[ザ・プロジェクト]
生成AIとロボットの融合で新たな価値創造に挑む─デンソーが描く近未来
2025年4月22日(火)神 幸葉(IT Leaders編集部)
さまざまな業界に大きなインパクトをもたらしている生成AI。日本企業では、コスト削減や業務効率化に活用する動きが目立つが、中長期的なビジネス貢献度を考えるとどうだろうか。2025年2月4・5日に開催された「Manufacturing Japan Summit 2025」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド)に、岐阜大学 客員教授/デンソー 研究開発センター シニアアドバイザー/Design for ALL 共同創業者取締役の成迫剛志氏が登壇。「生成AIでロボットとヒトが共に暮らし、共に働く世界を創る」と題した講演で、将来を見据えた同社の生成AIとロボット技術開発の取り組みを紹介した。
社会・経済を変えてきた汎用技術に改めて注目する
岐阜大学 客員教授/デンソー 研究開発センター シニアアドバイザー/Design for ALL 共同創業者取締役の成迫剛志氏(写真1)が来場者に向かって最初に示したのは「汎用技術(General-Purpose Technologies:GPTs)」について。グローバルで経済全体に影響を与える可能性のある技術のことで、汎用技術の登場によって社会や人間の生活、産業構造が大きく変化してきた。

図1は、汎用技術の登場の歴史だ。特定の機関や人物によって公式に定義づけられているものではなく、研究者によって意見が異なる場合もあるが、一般的にはこの一覧のとおり、植物の栽培から始まり、蒸気機関、鉄道、電気、コンピュータ、インターネット、ナノテクノロジーなどが挙げられる。

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デンソーのデジタルリーダーとして知られる成迫氏だが、入社以前は、システム開発、インターネットやクラウドサービス関連のビジネスに携わってきたという。成迫氏は、インターネットの黎明時を次のように振り返った。
「インターネットが社会基盤となって、それを前提としたさまざまな技術や便利なサービスが実装され、これほどまでに社会の仕組みが大きく変革するなど、当時はまったく想像できなかった。日本はインターネットの上位レイヤーではなく、技術的な部分で一生懸命取り組んでいたが、結果、グローバルの波に乗り遅れてしまった」。同氏の言うように、世界時価総額ランキングの上位は米国のIT企業がほぼ独占している。
日米の生成AI活用ですでに開いた差に強い危機感
続けて成迫氏は、近年最大級のインパクトをもたらしている生成AIに関して、2024年発表の調査結果を示した。 アイ・ティ・アール(ITR)による「企業システムと技術革新に関する意識調査」では、国内事業会社のIT担当者が過去30年に登場した企業ITに関わるテクノロジーのうち、特に衝撃を受けたい技術の上位は、生成AIとインターネットだったという。「ほとんどのCIOやCDOは、生成AIが汎用技術に名を連ねるほどの大きなインパクトがあると感じているだろう」(成迫氏)。
一方、PwCコンサルティングの「日米の生成AIの活用に関する調査」では、日本はコスト削減や効率化、米国は顧客満足度に焦点を絞って活用する傾向が現れている。成迫氏は、「顧客満足度とは単なる顧客の満足を示す値ではなく、新しい顧客価値または社会価値を作ろうという考え」であるとし、この調査結果から日米企業の生成AIに対する考え方の違いに危機感を覚えたと続けた。
同氏は、ビジネスの貢献とテクノロジーの活用について図2を示し、次のように説明した。

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「テクノロジーを合理化、効率化のために活用すると比較的早い段階で結果が出て、ビジネス貢献度が大きい。しかし、多くの企業が同様の行動をとると、個々のビジネス貢献度は下がり、瞬間的な効果しか生み出さない。対して、テクノロジーを活用した新たな価値創出は最初こそ効果につながりにくくビジネス貢献度も小さいが、そのうち大きなビジネス貢献度を得られる可能性がある」
日本企業は、図2の白い線が表す合理化・効率化といった経営の理解も得られやすいことに取り組みがちだが、「これがインターネットやクラウドで日本がグローバルで負けてきた歴史の一因だと考えている」と成迫氏。歴史を繰り返さないために、新たな価値創出に注力していく必要性を説いた。
●Next:生成AIによって進化したロボット分野、融合で実現すること
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