー(一般的に言われるセキュリティ管理)よりも、よりデータに着目した、手続きが求められる。たとえば、以下のような段階が考えられる
第1段階:データ項目名はきちんと分類・整理されているか
第2段階:データのアクセス権は明確か
第3段階:データの一貫した安全性は確保されているか
第4段階:モニターと監査が可能か
(※4)メタデータ:一般的定義は「データに関するデータ」である。詳しくは、データおよびデータに関連するビジネス(ビジネス・メタデータ)および技術的(テクニカル・メタデータ)な理解を改善するために使用され、他のデータの特性を定義し記述するデータである
・ビジネス・メタデータ:該当する領域に関わるエンティティおよび属性の名称、定義、属性のデータ型、属性の他の特性、値の範囲、値ドメイン(後述)とその説明
・テクニカル・メタデータ:物理的なデータベース・テーブルおよびカラム名、カラム特性。データがどのように格納されるかを含む。データベース・オブジェクトの特性を含む
DMBOKの実行体制
次に、DMBOKを実行する環境について解説しよう(図4-2)。ここでは実行組織(役割)も設定している。今回は、中心となる「データガバナンス達成のポイント」と、国内でも比較的関心の高い「参照およびマスターデータ管理」および実行役割としての「データスチュワード」に関して概説する。
データガバナンス達成のポイント
データガバナンスを達成するためのポイントや留意点を以下にまとめる。
- ビジネスサイドとデータマネジメントの専門家の両者が責任を持つ
- データスチュワード(※5)はデータマネジメントの全10要素に責任を持つ
- データガバナンスおよびデータスチュワードシップの実行内容は、組織の特性および文化によって異なる
- データガバナンスの組織とデータスチュワードの組織およびチームには、規則を制定し判断する責任能力が必要
- データマネジメントには必ずしもITリーダーシップは必要ない
ここで念頭に置いてほしいのは、データガバナンス(広い意味でのデータマネジメント)は、ITの課題というよりもむしろ「ビジネスの課題」としてとらえられているということである。前述の5つのポイントについては異論もあるかもしれないが、筆者の経験からも、必要十分条件は整っている。
(※5)データスチュワード:ビジネス分野のリーダーもしくはビジネスの特定領域の専門家であり、以下の内容を実行する
- 当該エリアに関するデータ要求を識別
- 当該エリアに関するデータの名前の品質、ビジネス的な定義および値の管理
- 法的規制に対する要求と適合性をデータ標準として実行
- 適切なセキュリティ管理への対応
- データ品質の分析と改善
- データに関する問題点の識別と解決
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