[ユーザー事例]
世界と戦う“ホンダ流グローバルIT構築”の凄み─グローバル最適生産を支えるITのあり方とは?
2014年3月5日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)
2014年2月27日、「世界で勝つグローバルシステムの要諦」(CIO賢人倶楽部/レイヤーズ・コンサルティング共催)というセミナーが開催された。今回は、本田技研工業・IT本部の有吉和幸氏が基調講演で語った内容を紹介する。
データマネジメントが鍵を握る
グローバル生産体制の構築では、SCM(サプラーチェーン管理)の刷新を伴う。具体的には、需要予測から始まり、販売を計画し、それを生産や調達計画に反映させる。同時に売上/利益計画までを統合する、S&OP(Sales & Operations Planning:販売・業務遂行計画)を目指しているという(図5)。そのためには様々なデータ、情報を見える化する必要があるが、肝心のデータが不十分だったのだ。
図5:4輪車のグローバルシステムのイメージ
そこで必要なデータの洗い出しやコード体系の整備、データの鮮度や精度のチェックといったデータマネジメントに取り組むと同時に、システム連携のための仕組み作りを実施した。連携の仕組みとはESB(エンタープライズ・サービス・バス)である。「事業特性に合わせてシステム構造を最適化するためには、データマネジメントとシステム間を連携可能にするESBが必要でした」。全世界のホンダではスクラッチ開発以外に188種の業務パッケージを使っており、これらを生かしながら見直しと統合を進める必要があるからだ。
「(業務パッケージの統廃合やプロセス標準化など)全体最適を実施しようとすると、時間がかかりすぎます。まず各拠点のデータを繋いでしまうことを優先しています」。ただしアプリケーションより下のレイヤー、コミュニケーションの基盤やIT/ネットワーク基盤に関しては、外部クラウドの活用などにより標準化、全体最適を進めるという。「データセンターは設備の整った先進国、システム開発は安さが利点の新興国でといった形で、ITのグローバル化も進めていきます」。
とはいえ、全体最適をあきらめたわけではない。むしろ実態は逆で、ホンダ全社としてのEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)を作っており、その中でアプリケーションを可視化したマップやデータアーキテクチャ(図6)を定義することも実施している。優先度を考慮しながら、レガシーシステムの刷新など全体最適に向けた取り組みを進める方針だ。このほか全世界で約5000人いるISスタッフの人材定義も実施している。
図6 ホンダのデータマネジメント戦略
こうしたIT部門の改革、事業における情報システムの役割増大、品質管理におけるビッグデータの活用、さらに自動車のIT化が相俟って、経営トップのITに対する見方も変わってきた。「2013年には、IT部からIT本部へとIT組織は格上げされました。仕事のやりやすさという意味でプラスになったと思います」。
最後に有吉氏はこう締めくくった。「2013年のモーターショーにおけるホンダのコンセプトは『枠にはまるな』です。個人的にもシンパシーがありますが、しかしITの役割は標準化など枠にはめることです。IT部門としてこの矛盾を、どう考えればいいか。最終的に『しっかりした枠を作って現場を支える』、それこそがITの役割だと考えることにしました」。
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