ベンダ3社が概観するビッグデータ時代のストレージ 政治も経済も混迷した状態のまま、多くの日本企業にとって厳しかった2012年が終わろうとしている。ビジネスを取り巻く変化のスピードは激しさを増しており、競争力を高めていくには俊敏で柔軟な変化への対応が求められる。そしてビジネスの変化にあわせて企業のITインフラもいま、大きな転換点を迎えている。ここで新しい時代を見据えたインフラを構築できるかがどうかが、ビジネスの成功を左右するといっても過言ではないだろう。
とくにここ1、2年で大きく変わったのが"データ"の存在感である。ビッグデータという言葉に象徴されるように、企業が取り扱うべきデータはその量も種類も増加の一途をたどっており、そのデータをビジネスにどう活かすかについて、毎日のようにメディアやセミナーで議論されている。こうしたデータドリブンなトレンドにあって、現在注目されているのが、そのデータを格納する役割を担うストレージだ。かつてないほど大量で多様で、そして発生頻度の高いデータの山を、ビジネスに活かしていく、そのためにはどんなストレージが必要なのか。ストレージベンダ3社によるパネルトークから、新時代のストレージのあるべき姿を探っていきたい。
パネルトーク登壇者
- 日本IBM システム製品事業 ストレージ・テクニカル・セールス 部長 村田実氏
- ネットアップ 技術本部 本部長 近藤正孝氏
- レッドハット マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャ 石井明氏
- IT Leaders 副編集長 川上潤司(モデレータ)
川上:皆さんは直接、お客様の声を聞く機会も多いと思いますが、現在、ユーザー企業の皆さんはどんなストレージを求める傾向にあるのでしょうか。
村田:正直、すごく悩まれているお客様が少なくありません。ストレージ以外にもIBMは数多くのソリューションを提供していますが、「既存の環境とも相性がいい最適なストレージを選んでほしい」というご要望をいただくことが増えています。IBMとしても難しい宿題をいただいている感じですね。
近藤:IBMさんと違って当社はストレージおよびデータマネジメントの専業ベンダーなので、その最適解を提供するのですが、ある程度以上の規模のお客様の場合、ストレージの利用スタイルも多岐に渡ります。そして用途が多いからこそ、我々はなるべくシンプルで、統一されたストレージソリューションをお勧めしています。
石井:レッドハットはストレージベンダーとしては新参者ですが、考え方としてはシンプル化していくというネットアップさんの意見に賛成です。テクノロジー的に標準化されていたほうが拡張しやすいのでシンプル化を図るのは理にかなっていると言えます。データの価値は企業ごとによって異なるので、ビジネスが攻めに転じたとき、どのデータで闘っていくのか、それはどんなストレージに投資するかということにつながります。ただし、ハードウェアだけでは競争の差異化要因にはなりません。ビジネス観点での主役はデータだと思っています。
川上:データが主役、ということですが、最近ではデータの質に応じてディスクを使いわけるという技術を採用している製品も多いようです。このとき何を基準にしてデータを振り分けていくのか、いわゆる"データの価値の棚卸し"作業はなかなか難しいと思うのですが。
村田:いちばん難しいのは最初のステップですね。たとえば先ほど挙がったシンプル化を進めていくなら、何をシンプルにしていくかという切り口から始めるといいかもしれません。ただこの切り口をどこにするかというのはなかなか悩ましい問題です。インフラ資産の棚卸しはやってきた企業でも、データの価値の棚卸しに手をつけているところは少ないのではないでしょうか。正直、人手によるデータの振り分けはかなり難易度が高いと思います。IBMではデータに関するアセスメントサービスも提供しています。実際にリアルタイムでデータを振り分けるのならやはりストレージの自動化/最適化機能を活用していくべきでしょう。
近藤:ビジネスが攻めに転じるときのストレージ、という話題が出ましたが、攻めに転じるためにもITインフラを事業の重要度に応じてプライベートクラウド化しておくことが理想的ですね。まず統合する業務システムそれぞれに対して対応する事業の売上などから重要度で分類し、その後、対応するデータの種類や特性から、DR、BCPをやる、やらない等を決めるべきです。そしてサービスカタログとしてまとめて行き、プライベートクラウド化していくのが良いでしょう。実際、ここ1年でプライベートクラウド化は大きく進んだと言えます。プライベートクラウドではなるべくシンプルなアーキテクチャにしておいたほうが将来的な拡張に対応しやすくなるので、ストレージもやはりその路線にしておいたほうが賢明です。
川上:つまりITインフラ全体のグランドデザインをシンプル化するとしたら、ストレージもそれにあわせるほうが合理的だと。
村田:そう思います。グランドデザインを描いてからストレージの位置づけを決め、それから選択したほうがいい。
近藤:同感です。攻めのIT基盤を構築するなら、やはりグランドデザインをきっちり決めることは重要になります。まず全体の大枠を決める。ストレージ選びはその次の段階ですね。
川上:ここで話題をビッグデータに移したいと思います。いまやバズワードとして聞かない日はないビッグデータですが、真剣に取り組んでいこうと考えている日本企業は少なくありません。ビッグデータ時代のストレージはどうあるべきなのか、ITベンーの立場からご意見をお聞かせください。
村田:確かにこれまで予想もしなかった時代を迎えていると実感します。お客様からは「データ量がペタバイトを超えたらどうすればいいのか?」といったご質問をいただくことがありますが、データの量よりも情報の活用のステージによって異なってくると思います。たとえば分析に活用するならスピードが必要になるし、単純にストアすることだけが目的ならスピードはそれほど求められない。データが大容量だからストレージも大容量が必要と単純に決めつけるのは避けたほうがよいですね。
近藤:ネットアップではビッグデータという言葉が出てくると「A=Analytics(分析)」「B=Bandwidth(帯域幅)」「C=Contents(コンテンツ)」という3つのポイントに沿って考えるようにしています。これらすべてのデータをプライベートクラウドに載せるというのは現実的ではありません。どのデータをどこに配置するか、これもストレージを選択する際のチェックポイントとなります。
石井:レッドハットはすべてのストレージ領域をカバーするのではなく、コモデティ化したハードウェア上で当社のソフトウェア製品によってストレージソリューションを提供するというスタイルなので、自然と範囲は限られます。その中にあって、ビッグデータに関しては、買収したGlusterFSの技術を核とした、低コストでスケーラブルなソリューションを提供しています。従来は、求める結果を事前に明確化してシステムを構築する、というアプローチが一般的でしたが、ビッグデータを活用するシステムでは、どのような効果を出せるのか、試行錯誤を繰り返し改善していく新たなアプローチが主流となるでしょう。容量に関してもパフォーマンスに関しても、システム構築開始時に要件を確定せずに、小さく始める事が多いようです。少なくとも従来のITのトレンドとは違ったアプローチで臨む必要があると思っています。
村田:ビッグデータに対して先行きが見えてこないというのはよくわかります。お客様も同様で、いくらビッグデータと世間が騒いでいても、最初から大きな箱を買うというわけではないようです。むしろ小さく始めて徐々にスケールしていきたいという傾向が強いですね。ただ同時に、1つの筐体で済ませる垂直統合型製品への注目度も最近は高くなってきており、どこで線引するのかは難しいところです。
川上:ベンダーもユーザ企業もビッグデータに関しては"今までとは違う異質なもの"という認識が強いようですね。しかし、限られたIT予算の中ではストレージにかけられる費用も決まっており、リーズナブルな選択をしていかなければならない企業がほとんどかと思います。ビッグデータ時代のストレージコスト削減のために、ベンダーとしてどんな提案をされているのでしょうか。
村田:テクノロジーではストレージの自律化、つまり自動化と最適化を進めていく方向にあります。人手を介してテラバイト級のデータを最適化することはできません。コスト削減を考えるなら、高速な自動化/最適化は欠かせないのです。もしストレージのパフォーマンスを「なんとなく遅いな」と感じるようになったら、それは最適化が崩れててきているサインだといえるでしょう。
近藤:人手を介さない最適化という面ではまったく同意です。ストレージの機能として標準化すべきだとも思いますね。自動化できるところは可能な限り自動化しなければコストは下がりません。プライベートクラウドにおけるセルフサービスなどもまずは自動化ありきですから。
石井:当社の技術では、やはり大量の非構造化データを扱える分散ファイルシステムのGlusterFSが他社との差異化要因になります。ハードウェアはいつかは必ず壊れますが、壊れないようにではなく、壊れてもサービスへの影響を最小限にする、というアプローチが必要なのではないでしょうか。過剰になりがちなハードウェアコストで実現するのはなく、柔軟なソフトウェアで実現する方法も現実になりつつあります。
川上:ビッグデータはストレージのあり方を大きく変えると言われていますが、今後、ストレージ技術はどんな方向に進んでいくとお考えでしょうか。
村田:ストレージ単体ではできない領域へのニーズが増えてくると思っています。今後、ストレージはOSとのさらに密な連携が求められるようになるのではないでしょうか。サーバー側に数テラバイトのメモリーが乗ることが当たり前になってくるので、アプリケーション側のバッファ領域を使うようにするとか、そういったサーバーと蜜になった技術が求められるようになると見ています。
近藤:先ほどお話しましたように、ビッグデータといっても、分析系、大規模なコンテンツリポジトリ系やHPC系などの用途がありますが、たとえば絶対量的には2桁のペタバイト級のデータを1つのシステムあるいはファイルシステムに格納できたり、グリッド的に分散配置できるようなものも必要となるでしょう。分析系、HPC系であれば、高密度でレスポンスタイムの速いストレージが有利になると思います。いずれにしても、このような構造化、非構造化データ含め、できるだけシンプルなアーキテクチャで対応できる技術が求められていくはずです。さらにフラッシュとディスクの共存も増えてくるのではないでしょうか。
石井:ITインフラのクラウド移行が進むのは間違いないでしょうが、エンタープライズのお客様がオンプレミスのデータすべてをクラウドに移すということはありえないでしょう。一方で、オンプレミスとクラウドの間の敷居はどんどんなくなってきているので、そうした移行期にストレージをどう使い分けていくべきなのか、お客様のメリットを当社の技術で訴求していければと考えています。
川上:ありがとうございました。
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