[市場動向]

利益の最大化に向け、S&OPに取り組む

2013年8月29日(木)折川 忠弘(IT Leaders編集部)

グローバル化の加速や激変する市場環境の中で、事業の損益をいかに正確に読み取るか。そこで重要となる取り組みの1つに「S&OP(Sales & Operations Planning:販売・業務遂行計画)」がある。最適な意思決定を導き出すためにS&OPに関心を寄せるグローバル製造業の現状と課題、関連ツールの動きなどをまとめた。

 国内の長引く景気低迷を受け、ビジネスの軸足を海外に移す企業が増えている。海外売上高比率の割合を高め、国内市場に依存しない事業体質にシフトしようというのだ。特に製造業の中には、安価な人件費と原材料を求めて生産拠点まで移転するケースが少なくない。

 生産コストや輸送費、製造から販売までのリードタイムをグローバル規模で最適化できれば、その意義は大きい。とはいえ、海外の生産/販売拠点と国内のそれをつなぐサプライチェーンを構築するのはそう容易ではない。同じ資材を地域ごとに調達することによる無駄、輸送の遅延を解消するために起こり得る在庫の増加など、グローバル企業の多くが必ずしも理想的なサプライチェーンを構築できずにいる。

 プライスウォーターハウスクーパース(PwC)がグローバル企業を対象に実施したサプライチェーンに関する調査では、在庫や生産コストの削減、プロセスの複雑性軽減を重視すると答えた企業が8割を超えた。「国内に築いたサプライチェーンがコスト削減に有効だとしても、グローバル展開する上では必ずしも通用しない。海外拠点の現状を想定したサプライチェーンを再構築すべきである」(PwC ディレクター 渡邊浩彰氏)。

 2011年に発生した東日本大震災やタイの洪水でもサプライチェーンの課題が顕在化した。工場の閉鎖や資材を調達できないなどの事態に追い込まれた結果、生産計画を大幅に見直す企業が続出。その結果、業績を下方修正する製造業が増加した。閉鎖した工場の代わりとなる工場を探したり、資材調達先としてどこが適切か見極めたりするのに多大な時間を要したため、供給網を早期に復旧できなかったことが主たる原因だった。

 円安による為替変動、国ごとに異なる関税率、他国の政治情勢、法律改正…。グローバル展開する製造業は、こうした社会や経済状況を踏まえた上で利益を確保することが求められる。サプライチェーンにおいては、これまでのように計画に沿った生産数を確保することが目的ではなく、状況に応じて利益を最大化できる体制が強く望まれるようになった。

 こうした背景から、重要性を増しているのが「S&OP(Sales & Operations Planning)」である。

あらゆる事態を想定し、最適解を導き出すS&OP

 S&OPは以前から製造業や流通業を中心に取り組まれている考え方である。特にグローバル展開する欧米企業はS&OPに基づき、早くからサプライチェーンの見直しを進めてきた。しかし市場のグローバル化、消費者ニーズの多様化などの影響から、日本企業の中にもS&OPを評価する動きが高まっている。

 S&OPでは市場の動きに応じて生産や販売計画を見直し、その時の利益や損失、売上、在庫数、工場の稼働率、リスクなどまで勘案できるようにする。これにより、不測の事態に遭遇したときでも、経営層は利益を確保できる最善策を早期に打ち出すことができる。

 例えばある国で見込んでいた販売数が、市民の不買運動によって計画を大幅に下回る可能性が出てきたとする。このとき、どのタイミングで生産を打ち切ると損失はいくらになるのか、原材料はどのくらい余るのか、どこに輸送すれば原材料を転用できるのか、他国に在庫を輸送すると利益は生まれるのかなどのシチュエーションを想定し、最適なプランを選択することで、損失の最小化、利益の最大化を目指す。

著しい経済成長によって人件費や原材料費が跳ね上がった場合、どこに工場を移転するのが適切か、資材調達先としてどこに一括するのがコストを抑えられるのかなどの最適解も導き出せる。

「将来を予測するのは困難だが、あらゆるケースを想定することが必要だ。そのとき、ただ生産数を調整するのではなく、利益が見込めるのか、損失はどの程度かといった視点を持つことが重要である」(クニエ ディレクター 田中大海氏)。

図1 S&OPでは全拠点から収集した情報に基づき、あらゆるシーンをシミュレーションする
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