様々なシーンで様々なデバイスを通じてサービスを利用するクラウドソリューション。この構想を実現し、豊かなユーザー体験をもたらすためのクライアント技術を解説する。
マイクロソフトが「Silverlight 1.0」をリリースしたのは2007年9月。それから約2年半あまりの間にSilverlightは3回のバージョンアップを経て、今なお、大きな進化を遂げている。
Silverlightは、WindowsやMacintosh上のInternet Explorer/Firefox/Safariといった様々なブラウザで利用可能な、リッチインターネットアプリケーション(RIA)のための実行環境であり、そのプラグインという位置付けだ。これまでWindowsのアプリケーションで実現してきた、よりリッチなユーザー体験(エクスペリエンス)を、様々な環境で利用できるように「クロスプラットフォーム・クロスブラウザ」を実現する環境である(図6-1)。
Silverlightの進化は、そのリッチなエクスペリエンスを実現するための表現力を高めるだけでなく、ブラウザの枠を超えて単体での実行も可能にした。結果として、クライアントアプリケーションの利便性が大きく向上することになった。そしてその真価は、PCだけにとどまらず、さらにモバイルや組み込み機器といった世界にまで波及してきており、クラウド・コンピューティングの価値を引き出すフロントエンドとして重要な要素となっている。
ブラウザの枠を超えるSilverlight 4
ここで2010年4月に公開した最新版「Silverlight 4」が備える機能の中で、注目すべき点を見ていこう。
まずは先にも触れたSilverlightアプリケーションをクライアント端末上で直接実行する「ブラウザ外実行(Out of Browser)」機能(図6-2)だ。これはSilverlightのバージョン3で追加されたもので、新しいSilverlight 4ではさらに大幅な拡張を施した。
具体例を挙げるなら、リクエストが多かったSilverlightアプリケーションからの印刷機能や、マウスのホイールによる入力や操作にも対応した。Webカメラやマイクも利用できる。しかも、映像や音声の入力/記録だけでなく、音声やジェスチャーによる操作といった応用も可能である。
もう1つ挙げておきたいのが、ローカルアプリケーションとの連携機能だ。Microsoft Officeなどのクライアントアプリケーションとの間で、ファイルやデータをやり取りできる。たとえばSilverlightアプリケーションが生成したデータをWord形式のファイルとして出力したり、Excelで作成したファイルをSilverlightアプリケーションが読み込んで表示したりできるようになるわけだ。ドラッグ&ドロップの操作にも対応している。
アプリケ—ション機能部品であるCOMコンポーネントの呼び出し機能も備え、Windows 環境であればOfficeだけではなく他の業務アプリケーションとの連携も図れる。また典型的な業務アプリケーション開発のためのテンプレートである「.NET RIA Services」も併せて提供している。
これまで要望の多かったSilverlightアプリケーション内でのHTMLレンダリング機能も実装し、アプリケ—ション内で「ブラウザコントロール」を使ってWebコンテンツの表示が可能になった。これにより、すでにWebブラウザ用に開発された多くのWebアプリケーションをSilverlightのアプリケーション内で利用することも可能となる。ボタンやテキストボックスといった「コントロール」も充実させ、100以上を用意している。アラビア語やヘブライ語など、右から左へ流れる表記を持つ言語の表示も可能にした。
かつてのWebブラウザのプラグインとしてのレベルでは難しかった機能までカバーするようになった結果、一般のクライアントアプリケーションに備わる操作体系の大部分がSilverlightでも実現できるようになったのである。
多様な表現力で優れた操作性を実現
Silverlightの強みである表現力の高さについても、あらためて整理しておこう。Silverlightは、画像やアニメーションといった高いデザイン性を持った画面要素の再生機能を備える。こうしたビジュアル要素はエンターテインメント分野だけでなく、むしろエンタープライズ分野において重要性が高まっている。情報の量が膨大になるにつれ、情報をより効果的に表現する必要が出てきているからだ。
Silverlightのリリース当初から評価を得ている機能の1つが、メディア再生機能。フルHDのストリーミング再生や、ストリーミング受信中の頭出しができる。さらにメディア配信基盤サーバー「IIS Media Services」との組み合わせで実現する「Smooth Streaming」機能を使えば、クライアント側のプレイヤーの状況と回線の帯域に合わせて映像の品質をフレキシブルに制御できる。全社的なイベントなど回線環境が異なる国内外の様々な拠点への映像配信などで、効果を発揮するだろう。
さらにSilverlight固有の新しい機能もいろいろ追加されている。その代表例の1つが、画像をスムーズに拡大縮小する「Deep Zoom」機能(図6-3)。マウスの操作で大きな範囲から詳細までをシームレスに閲覧可能にする。これにより、Bing Mapsなどの最近のオンライン地図サービスに備わるものと同様の高い操作性を実現できる。たとえば地図だけでなく、業務レポートのグラフや表の表示範囲を、必要に応じてすばやく変更したりといった応用が考えられる。
画面要素としてはコントロール以外に矩形やベジェ曲線といったグラフィカルなパーツも利用でき、それぞれにグラデーションや半透明、テクスチャ貼付といった表現が可能だ。またそれらの要素はプログラムから動的に変更もできるので、入力値によってグラフの表現を変えることも可能だ。
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