[事例ニュース]
AIで熟練エンジニアの技術を継承─デンソーがナレッジマネジメントシステムを構築へ
2025年12月3日(水)日川 佳三、河原 潤(IT Leaders編集部)
自動車部品メーカーのデンソー(本社:愛知県刈谷市)は、熟練エンジニアの知識をデジタル化して活用するためのナレッジマネジメントシステムの構築に取り組んでいる。熟練エンジニアの技術・ナレッジをAIに学習させて、属人化の解消や生産性の向上、次世代へのナレッジ継承の促進につなげる。システム開発を支援する富士ソフトが2025年11月28日に発表した。
愛知県刈谷市に本社を置くデンソーは、主力の自動車部品・システムに加えて、産業用ロボット、QRコード開発、農業など幅広い分野でグローバルに事業を展開している(関連記事:生成AIとロボットの融合で新たな価値創造に挑む─デンソーが描く近未来)。
同社の研究開発部では、熟練エンジニアのナレッジ継承やリソース不足、属人化の課題が顕在化していた。「どんなに優秀なエンジニアもいつかは転職や定年などで退職する。それは会社にとって大きな損失であり、熟練エンジニアのナレッジを次世代にどう継承できるかに課題意識を持っていた」(同社 研究開発部 担当係長の檜山卓希氏)。
また、35の国・地域で事業を展開する同社ならではの課題として、人材流動性の高い外国籍のエンジニアに対し、日本で社員として勤務するエンジニアのように、ナレッジ継承のための研修などに長い期間をかけられない事情もあった。「海外では、ごく限られた時間の中でナレッジを継承するための施策を検討する必要がある」(同社 研究開発部 課長の田口和也氏)。
図1:デンソーが構築しているナレッジマネジメントシステムの概要(出典:富士ソフト)拡大画像表示
こうした課題を解決するため、2025年4月、富士ソフトの支援の下、熟練エンジニアの経験や勘といった暗黙知をデジタル化して、だれもがデータベースから抽出できるようにするナレッジマネジメントシステムの構築プロジェクトが始動した(図1)。
システムの構築にあたっては、AI/マシンラーニング(機械学習)に着目した。檜山氏によると、技術や情報を学習させたAIを活用することで、熟練エンジニアの経験や勘など、言葉で説明することが難しい暗黙知を形式知に変換して蓄積できると考えて取り組んだという。
「ナレッジマネジメントシステムが実現すれば、だれでもデータベースから必要なナレッジを抽出できるようになる。知の共有が容易になって、属人化からの脱却や生産性の向上、ナレッジ継承の加速につながる」(檜山氏)
研究開発部は、システムの構築を進める中で、暗黙知をどうやって形式知化するかを、現場のエンジニアにプレビュー版を使ってもらうことで検証している。檜山氏は「まずはできるだけ多くのナレッジを蓄えられるよう、1人でも多くのエンジニアにシステムを使ってもらうための施策を検討する」と説明する。今後、プレビュー版を用いながらナレッジマネジメントの精度を高めていき、正式版の運用を目指すという。

































