昨今、ソーシャルメディアの発展やITの進化を背景に、構造化されていない大量のデータが発生するようになった。 そうしたデータを効果的に蓄積・分析して、経営に有用な情報を得ようという取り組みが世界で急激に進んでいる。 本稿では、今、最も注目が高まりつつあるキーワードの1つである「ビッグデータ」の全体像を整理すると共に、 日本におけるデータ活用の実態や課題、ビッグデータ時代の本格到来への備えを考察する。 ※本記事は野村総合研究所発行の「ITソリューションフロンティア」2012年3月号 Vol.29 No.3の記事を一部編集して掲載しています。
2011年あたりから急に注目されるようになったITのキーワードに“ビッグデータ”がある。ビッグデータとは、一般的に「既存の技術では管理が困難なデータのまとまり」と定義されることが多い。
ビッグデータを管理するのが困難な理由は、3つのキーワード「Volume(量)」「Variety(多様性)」「Velocity(発生速度や更新頻度)」で表わされるビッグデータの特性にある。ITで処理されるデータの量は飛躍的に増えており、その種類もソーシャルメディア上のテキストデータから映像や音声、センサーデータなどと多様である。加えて「Suica」や「PASMO」など交通系ICカードの履歴データのように、量だけでなく速度や頻度が重要なデータもある。ビッグデータというとデータの量にだけ目が向きがちであるが、このようなデータの性質についても着目する必要がある。
しかし、これだけでは現在のビッグデータをめぐる問題のすべてをとらえることはできない。野村総合研究所(NRI)では、ビッグデータをより広く定義する必要があると考えている。
具体的には、ビッグデータとは「Volume、Variety、Velocity(3V)の面で管理が困難なデータ、およびそれらを蓄積・処理・分析するための技術、さらにデータの本質的な意味を洞察できる人材や組織」を含む包括的な概念である(図1)。
以下では、主にビッグデータを蓄積・処理・分析するための技術と、ビッグデータから有用な意味を引き出すための人材・組織という側面から、ビッグデータ活用の現状や課題、対応策について考えてみたい。
日本と米国で対象的なデータ分析の効果の実感
「データを分析して事業に関する意思決定に有用な意味や情報を引き出す」と聞くと、BI(ビジネスインテリジェンス)が思い浮かぶのではないだろうか。BIは、地域別や商品別の売上など、あらかじめ決められた条件に基づいて財務データを中心に集計や分析を行い、定型レポートを出力するという使い方が普通である。
これに対してビッグデータの場合は、あらかじめデータの種類を限定せず、入手可能なあらゆるデータを用いて今後売れるものを予測する、といった探索的な色合いが濃い。単純な例としては、自社が保有する売上データとマイクロブログなどと呼ばれる短文投稿サイト「Twitter」の書き込みのような外部のデータを併せて分析し、今後売上が伸びるであろう商品を事前に察知するといった使い方が挙げられる。
BIもビッグデータも、データを分析して事業に活用するという点では共通しており、BIの延長線上にビッグデータを位置付けることもできる。そこで今後のビッグデータの普及と拡大の可能性を示唆するものとして、日本でのBIの活用実態を見てみよう。
図2に示したのは、NRIが日米のユーザー企業の情報システム部門勤務者に対してBIツールの導入効果について尋ねたアンケート調査の結果である。これを見ると、日本の場合は「期待以上」と回答した人はわずかに1.8%であり、「ほぼ期待どおり」とした人と合わせても、効果があると感じている人は約3割にとどまる。反対に「どちらともいえない」「やや期待外れ」「期待外れ」を合わせて、思うような効果が得られていないと感じている人が約7割にも上っている。一方、米国の場合は日本とは正反対の結果となっており、「期待以上」が25.0%、「ほぼ期待どおり」が49.0%と、7割以上の人が導入効果を感じている。
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >
- ERP導入企業は34.8%、経営改革や業績管理に活用する動きも─ERP研究推進フォーラム/IT Leaders共同調査(2013/02/07)
- ツールの効果的活用で機能品質高め─テスト工程のあり方を見つめ直す(2013/01/29)
- IaaSを利用する際、これだけは押さえておきたいセキュリティのツボ(2012/10/18)
- これからIT部門が育てるべき人材像とは(2012/08/24)
- ベテラン社員に技術やノウハウが偏在、情報システム部門の技能継承が課題に(2012/07/19)