日本IBMは2015年3月から、メインフレームの最新機種「IBM z Systems z13」の工場出荷を開始した。旧「System z」からシリーズ名を「z Systems」に変更した旗艦モデルである。「メインフレーム大国」と呼ばれる日本だが、メインフレームは“レガシー”の代名詞でもあり、クラウド時代を迎えマイグレーションの最優先候補にもなっている。そこになぜメインフレームなのか。米本社のz Systems ゼネラル・マネージャーであるRoss Mauri(ロス・マウリ)氏に聞いた。(聞き手は志度昌宏=IT Leaders編集部)
──シリーズ名を変更しての新製品投入になる。z13が目指したのは何か。
メインフレームは2014年4月に生誕50周年を迎え、ターニングポイントを迎えている。これまでメインフレームに求められてきたOLTP(Online Transaction Processing)やデータベース、ロバストネス(耐障害性)、仮想化といった機能は継続しながらも、クラウド時代、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)時代に求められる信頼できるプラットフォームの実現を目指してきた。
具体的には、3つの命題に取り組んだ。(1)モバイル環境の広がりに伴って爆発的に増えているトランザクションへの対応、(2)トランザクション処理中のアナリティクス、(3)オープンテクノロジーを前提にしたクラウド対応である。これらに、セキュリティと暗号化の機能を用意することで、信頼性を高めている。
クラウド時代になり、企業ユーザーが求めているのは、プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッド環境であり、z Systemsは、プライベートクラウド用のプラットフォームの位置づけだ。既に当社メインフレームは、80社以上がパブリッククラウド提供のためのプラットフォームに利用している。
モバイルやIoTの普及はバックエンドに多大な負荷を与える
それぞれ、もう少し詳しく説明しよう。まずモバイル対応だが、スマートフォンなどは若い世代を中心に、どこでも当たり前に使われるようになった。センサーを搭載するスマートフォンの普及はIoT時代の代表例でもあるが、実はその裏側でバックエンドシステムに多大な影響を与えていることに多くの人が気づいていない。
例えば、モバイルバンキングは、誰もが便利だと思い利用している。だが、ATM(Automated Teller Machine:現金自動預払機)の時代には週に1度しかATMを操作しなかった人も、モバイルバンキングなら1日に複数回操作したりする。そこでは百件単位のトランザクション量が発生しており、それだけの負荷がバックエンドにもかかっていることになる。
一般には、モバイル対応のシステムをSystems of Engagement(SoE)、バックエンドのシステムをSystems of Record(SoR)に分けて開発・運用し、ソフトウェアで連携を図っている。しかし、この方法だと、連携部分がボトルネックになる。ここを回避するために、z13では、両方のシステムを実行できるようにしている。
第2のトランザクション処理中のアナリティクスは、従来はできなかったことだ。大きなQuery(抽出)処理を実行できないため、分析用データはオフロードしてきた。これがData WarehouseやData Martである。
これを、プロセサに分析用の命令セットを加えることと、大容量メモリーを搭載することで、オンラインでリアルタイムな分析を可能にしている。OLTPからQueryまでのすべてを、性能と整合性を保ちながら実行できるのだ。
データ分析がOLTPと同時に実行することの実例を挙げよう。健康保険サービス会社と事前検証した事例で、年間2億4000万ドル(290億円弱、1ドル120円換算)のコスト削減効果が見込まれている。
同社では年間100万件規模の保険請求を受け付けているが、中には不正請求が含まれている。現状は、請求を受け付けてからの事後分析のため、不正の10%しか発見できておらず、それも発覚後に支払い済みの保険料を回収する仕組みになっている。これをリアルタイムに分析することで、トランザクション発生時に不正請求の80%以上を把握し、支払い処理そのものを止めることが可能になる。
オープンテクノロジーを前提にしたクラウド対応とは、具体的にはOSS(Open Source Software)のIaaS(Infrastructure as a Service)構築用ソフトウェア群である「OpenStack」への対応である。
──SoRとSoEの話が出たが、IBM自身、SoEはオープンシステムやクラウドの領域だとしていたのでは。
確かに過去、SoEのためのアプリケーションをメインフレーム上で動作させることは経済性が悪かった。例えば1980年代にはメモリーが高価だったため、ビット単位、バイト単位での工夫が必要だった。
だが今は、ソフトウェア技術の進展もあり、メインフレームのLinux環境であれば、SoEのためのアプリケーションもDevOps(開発と運用の融合)環境で開発できる。メモリーの価格も変更した。容量を3倍に増やしても価格は従来の3分の1である。
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