ERPパッケージベンダーのワークスアプリケーションズ(ワークスAP)が、「GoogleのUIを企業情報システムに」を旗印に、次期版「HUE(High Usability Enterprise)」の2015年内の出荷に向け開発を急いでいる。出荷を前に、同社は既存ユーザー企業を中心にデモやプレゼンテーションを実施しており、筆者はその1つに参加する機会を得た。デモを見る限り、HUEの操作性は画期的とさえいえる。そこで見たHUEの最新像を紹介しよう。もちろん宣伝が目的ではない。採用するかどうかは別にして、その考え方や機能を知ることは情報システムの将来を考える上で参考になるからだ。
「ITタイムクロック」では現行ERPは数年でレガシーに
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このほか、PDFのデータを自動認識して表にするので、例えば請求書がPDFならデータを請求管理システムに再入力する必要はない、既存のPDFの帳票を認識してHUEで扱う帳票を作成できる、学習機能を生かして要チェックのデータや申請書を自動検出するといった特徴もある(図4)。
これらは、あくまでワークスAPによるHUEのデモを見た限りでの話だが、消費者向けサービスのユーザービリティを企業ITに取り込むとどうなるかという点で、示唆に富む機能が実に多彩に含まれていた。
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クラウド、分散処理を前提にするだけに、バッチ処理も高速になった。「社員10万人の給与計算は最低で1時間、あるいは数時間かかる。HUEは並列処理するので2分以内で完了する」という(図5)。為替の換算や未入金企業のチェックと請求など膨大かつ煩雑な作業がある毎月の決算処理も、日々の処理のバックグラウンドでこなすので抜本的に早くできるとしている。
筆者が参加した説明会ではワークスAPによるデモや説明に加えて、ガートナージャパンでERPのアナリストを務める本好宏次氏(リサーチ・ディレクター)による講演があった。同氏は「デジタルビジネスに向けたERPコアの刷新は重要なテーマ。いつ実施するか真剣に検討するべき問題だ」「2016年には、カスタマイズが大量に施されているERPは“レガシーERP”と呼ばれることが普通になる」などと、ERPの最新事情を語った。
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詳細は別の機会に譲るが、講演で目を惹いたのが「ITタイムクロック」。3時までは先進技術、6時は最盛期、9時以降は置き換え対象(消えゆく運命)といったガートナー流の表現で、技術や製品の誕生から普及、成熟、消滅までを12時間で表現したものだ(図6)。コモディティ度という指標もあり、上手い図式化である。
ITタイムクロックによると、多くの企業が導入している3層構造のERPは7時半。あと数年で9時になるので、何らかの更新を検討するべき時期ということになる。これに対しSaaSなどクラウド・ベースのERPは4時頃であり、旬を迎えるのはこれから。技術的なベースを分散処理とクラウドに置いたHUEは、これに当たる。
この意味でもITリーダーなら、HUEはチェックしておくべきソフトウェアである。PaaSベースのERPやマルチテナントERPを理解する上で、それらのベンチマークになり得るからだ。
IT分野をウォッチしてきた筆者としては、HUEのようなソフトウェアが広がることを期待している面もある。ワークスAPは当初から海外展開を睨んでHUEを英語ベースで開発し、日本語にローカライズしている。商習慣や文化の違いが強く影響するERPだけに様々な困難はあるだろうが、海外でも通用するポテンシャルを持っているわけだ。さらに、こうしたHUEが刺激になって、日本製のソフトウェアが変わる期待感もある。