「メインフレームを知っていますか」と聞かれ、「当然だ」という層と「それは何ですか?」という層に分かれるのが今の時代である。オープンシステム、さらにはクラウドしかしらないIT技術者がいるというから、それも不思議ではない。そうした中、日本IBMがメインフレーム環境を対象に学生向けのコンテストを実施している。背景には、メインフレーム技術者の不足がある。若いIT技術者にとって、メインフレーム技術者という選択肢はあるのだろうか。
メインフレームは、メーカーの独自OSを搭載する大型コンピューターの総称である。1951年に登場した商用コンピューター「UNIVAC I」が起源とされる。1964年に米IBMが発表した「System/360」が採用したアーキテクチャーによって、ハードウェアとアプリケーションの分離が確立された。汎用コンピューター、ホストコンピューターとも呼ばれる。
1980年代後半からPCやUNIXサーバーによるオープンシステム化や、その後のインターネット時代を迎えるまで、大型プラットフォームはメインフレームしかなかったのだから、大手企業の基幹システムはほぼメインフレーム上に構築されている。現在、ATM(Automatic Teller Machine:現金自動預払機)で種々の取引ができるのも、1980年代後半に稼働した銀行の第3次オンラインシステムがあるためだ。
メインフレーム保有ユーザーが技術者不足に危機感
オープンシステムにおけるRAS(Reliability、Availability、Serviceability:信頼性、可用性、保守性)機能の向上に伴い、メインフレームからオープンシステムへのマイグレーションも進展している。それでも、金融、製造、官公庁/自治体といった業種を中心に、メインフレームが企業にとって重要なデータを扱う基盤になっている企業は少なくない。
ただ、メインフレームしか利用していないという企業も、ほぼいない。UNIXやWindowsを搭載するサーバー上で、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)を稼働させている企業もあれば、情報共有やコミュニケーションなど、いわゆる情報系のシステムや、EC(Electronic Commerce:電子商取引)のためのシステムなどはオープンシステム上で稼働している。最近では、これらのシステムをクラウドコンピューティングサービス上で稼働させるケースも増えている。
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メインフレームは現在、IBMや米Unisysのほか、NEC、富士通、日立製作所の日本メーカーも製造・販売している。海外メーカーはメインフレームにオープンシステムやOSS(Open Source Software)など種々の機能を採り入れながら最新技術を投入し続けている(写真1、関連記事:「クラウド時代のメインフレームはリアルタイム処理基盤に」米IBMのゼネラル・マネージャー)。
一方で国産メーカーは、メインフレームは既存のアプリケーションの動作環境としての機能強化にとどめ、新規機能は原則、オープンシステムで構築し、両者を連携させるという方針を採っている。
こうした背景もあり、会計、在庫、顧客情報などを記録するSoR(Systems of Record)はメインフレーム上で維持し、モバイルなど顧客接点を生み出すSoE(Systems of Engagement)の新規開発はオープンシステムやクラウドでという流れも強まっている。新しい技術開発も「SMACS(Social、Mobile、Analytics、Cloud、Security)」に集中しているように見える。
結果、企業のデータセンターの奥深くに鎮座するメインフレームは、限られたIT技術者が担当し、多くのIT技術者はオープンシステムやクラウドという開発・実行環境で働いている。20代、30代のIT技術者であれば、メインフレームという存在に一度も触れたことがないとしても不思議はないだろう。
しかし、メインフレームに従来から携わってきたIT技術者は当然、高齢化が進み、定年退職による人数減も進行する。メインフレームを稼働させている企業にすれば、メインフレーム担当技術者をどう育て維持するかが1つの課題になっている。人材減少の中で、メインフレームスキルが高い技術者への報酬は今、年収換算で1000万円を軽く超えるとされる。
●Next:若い世代に向けたメインフレーム・コンテストの詳細
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