[技術解説]

今後のものづくりに向けた提言─企業力を高めるPLM(製品ライフサイクル管理)[前篇]ノウハウのデジタル化

2011年9月15日(木)庄司 良

製品ライフサイクル管理(PLM)とは、設計から製造、販売、保守、サービス停止、そして最後の廃棄に至る製品ライフサイクルの全段階で、情報を基に製品管理に取り組むための統合的なアプローチである。本連載では、企業が製品の利益率を最大化するためのPLMの役割とメリットを明らかにする。

「ものづくり」を支えるものは

これまでの日本経済を支えてきた「ものづくり」。だが内閣府が2011年2月14日に発表した2010年の国内総生産(GDP)は、日本の5兆4742億ドルに対し、中国が5兆8786億ドルとなり、日本は43年ぶりに世界第2位の座から転落し、第3位となった。1人当たりの生産性で見てみると、人口約1億3000万人の日本に対し、約13億人いる中国の生産性は日本の約10分の1だが、成長の勢いは、かつての日本を凌駕している。

多くの日本人にとって、ものづくりとは単純な製造業を指すものではない。日本の伝統や文化に基づいた、職人による高度な製造業を意味している。だがBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)が送り出す工業製品が世界市場を席巻しはじめた現在、日本のものづくりも変革が必要になってきている。高品質な製品を製造するという姿勢はそのままに、より短い納期、より低いコスト、より高い効率を求めなければ、グローバルな競争に打ち勝つことは困難だろう。そのために、これからのものづくりを支える基盤として、ITをフル活用して製品情報の管理に生かす、製品ライフサイクル管理(PLM)のありかたを提言したい。

職人の視点がものづくりを加速する

これまでの情報システムによる業務改革、つまり「IT改革」のほとんどは、スピードや効率の向上、コスト削減が主な目的だった。だがこれらを達成するだけでは、BRICsの各国に早晩追いつかれてしまうだろう。日本がものづくり国家としての先進性を保つためには、日本が本来求め続けてきた価値を、より高い次元で求め続けることが大切だ。つまり、IT改革の次の次元では、「品質」や「顧客満足」を求めなければならない。

日本のものづくりは、ある種の職人芸であり、技術の伝承が重要なポイントとなる。職人芸は他人に教えてもらうものではなく、時間をかけて修練して初めて身につく技芸であり、匠の技とも言えるものだ。そのため、ノウハウとして体系化したり、短期間で人に伝えることが非常に難しいとされてきた。一方、市場やユーザーの要求がめまぐるしく変化する現在、企業には時間をかけて職人を育てる余裕はない。そこで、製品のデザインや設計のノウハウをデジタル化してシステム上に集約し、従業員間で共有する取り組みがなされてきた。はじめは、CADやPDM(製品データ管理)、ナレッジデータベースを導入し、構想やデザイン、設計といった各手順における生成物をデータ化することからはじまった。保存/共有したデータは再利用が可能だが、後の工程で条件が変わったり、新たな条件が加えられたりすれば、設計は変更となる。

製造業におけるシステムのほとんどは、1つの部門内の、ひとまとまりのプロセスの効率化や高度化のみを想定している。職人が材料から完成品まで1人で製品を作り上げるような、全体を見渡す視点はそこにはない。ITによるノウハウの共有は、ほとんどの場合、対象とする工程の後工程からの条件変更を考慮していない。高品質/高品位を求める顧客の視点に立てば、全体的なスピード不足や非効率といった課題にすぐに直面することになる。

いくつかの先進企業が現在取り組みつつあるのは、部門内に閉じないIT化の推進だ。後工程での条件変更が、前工程で作成された設計データにどういった影響をもたらすのか。その要素や要因の1つひとつを解明してロジックに落とし込み、CADなどのシステムにあらかじめ組み込んでいく。これにより、製造のノウハウをより広く共有できるようになる。

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