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フィードバック型から未来予測型の経営へ─空白だった「To-Be」を描き切り、不確実性をチャンスに変えるIT活用を

2011年10月6日(木)西井 保

新興国の台頭などにより企業の競争環境は激変し、過去の延長線上では事業が立ち行かない時代になった。 市場は複雑かつ不確実な要素を増やしていく。それを前提に、変化の兆しをとらえ事業を舵取りする必要がある。 そうした状況下で従来に増して重要度が高まっているのが、社内外や国内外から幅広く情報を収集して、 事業部門や事業展開する市場などに応じた情報分析を可能にする情報系システムである。 本稿では、現状と将来のあるべき姿を描くAs-Is/To-Be分析のポイントを改めて整理すると共に、 「未来予測型」の経営を実践するのに欠かせない情報系システムの構成機能を考察する。

BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の台頭に、韓国やベトナム、フィリピンをはじめとする「Next Eleven」の経済発展─。企業が直面しているマーケットは今まで以上に多極化している。そして、勢いを加速させたグローバル化の流れが、以前と比にならないほどビジネスの不確実性を増やしている。

こうしたビジネス環境下で企業が戦い、勝ち残るためには、変化を先取りした事業の推進が不可欠であることは言うまでもない。自社を取り巻く環境で何が起きたのか、その経緯を正しく把握するだけでなく、これから何が起きようとしているのかまで推察する。つまり、「フィードバック型」から、変化の兆候をとらえてチャンスに変える「未来予測型」の経営への大転換が必要なのだ。

「未来予測型」へのシフトに当たり、企業の情報システム部門が果たすべき役割と、その責務は重い。中でも、情報系システムをいかに進化させられるかは、未来予測型へのシフトの成否を分かつ1つの大きな要素になる。幸い、メモリー上で大量のデータを高速に処理するインメモリー・コンピューティングやビジネス・インテリジェンス(BI)ソフトの機能拡充、高性能なスマートデバイスの登場など、情報系システムを高度化するための道具立てが出そろい、情報システム部門が経営に直接的に貢献できる足場は整ってきた。

以下では、未来予測型の経営を実践するための経営課題の洗い出し方法や、不確実性をチャンスに変える情報システムの要件について紹介する。これまで各所で指摘されてきた内容も含まれているが、いまだ確実な実践に結びついていない点も多々あるため改めて解説したい。

“空白地帯”が多く残る 経営課題の洗い出し

未来予測型の経営は、ビジネス環境の変化によってもたらされるリスク、すなわち経営課題を徹底的に管理し、短期間で変化をチャンスに転換する経営と言い換えることができる。そのためにまず、自社で許容可能なリスクの種類や、最悪のケースが発生した際の最大損失をあらかじめ把握する。そして、いざ変化が発生した際に影響を許容度の範囲内に抑え込みつつ、新たなマーケットへの進出などによる価値を最大限に享受する。

経営の変化対応力の必要性を説く声や、「変化をチャンスに」といった一種の“スローガン”は一昔前からよく耳にする。ところが、肝心の経営課題の洗い出しとリスクの許容度の把握を継続的に実践している企業は、必ずしも多くないのではなかろうか。やや教科書的になるが、ここで改めて経営課題を整理するためのアプローチをみておこう。

本誌の読者であれば、図1は見慣れたチャートだろう。経営課題を整理する際にしばしば用いられるシンプルなもので、縦軸に環境(図1では社内/社外)、横軸に時間軸(同じく過去/未来)を設け、ビジネスの現状(As-Is)と将来の状況(To-Be)をまとめる。

図1 課題整理の例
図1 課題整理の例
社内/社内、過去/未来のマトリックスを使って、現状で把握できている経営情報や実践できている課題、将来的に拡充が必要な経営情報などを整理する。これまでAs-Is/To-Be分析を実践してきた企業でも、図に示す水色の領域にとどまってTo-Beに“空白地帯”が多く残っているケースは珍しくない

例えば「社内×過去」の部分であれば、組織(業績管理の最小単位)別キャッシュフローなどの業績管理や事業ポートフォリオ管理といった経営情報や課題が当てはまる。また、「社外×未来」の部分であれば、市場や信用、投資、事業、カントリーなどのリスクの許容度と最大損失など、今後必要となる経営情報を範囲や粒度、鮮度を踏まえて洗い出す。

この種のチャートを使わないまでも、多くの企業がこれまでにAs-Is/To-Beの分析をしてきた。しかし、たいていの場合、分析対象が「社内×過去」の領域にとどまっている。身近なところでは、損益に関しては実績(過去)と計画(未来)を管理しているが、貸借対照表では実績(過去)だけしか管理してないケースが多い。つまり、経営情報や課題を整理する対象の“空白地帯”が多く残っているのだ。先に、経営課題の洗い出しとリスクの許容度の把握を継続的に実践している企業は必ずしも多くないと述べたのは、そのためである。

価値増加要因と先行指標をTo-Beを拡充する2つの視点に

経営情報や課題の整理対象の“空白地帯”を埋めるうえで、不可欠な2つの視点が「バリュー・ドライバ」と「先行指標」である。

バリュー・ドライバ

バリュー・ドライバとは、ある価値を増加させる主な要因のこと。利益の拡大が目的であるなら、売上高の向上やコストの削減がバリュー・ドライバとなる。

バリュー・ドライバを定義したら、それらの構成要素を「顧客」「競合」「自社(業務プロセスや財務)」「組織/人材」などの切り口でブレークダウンして整理した階層図を作成しておくとよい。例えば、自社の切り口であれば、図2のように企業価値を高めるための「売上拡大」や「コストダウン」といったバリュー・ドライバがある。さらに「コストダウン」の下層には「製造コスト削減」「販管費削減」「研究効率の改善」など、コストダウンの成果を上げるためのカギを握るバリュー・ドライバが存在する。

図2 バリュー・ドライバの階層図の例
図2 バリュー・ドライバの階層図の例
企業価値を増大させるという目的を果たすうえで大きなインパクトがあるバリュー・ドライバとして「売上拡大」「コストダウン」という2種類がある。さらに、「コストダウン」の成果を上げるバリュー・ドライバとして「製造コスト削減」や「販管費削減」が存在する

ここまでブレークダウンして整理することではじめて、As-IsではなくTo-Beを実現するための経営課題の可視化が可能になり、未来予想型の経営に不足している経営情報が浮かび上がってくる。

先行指標

先行指標とは業績や景気の動向に先駆けて現れる兆候のことで、先行きを見通すうえでインパクトがある指標を指す。こう書くとかえって難しく考えてしまうかもしれないが、「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざのように、現象と原因の連鎖のうち原因に当たる部分が先行指標であると考えればよい。

例えば、広告出稿やダイレクトメールの発送など各種マーケティング活動を実施した結果、しばらくして売上が拡大するとする。この場合、マーケティング活動に投じたコストが売上拡大の先行指標となる。

また、製造業などサプライチェーンの川上の企業の設備投資額は、最終消費者への製品・サービスを提供する川下企業にとって、業績の先行指標になり得る。川上の企業の設備投資額が上向けば生産量が増え、市場における製品の流通量が拡大すると予想できるからだ。反対に製造業の設備投資額が停滞すると、川下企業の業績の停滞あるいは低下につながる可能性があることは容易に想像できる。

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