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事例から見えてきたスマートデバイス適用業務領域と効果

人材育成、営業支援、プレゼン、文書管理……事例から見えてきた適用業務領域と効果

2012年1月24日(火)栗原 雅(IT Leaders編集部) 緒方 啓吾(IT Leaders編集部)

すでに国内外100社以上のスマートデバイス導入事例が明らかになっている。 これらを俯瞰してみると、現時点で考えられる適用業務と効果が浮かび上がってくる。 本格稼働を目前に控えた全日本空輸とリコーテクノシステムズの取り組みに加え、 サントリーや野村証券、エーザイなど約50社の事例を一気に総覧する。

 公知のスマートデバイス導入事例をみると、iPadを採用しているケースが圧倒的に多い。だが、この状況は2012年以降、徐々に変わる可能性がある。米ガートナーが2011年4月に発表した調査結果によると、搭載OS別にみた2010年のスマートデバイスの世界シェアはiOSが83.9%だったのに対し、Androidは14.2%だった。しかし、2015年にAndroidは38.6%となり、iOSの47.1%に拮抗してくる。

 すでにiPadの採用を決めて本格展開に向け動き出した企業の中には、「選定段階で最良の選択肢だっただけ。セキュリティや運用の面で要件に合致すれば、今後はAndroid搭載機の採用もあり得る」とする声は少なくない。「Windows 8の登場を待ってスレートPCの検証を始めたい」という企業もある。

 以下では、スマートデバイスの代表的な導入事例として全日本空輸(ANA)とリコーテクノシステムズの2社の取り組みを中心にみていく。続いて、営業や接客、設備保守や決済などバラエティに富んだ国内外事例を紹介する。

全日本空輸(ANA)
経費削減と人材育成の両得狙い、客室乗務員6000人にiPad 2

 「アジアNo.1航空会社」を旗印に、スマートデバイスの大量導入に踏み切るのがANAだ。同社は2012年4月をメドに、約6000人いる客室乗務員全員にiPad 2を配布する。「『8時間以上のバッテリ駆動』という要件に合致したことが、iPad 2採用の決め手の1つになった」(IT推進室の林剛史氏)。ANAはiPad 2の活用により、業務マニュアル管理の効率化によるコスト削減と、高スキル人材の早期育成の両得を狙う。

 航空業界は格安航空会社(LCC)の参入で価格競争が激化している。1座席1キロメートル当たりの「ユニットコスト」でみるとLCCが8円前後なのに対し、ANAは約13円と高い。大手だと1円違えば億円単位で経費が増減すると言われるだけに、「体質改善は喫緊の課題になっている」(林氏)。

 一方、成田空港の発着枠は2009年度の22万回から2014年度に30万回に拡大。羽田空港も国内線を中心に2010年度の30.3万回から2013年度に44.7万回へ発着枠を広げる。国際線・国内線共に強化を狙うANAにとって大きなチャンスだが、果実を手にできるかは、便数の増加に合わせて客室乗務員を育成できるかどうかにかかっている。

印刷コストを1億円削減、人材育成を1年以上短期化

 客室乗務員が携行する業務マニュアルは2カ月に1回の頻度で更新され、改定個所は多いときで100ページに及ぶ。ANAでは現在、改定ページを全員分印刷して、客室乗務員が手作業で自分のファイルのページを差し替えている。機内食の一部変更をはじめとする業務連絡も年間1000件前後あり、そのたびに客室乗務員は自宅などで変更内容を印刷し、3分冊で2.1キロある業務マニュアルと共にキャリーバッグに収めて機内に搭乗している(図3-1)。

図3-1 全日本空輸は6000台のiPad 2を客室乗務員に配布することを決めた
図3-1 全日本空輸は6000台のiPad 2を客室乗務員に配布することを決めた

 ANAはiPad 2の導入を機にマニュアル管理業務を抜本的に変更する。具体的には、業務マニュアルをPDF形式で電子化してサーバーに置く。改定があれば客室乗務員がiPad 2を起動した際、画面に並んだマニュアルのアイコンに「New」と表示して知らせ、指でタップすることで無線LANや携帯電話の3G回線を介して更新ページをダウンロードできるようにする。これにより印刷代だけで1億円を削減できるとみている。

 高スキル人材の早期育成についてはPDF版の教材に加え、ギャレー(機内の調理室)での作業手順や機材の操作方法、ノウハウを動画で紹介する教材を用意して、客室乗務員の自己学習機会を創出する。集合形式の座学が主体の今は、「ボーイング777」などANAが扱う6機種について、座席クラスや路線で異なるサービス内容を習得するのに2年10カ月を要しているが、iPad 2の活用で1年9カ月にまで短縮させる。

 なお、本誌の調べでは、ANAはパイロットが所属する運行本部でもスマートデバイスの活用を検討しており、Windowsを搭載したスレートPCも候補の1つに挙がっている。

リコーテクノシステムズ
営業効率化に向けiPad 2導入、フィールド業務にも展開へ

 「スマートデバイスの導入検討会議は1年半で29回に及んだ」。こう話すのは、事務機やシステム機器の運用保守サービスを提供するリコーテクノシステムズの野澤浩一執行役員である。同社は一部の社員にiPadやiPhoneを配布し、2010年12月からグループウェア「ノーツ」で構築した業務システムの操作性や社外からのアクセス性、セキュリティ対策の検証を重ねてきた。そしてこのほど、2012年4月にカットオーバー予定の新SFA(営業支援)システムをiPad 2から利用できるようにする方針を固めた。

 新SFAシステムは、顧客への提案活動を主に行う「コーディネータ(営業担当者)」向けのシステムである。顧客への訪問予定や提案活動中の案件を統合管理し、社内外から情報を登録・確認するためにiPad 2を用いる。まずはコーディネータのマネージャを中心に利用を開始し、将来的には最大で約1000人規模にまで利用者数を拡大して営業力の底上げを図る。

 これと並行して、同社は顧客先でネットワーク機器などの保守にあたるフィールドサポート業務でのスマートデバイス活用も検討している。例えば、スマートデバイスが備えるGPS機能で集めた約4000人のカスタマーエンジニア(CE)の位置情報と、各CEがスマートデバイスから伝送してくる作業ステータス情報を関連付けて管理し、CE手配の最適化に役立てたい考え。

 「CEの作業負担を少しでも軽くしたい」。野澤執行役員の頭の中には、作業完了時にCEが顧客から書類にもらうサインを電子化する構想もある。CEは修理工具や交換部品のほかに、ノートパソコンや小型プリンタを抱えて顧客を訪問する。保守を終えると所定の書類を現地で印刷し、顧客の担当者からサインをもらう。ペン入力による電子署名に切り替えることができれば、CEはプリンタを携行しなくて済むようになる。

 ただし、CE向けにはiPad以外を含め、改めて機器を選定する。「ネットワーク機器の設定を確認するにはWindows環境が必要になる」(野澤執行役員)。それだけに「Windows 8が動くスレートPCへの期待は大きい」(同)。

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