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[セミナー「グローバル時代の製造業戦略」レポート]

ITが社会基盤となる大局観を持ち、サービスと組み合わせた「価値の製造業」を目指す

セミナー「グローバル時代の製造業戦略」レポート Part1

2013年3月29日(金)

2013年2月14日、株式会社インターネットイニシアティブと株式会社ブリスコラの主催で、「グローバル時代の製造業戦略 〜 メイドインジャパン逆襲のストーリー 〜」というセミナーが都内で開催された。日本のものづくり産業の再起には、どんなIT戦略が必要となるのか。当日のセッションの内容をレポートする。日本の経済成長を牽引してきた製造業が厳しい局面に立たされている。その背景をどう整理してとらえるべきか、価値を生んで成長を維持していくにはどんなビジョンを描くべきなのか。セミナーの前半では、ものづくり産業とIT産業のいずれにも造詣が深い講演者が登壇し、興味深い論旨を展開した。

保条英司氏 株式会社インターネットイニシアティブ
専務取締役
保条 英司氏

「戦後の日本経済が製造業に支えられてきたのは周知の事実。今後もその強さをいかんなく発揮してほしいと願うからこそ、株式会社ブリスコラと共にこのセミナーを企画した」──。セミナーの冒頭、株式会社インターネットイニシアティブ専務取締役の保条英司氏が来場者にこう挨拶した。

保条氏は、現在のITトレンドを語る上で、2社の事例を紹介。1つはグローバル展開している製造業のケースだ。その会社は、生産管理のアプリケーションパッケージを動かすために、かつては数十台のUNIXサーバーを運用していた。仮想化技術を使って統合した結果、冗長性も含めて数台で対処できているという。

もう1つはオンラインゲームを展開する企業の例。ゲームタイトルがヒットすると、20万〜30万人のユーザーが同時集中的にアクセスしてくることは珍しくない。アバターや課金の管理なども含め、すべてをまかなうために、仮想化していない専有サーバーを数百台も使っているという。

「広帯域ネットワークと高性能CPUを搭載したソーシャルデバイスが巷に溢れる環境が新たに出現したことで、仮想化技術の恩恵を受けて既存システム運用を効率化する一方で、大量の処理をさばくために専有サーバーを“ブン回したい”とする企業もこれから増えてくる。そうした2つの方向性があると認識しており、それらに十分に応えられるクラウドサービスを弊社は提供していく」と保条氏。リアルタイム処理やHPCなども視野に、今後も着々とラインナップを拡充していく姿勢をあらためて強調した。

緻密な製造技術、ずば抜けた品質、キメ細かいアフターフォロー…。“メイドインジャパン”ならではの特徴は枚挙に暇がないが、世の中で今、何が起きているか、これから何が起きようとしているかといったことの理解を欠いては、ビジネスは立ち行かなくなる。そうした示唆に富む内容に、来場者は熱心に耳を傾けた。

ITが社会の隅々に浸透する時代、それに最適化したビジネスを考える

岩野和生氏 三菱商事株式会社
ビジネスサービス部門 顧問
岩野 和生氏

最初に登壇したのが、三菱商事株式会社 ビジネスサービス部門 顧問の岩野 和生氏である。まず問題提起したのは、ITの進歩と産業、社会の関わりを大局的にとらえることの必要性である。

これまで我々が生活を営む世界を技術の面からとらえると、コンピューティング処理される「サイバーの世界」と、実際のモノとして存在する「物理の世界」とがあった。一方では「法人(企業)向け」と「個人向け」という区分けも厳然とあった。そのいずれの境界も壁が崩れ、融合に向かっていると岩野氏は指摘する。

後押ししているのがITの革新的進歩である。今、世界中でインターネットを使う人は20億とも30億人とも言われる。アクティブな携帯電話は40億台に達するとの統計もある。単に情報を受け取るだけの存在ではなく、すべてがセンサーデバイスとして機能し得る。人々がソーシャルメディアを使えば“感情”のセンサーであるし、スマートフォン内蔵のGPSが位置センサーになることは周知の通りだ。方や、プロセサ、メモリー、ストレージ…さまざまな要素技術も格段の進化を遂げ、コンピューティング能力は加速度的に向上している。

それらを有機的に統合しようとのアプローチは自然の流れであり、その先にはITが社会システム基盤として機能する時代が垣間見えてくる 。CPS(サイバー・フィジカル・システムズ)という言葉があるように、膨大なデータを適切に処理していくことで、実社会をより高度、そして快適で便利に、つまりは豊かな社会を創出しようという大きなトレンドがある。

スマートデバイスやソーシャル、クラウドサービス…。昨今、こうした先進的なテクノロジーを先行して利活用するのはコンシューマ(=個人)だったが、企業SNSしかりBYOD(私物端末のビジネス利用)しかり、企業も積極的に取り入れていこうとの動きも見逃せない。便利で生産性の高いツールは、セキュリティや説明責任(アカウンタビリティー)などの課題を何としてでも乗り越えて、使い込んでいくのが理にかなっている。

結果、我々の実生活や経済活動を支える基盤として、最新ITが津々浦々まで行き渡る。この状況下、社会コストを下げるには、データの標準化やプロセスのコンポーネント化といった「オープン化」の取り組みが不可欠なことは言を俟たない。企業活動も、ITが支える社会基盤の上で展開されることとなり、「それを前提としたビジネスモデルに組み替えていくことが喫緊の課題である」と岩野氏は会場に訴求した。

ここに氏が「2020年に向けて起きること」として列挙した内容を記しておく。

  • 個人、企業、環境の一体化が起きる
  • クラウドが社会、ビジネスのサービス基盤になる
  • イノベーションが加速される
    • 標準化、コンポーネント化の促進
    • “Data”と“Design”
  • 集合知の増進、新しいコラボレーションの形

1つ1つを詳述するスペースはないが、とにもかくにもITがもたらす社会構造の変化に敏感になり、それに最適化した取り組みが欠かせないとのメッセージだ。こと製造業にとってみれば、「モノそのものでは難しく、ソリューションの中に埋め込んではじめて価値を提供し得る時代であることを認識しなければならない」(岩野氏)と檄を飛ばす。クラウドを巧みに活用するのはもちろん、コンポーネント化、統合化、データ活用といった知恵を結集して“価値の製造業”に転身することが求められている。

機動力に富んだビジネスの展開に、クラウド基盤は不可欠となる

今岡裕輔氏 株式会社ブリスコラ
クラウド戦略コンサルティング本部
統括本部長
今岡 裕輔氏

続いて壇上に立ったのが、株式会社ブリスコラでクラウド戦略コンサルティング本部 統括本部長を務める今岡 裕輔氏だ。同社はクラウドコンピューティングに特化した事業企画・開発を手がける企業である。

氏は、日本の製造業の成長戦略として以下の3つを挙げた。

  1. スマイルカーブの両端へのフォーカス
  2. ロングテールを捉える新たなエコシステムの確立
  3. データを活用した新サービスの創出

「スマイルカーブ」とは、例えば製造業において「企画」→「研究開発」→「設計」→「組み立て」→「販売・流通」→「アフターサービス」と続く一連のものづくりの工程を横軸にとり、縦軸に付加価値(=収益)をプロットすると、スマイルマークの「口」のように中央の組み立ての部分が低くなって両端が上昇する軌跡を描くことを示したものだ。

製造やアセンブルの領域は労働コストの安い新興国の成長の舞台となっているのは周知の通り。ここでの勝負は体力消耗型のコスト競争に巻き込まれやすい。「エンドトゥエンドで工程のすべてを内製化しようとの発想を改め、付加価値の高い分野にフォーカスすると共に、それが低い分野は新興国と協業する。この“オープン×クローズ ハイブリッド型”が望ましい」(今岡氏)。

市場のどこを狙っていくかという観点では、ボリュームゾーンをターゲットとするのが王道であり、今後も基本は変わりない。ただし「製造プロセスのデジタル化やモジュール化が進みつつある中では、市場の小さな隙間を埋めるものづくりのプレーヤー、いわゆる“メイカーズ”が出現しており、彼ら彼女らとどのようにコラボレーションしていくのかは重要なテーマとなる」と今岡氏は指摘する。

例えば、自社の製造関連設備をメイカーズにサービスとして提供する、自社のプロセスにメイカーズを取り込む、アフターサービスなどメイカーズでは対処しきれない業務を代行する…といった協調のエコシステムの方向性が見えてくる。

先の岩野氏が言及していたように、産業のサービスシフトが進む中、「モノそのものだけでは付加価値を提供しにくい」(今岡氏)という点で認識は一致している。「サービスと一体化した価値を創っていく発想が不可欠。売り切りではなくランニングビジネスを念頭に置くことも重要性を増している」と強調する。今岡氏は、建機に内蔵したセンサーデータを基に遠隔モニタリングし、そのデータを活用することで新たなサービスを手がけるコマツの例などを会場に示した。

こうした機動力に富んだビジネスを展開する上で、クラウドの活用が1つの要諦となると今岡氏。処理能力の伸縮性、データの連携、ネットワークの動的な最適化など、さまざまな視点でクラウドのポテンシャルを説き、自社システムのグランドデザインに具体的にどう組み入れていくかを積極的に検討していかなければならないと訴えた。

◇◇◇

両者が講演の中で共通して触れていた著作に、「MAKERS─21世紀の産業革命が始まる」(クリス・アンダーソン著)がある。Webを起点に繰り広げられてきた社会的変化が製造業にも波及し、ものづくりに新たな世界感を創り出すとの論旨が展開されている。今を取り巻く新潮流を知る上で、大きな手がかりとなりそうだ。

以下より、今岡氏の講演資料
「製造業の成長戦略を加速する五つのIT戦略テーマ
〜未来を創るテクノロジ活用戦略〜」

をダウンロードしてご覧いただけます。

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セミナー「グローバル時代の製造業戦略」レポート Part2
“持たざるプライベートクラウド”が大競争時代の経営基盤を支える

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