[技術解説]
600の“異能”が経営課題を創造的に議論─自己成長型AI「FIRA」が組織にもたらすもの
2025年10月28日(火)神 幸葉(IT Leaders編集部)
日立製作所子会社のハピネスプラネットが、日立と共同でAI技術を実装した自己成長型AIサービス「Happiness Planet FIRA」の開発に取り組んでいる。これは、同人間のエキスパートの思考を、“異能”と呼ぶ600種類のAIエージェントに反映させた「Bunshin(分身)」が自律的に議論することで、既存の生成AIが苦手とする創造的な示唆や深い洞察を生み出すというもの。「企業の経営課題の思考プロセスに多様な視点を与え、人の知や構想を拡張する“知の増幅器”としての役割を担う」という。本稿では、キーパーソンの解説から、2025年8月26日に提供が始まったFIRAが組織に何をもたらすのかをお伝えする。
創造性を生み出すAIの必要性
リスク管理や投資判断、人材育成といった経営課題に確たる正解はない。要素となる情報の整理に加えて、企業固有の状況に即した洞察や創造的な視点が求められるのが常である。
進化を続け、期待が高まる一方の生成AIだが、現状では大規模言語モデル(LLM)の学習データを超える深い洞察や、個々の企業および従業員固有の課題解決につながるような創造性については苦手としている──。こう話すのは、ハピネスプラネット代表取締役CEO 兼 日立製作所 フェローの矢野和男氏(写真1)だ。
日立製作所の子会社であるハピネスプラネットは、この課題の解決に向けて、共同でAIやデータの研究を重ねてきた。取り組みにあたっては、「日本企業はAIを使った効率化には一生懸命取り組む一方で、AIを使った創造性に関する取り組みは、世界に遅れを取っている」という問題意識がある。
矢野氏によると、生成AIに自社で蓄積したデータを取り込んで固有のナレッジベースにするRAG(検索拡張生成)の取り組みが進むが、過去のデータを参照するだけでは、未来に向けた創造的な示唆は得られにくいという。
写真1:ハピネスプラネット代表取締役CEO 兼 日立製作所 フェローの矢野和男氏問いに対し、生成AIは瞬時に回答を導き出してくれるが、その回答は創造的なものなのか。矢野氏は図1を示し、「内容は間違ってはいないが、多くの生成AIは一般論をまとめようとしてくるのが現状。創造的な回答とは言えないのではないか」と答えた。
図1:生成AIの回答は創造的か(出典:ハピネスプラネット)拡大画像表示
では、どうしたらAIに創造性を持たせられるか。大量のデータを学習した生成AIの知識や情報量は人間のキャパシティをはるかに超えるが、「『物知り』であることと『賢い』ということは、学問的にも全然違うことだと捉えられている」と矢野氏。新しい問題に対して既存の知識をどう適用するか、既存の知識を組み合わせて新しい知識をどう生み出していくかが重要になる、と説いた。
●Next:“自己成長型AI”をビジネスの場でどう生かすか─「Happiness Planet FIRA」の仕組みと効果
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