[市場動向]
ソフトウェア保守でユーザー意向を注視する国内ベンダー、顧客目線の体系変更も浸透は道半ば
2010年1月26日(火)IT Leaders編集部
「たらい回しは勘弁だ」「細分化されたメニューから選択したい」「契約内容を透明化してほしい」──。保守サポートに対するユーザー企業の要望に応えようと、国内主要ベンダーは新しい保守サポート体系への移行を進めている。だがそこにはまだ多くの壁があるのが実情だ。NEC、富士通、日立製作所の取り組みを追った。
保守サポート体系の変更にいち早く取り組んだのが富士通だ。2000年にそれまで別々だったハードウェアとソフトウェアの保守サポートサービスを「SupportDesk」と呼ぶサービスに統合した。分野ごとに体系がバラバラで分かりにくいという顧客からの声が少なくなかったためだ。2008年に入り、日立製作所とNECも相次ぎソフト・ハードの保守サポート体系を統合。まず日立が2008年8月に「日立サポート360」を開始。NECは08年10月から徐々に体制変更を進め、2009年8月に「プラットフォームサポート」の名称の下にソフト・ハードの保守サポート体系を統合した。
3大国内ベンダーに共通する動きは大きく3つある。(1)問い合わせ窓口の一本化、(2)サポートレベルの多様化、(3)契約内容の見える化の推進、である。
トレンド(1)
問い合わせ窓口の一本化
各社が体系変更の目的の中心に据えるのが、各製品ごとの問い合わせ窓口の一本化だ。各社は自社のハード・ソフト製品に加え、他社製品も含めて窓口を統合する流れにある。NECは以前、顧客の声に応える形で一括窓口を別契約として用意した。だが「利用が進まず、体系自体の一本化が不可欠と判断した」(システムソフトウェア事業本部シニアマネージャーの勝谷 光一氏)。
だが、窓口を一本化しても課題は残る。窓口で問い合わせを受けた後、実際の作業を担当する技術者への“たらい回し”が往々にして起こる問題だ。1人の技術者があらゆる技術に精通することは難しく、トラブル対応には専門分野ごとに複数の技術者が関わる。技術者によって視点が違うため、それぞれから似たような質問を繰り返し受けてしまうなど、ユーザーにとってたらい回しと受け取れるケースは少なからず残っているのが実情である。
解決策の1つは、技術者間での情報共有の体制整備と促進だ。各社は顧客からシステム構成情報を事前に提供してもらい、チーム内で共有するなどの取り組みを進めている。
トレンド(2)
サポートレベルの多様化
各社は標準保守サポートの他に、複数のグレードや有料オプションを充実させ始めた。必要な契約をメニューから選択したいという顧客の要望に応えるものだ。選択肢の多様さは外資系ベンダーのレベルに近づきつつある。
日立は保守サポートの手厚さに応じて3段階のグレードを用意する。中位の「プレミアム」以上では、緊急障害専用の窓口を設置。日立内で再現環境を構築するなどしてトラブルの解決策を練る。富士通も顧客専任技術者の配置などの項目ごとに選択契約できる有償オプション群を用意。NECも24時間365日の障害対応などを有償で提供する。
サービスを絞り込んだ安価な保守サポートを用意する動きも出てきた。富士通やNECは、サーバーの場合にOSを除くハードのみを対象とした安価なメニューを用意する。「特にWindowsについてはOSとハードの保守を切り離したいという声が多い」(富士通インフラサービス事業本部サービス企画統括部長の山本 享史氏)からだ。「結果として、OSを保守サポートから切り離すユーザーが出てきているが、ユーザーの求めるメニューに近づいてきている」(同)という。
トレンド(3)
契約内容の見える化
保守実態の見える化への取り組みも共通した動きだ。技術情報やパッチ情報などに加え、過去のサービス利用履歴も随時参照可能にする方向にある。できる限り情報を公開し、サービス実態の透明性を高める狙いだ。NECは顧客専用Webサイトで利用履歴を公開するほか、日立も最上級の「スーパープレミアム」において公開している。
一歩進んだ取り組みをしているのは富士通だ。契約者用のWebサイトの機能を充実。利用履歴の公開に加え、2009年からは、オンサイト作業時のエンジニアが到着予定時刻を携帯電話でシステムに入力し、ユーザーに通知する仕組みも備えた。もっとも、見える化の徹底はベンダーにとって諸刃の剣となる。「細目ごとの利用実態が一目瞭然となれば、一部のメニューを契約から切り離す顧客もいる」(富士通の山本氏)。それでも富士通は、「顧客の納得感を高めるために、見える化への取り組みは最優先で継続する」(同)姿勢だ。
顧客の「納得感」に努力
体系移行には厚い壁が
製品の機能拡張ロードマップをユーザー企業に提示する動きも、少しずつではあるが進んでいる。保守サポートの中核をなすバージョンアップの価値を明確化し、顧客の納得感を高めるためだ。日立は顧客企業に出向いて自社製品のロードマップを説明する活動を強化しているほか、「顧客からの要望が多く必要性が高いと判断した機能は、優先順位を付けて製品の開発計画に反映している」(プラットフォームソフトウェア本部日立サポート360推進センタ主任技師の菊島 公一氏)という。
保守サポート体系の改革を着実に進める国内ベンダー。だが新しい体系は、必ずしもスムーズに普及しているわけではない。早期に体系変更に踏み切った富士通でさえ、新体系に移行していない顧客もいるという。
保守サポート体系の変更は、既存顧客の場合には原則として再契約が必要になる。従来通りでよいとする顧客には変更を迫りにくい。間接販売の場合には販売パートナーの協力が不可欠だが、すべてのパートナーから積極的な協力が得られていないのが現状のようだ。