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IBMの年次イベント「IMPACT2012」~主役を担ったのは「Pure Application Systems」、 だがモバイルやBPM関連で地道だが重要な発表も
2012年5月10日(木)
主役はWebSphereではなく、それを組み込んだPure Application Systems──。米IBMは2012年4月29日、米ラスベガスでミドルウェア「WebSphere」の年次カンファレンス「IMPACT2012」を開催した。昨年より2000人近く多い8500人の参加者(多くが約20万円を支払った有料参加者)、600ものセッション、50弱の出展社など、単一製品ラインのカンファレンスとしては有数の規模と言っていい。
ただし今回は会期に合わせたソフトウェアの新製品発表は少なく、わずかに3件に留まった。理由は明快。4月12日に世界同時発表されたPure Systemsが”目玉”であり、IMPACT2012はお披露目の場という意味合いが強かったからだ。Pure Systems2機種のうち、PaaS向けのPure Application Systemsの開発にはWebSphereの担当技術者の多くが関わっていたことも大きいと見られる。以下、IMPACT2012におけるPure Application Systemsの打ち出しの模様と、3件の発表内容を見ていく。
基調講演の4分の1を費やして
Pure Application Systemsをアピール
実際、「Change the Game(経営革新に挑むだけではなく、ITでゲーム=競争のあり方を変えよう)」と題した初日の基調講演では、2時間強のうち30分の時間を費やしてPure Application Systemsの特徴や利点を説明した。具体的には、派手な音楽とフラッシュライトを浴びてPure Application Systemsが床下からせり上がるように演台に出現(写真1)。チーフ・アーキテクトのJason McGee氏が「米フォレスターリサーチによれば、ITプロジェクトの4分の1が予算オーバー、3分の1がスケジュール遅れだ。Pure Systemsはこういった問題を解消する。アプライアンスのように機能をビルトインしながら、(特定用途向けではなく)様々なワークロードを稼働可能だ。クラウドコンピューティングの弾力性も併せ持つ」と特徴を強調した。
写真1 会場で派手な演出とともに登場したPure Application Systems
その上で「従来、数週間を要していた基盤設計から導入、設定を、わずか4時間で終えられる」(同)というPure Systemsの特徴を直感的に示すため、数分間のビデオを上映した。マシンルームに運び込まれたPure Systemsの梱包を解き、ケーブルなどを配線。そして起動して設定するといった、シンプルというか、あまりにも理想的に進み過ぎる内容だが、説得力は強いようで会場から万雷の拍手を浴びていた。現時点ではYoutubeにはアップされていないようだが、なかなかよくできたビデオなので見て頂きたい。そのうちアップされるはずだ。
それだけではない。米OneTree Solutionsの「PriceLens」 という価格設定のためのアプリを使ったデモも実施。Pure Application Systemsではスケーリングやサービスレベル、高可用性などに関する設定、WebSphereとDB2上にPriceLensをインストールし、設定する作業をなどが合計8分で済むことをアピールした。当然だが、この時間には」WebSphereのクラスタリングやDB2の設定とチューニング、プロキシーやキャッシングの設定、ストレージとネットワークの設定なども含まれている。
「運用段階ではソフトウェアのバグやハード障害を監視。ハード障害があればWebSphereのノードは自動的に移動し、障害が起きたハードをホットスワップすればテストを自動実行し、リソースプールに加える」(同)。展示会場でもPure Application Systemsを特別待遇。会場入り口の、最も人通りが多い場所に特設コーナーを設けて、認知拡大と説明に努めていた。
アプリ開発から管理運用まで
モバイル活用のソリューションを強化
しかし、だからといってWebSphereを中心とするミドルウェア製品の存在が小さくなったわけではない。むしろ強化されているのが実際のところだ。それが分かるのが、今回発表されたものの1つである「Mobile Foundation」。米IBMでミドルウェア製品のジェネラルマネジャーを務めるマリー・ウィック氏は、モバイルに力を注ぐ理由をこう語る。「皆がホームページで満足していた10年前、IBMは”eビジネス”を提唱し、今ではそれが当たり前になった。モバイルは、かつてのホームページと同じ状況にある。仕事のやり方を、ビジネスを変えるのがモバイルだ」。つまり今はモバイルの夜明け前。「2,3年後にはまったく違う景色が広がっている」(同)との認識である。
そこでIBMは買収や自社開発を通じて強化してきたモバイル関連の包括的なソリューション(製品)を「Mobile Foundation(=MF)」というネーミングのもとに集大成した(写真2)。そのMFの中核製品が1月に買収した「Worklight」。モバイルアプリの開発環境、既存のWebをモバイル対応にするサーバーサイドのソフト、モバイルデバイスにインストールするエージェント・ソフトなどから成っており、いわゆる「Write once、run anywhere」を実現する。現時点ではiOS、Andorid、Blackberryの3機種に対応している。
写真2 モバイル関連の包括的なソリューションを「Mobile Foundation」というネーミングのもとに集大成した
MFの2番目の要素が「WebSphere CastIron」。いわゆるEAIの延長線上にあるソフトであり、モバイル環境とクラウド、バックエンドシステムのデータ連携を担う。XMLを高速に処理するSOAアプライアンス製品のDataPower、websphereや同MQなども、モバイル対応にした。3番目は「Endpoint Manager」。MDM(モバイルデバイス管理)ツールとして、モバイル活用の前提条件であるセキュリティを維持するためのソリューションである(なおEndpoint Managerそのものは、モバイル専用ではなく、サーバーやPCも管理する)。
最後がモバイル環境の構築・活用に向けたサービス。IBMは10週間の間に企業と共同作業し、何らかの成果を出す「Quick Win Pilot」と呼ぶサービスを提供している。これをモバイル戦略の策定や展開に関して提供する考えだ。「10週間のパイロットプロジェクトの終わりには、IBMのモバイル技術で定義されたユースケースをインプリメントでき、目に見える結果を得られる」(リリースより)。こうして見る限り、モバイルを企業で活用するための製品の充実度では、MFは一歩も2歩も抜きんでているといえるだろう。
webSphereはバージョン8.5に
BPM、ODM関連製品を大幅に拡充
ほかの発表にも触れておこう。IMPACT2012の中心であり、上記MFを含めたミドルウェア製品の基盤である「WebSphere Application Server」は、バージョン8.5がリリースされた(これまでのバージョンは8、写真3)。特徴は(1)高速化。SPECjというベンチマークテストで他社の同等製品に比べ16%以上速い、(2)組み込み型展開が可能。フットプリントを大幅に小さくした、(3)仮想化機能の組み込み。プライベートクラウドに対応、の3点である。「モバイル、ソーシャルでトランザクション量は爆発的に増えている。性能の強化は重要だ」と、“16%”の意味をマリー・ウィック氏は強調する。
写真3 WebSphere Application Serverの新版についても言及があった
WebSphereの周辺製品であるBPM(ビジネスプロセスマネジメント)製品も、整理/統合した(写真4)。個々に見ると20以上あった製品をスィートにまとめ、現在では「IBM Business Process Manager(BPM)」、「IBM Operational Decision Mnagement(ODM)」の2つにした(実際には、これ以外にBlueWorks LiveというSaaSもある)。「BPMの領域では元々あった製品に加え、Lombardiなどを買収してきていて整理・統合する必要があった。単にプロセスを自動化するのではなく、人が行う処理の記録を残すこと。これが今日におけるBPMの最大のポイントだ」(同社)。
写真4 BPM関連製品についても、整理/統合の発表があった
IBM ODMは、BPMの一部とされてきたルールベース管理ツールをまとめたもの。「意思決定支援には業務におけるものと、分析的な、つまり非定型業務におけるものがある。IBM ODMは前者の業務プロセスにおける意思決定をサポートする。後者の製品は例えばSPSSを指す」。つまりこれまで業務担当者任せにしてきた判断を伴う処理を支援するのがODMだ。日本では聞き慣れない言葉だが、米国でも同様という。しかしIBMは今後、重要になる分野と見ていて、普及啓蒙に力を入れる考えだ。
PureSystemsに絡む発表もあった。1つが「専門知識のパターン(Pattern of Expretize)」をユーザーやパートナーが作成できる「Virtual Pattern Kit」。IBMやソフトウェア製品ベンダーが提供する既存のパターンでは不十分な場合に、新たなパターンを作り、直接、Pure Systemsに組み込むことができる。これまで手動で人による管理が必要だったITに関わるタスクを自動化できるという。
もう1つがPure Systemsの環境を90日間、無償で試用できる「Pure Systems Cloud Trial」だ。実態はIBMのクラウドサービス「Smartcloud」上にPure Systemsの環境を用意したもので、サーバーのプロビジョニングやOS、ミドルウェアの設定、ソフトウェア調達などもすべて不要な、サンドボックス(試験環境)である。利用者は必要なアプリをこの上で稼働させ、Pure Systemsの利点や課題をチェックできる。