医療従事者がクラウドコンピューティングをどのようにとらえて活用し、医療・健康・福祉サービスの質的な向上につなげていくか――医療/ヘルスケア分野におけるクラウド活用の議論・促進を目的に発足した「クラウド医療・健康・福祉フォーラム」。その実行委員会が2013年8月30日と9月1日の両日、第1回目となるコンファレンスを都内で開催した。以下、初日に登壇した、クラウド医療・健康・福祉フォーラムの実行委員長を務める東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生命情報分野教授である田中博氏が抱く問題意識と、神奈川県知事の黒岩祐治氏による基調講演の模様をお伝えする。
医療・介護・健康サービスの向上を担うネットワーククラウドとモバイルクラウド
「ASP(Application Service Provider)の進化形としてSaaS(Software as a Service)が登場して7、8年が経過した。今では大半の業種において、IT戦略上の有用なアプローチとしてクラウドコンピューティングの活用が進展している。だが、こと医療やヘルスケア、福祉の業界からは、現時点ではクラウドを積極的に採用する話があまり聞こえてこない。とりわけ中小規模の医療機関の場合、いまだに紙伝票での情報処理がメインであり、クラウド以前に医療情報の電子化そのものが進んでいないというのが実情だ」――。
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生命情報分野教授でクラウド医療・健康・福祉フォーラムの実行委員長を務める田中博氏は、同フォーラム初日の主催者挨拶で、電子化の遅延に疑問を投げかけた。加えて、医師数の絶対的不足や病院の経営難、地域医療の崩壊、超高齢化による慢性疾患者および要介護者の爆発的増大といった、医療・ヘルスケア業界における数年来の課題と、2011年3月に発生した東日本大震災で浮き彫りになった災害時の医療サービスの継続性の問題を挙げた。
田中氏は、「これら種々の課題を解決しながら、医療・健康・福祉サービスの質的な向上を図っていくうえでは、クラウドを中心とした先進ITの活用が欠かせない」と強調する。そのうえで、各医療機関を結んで医療ソフトウェアのクラウド利用を促進する「ネットワーククラウド」と、患者・要介護者の日常生活圏域でのケアや個々人の生涯健康増進などに役立てる「モバイルクラウド」の2軸からクラウドの活用を試み、医療・介護従事者の協働体制の構築や、適切に管理された個々人のEHR(Electronic Health Record:電子健康記録)/PHR(Personal Health Record:個人健康記録)の実現に向けた取り組みを推進していく必要があると訴えた。
神奈川県が推進するITを駆使した医療イノベーション「ヘルスケア・ニューフロンティア」
こうした趣旨に賛同し初日の基調講演のステージに立ったのは、神奈川県知事の黒岩祐治氏である。講演では、同県が現在、次世代に向けた医療イノベーションとして推進する「ヘルスケア・ニューフロンティア」のコンセプトと具体的な施策を紹介した。
冒頭、黒岩氏は、スライドに神奈川県民の年齢層別人口グラフを映しながら、2050年には85歳以上の層が最大となる超高齢化社会について言及。「このグラフからはっきり分かるのは、これまでの医療体制では絶対に通用しないということ。当県にかぎらず、医療サービスの大変革が求められている」とした。
黒岩氏が言う医療サービスの大変革を実現すべく策定されたのが「ヘルスケア・ニューフロンティア」だ。大きく2つのアプローチで取り組んでいる。1つが「最先端医療と最新技術の追求」のアプローチ。iPS細胞研究や「マイカルテ」などである。もう1つが「未病を治す」というアプローチだ。これは、漢方薬、医食農同源、健康管理・運動習慣の奨励など、発症に至らない段階での健康増進施策のアプローチを指している。黒岩氏は「この2つのアプローチが融合した取り組みによって、健康寿命(日常的な介護を必要せずに自立した生活を送れる期間)日本一の県を目指すとともに、新たな医療関連市場の創出を促していく」と説明した。
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