[ザ・プロジェクト]
ITエンジニア“ゼロ”からのレガシー刷新─京都の100年企業、タカミブライダルが挑むデータ経営
2026年3月9日(月)佃 均(ITジャーナリスト)
ウェディング貸衣裳業で最大規模を誇る京都の100年企業、タカミブライダル(高見株式会社、本社:京都府京都市下京区)が、社内にITエンジニアが1人もいない状況から大規模なDXを成し遂げた。接客現場の過重なアナログ業務とレガシーシステムを刷新すべく、2018年に業務改革プロジェクトを発足。ITパートナー3社と強力なタッグを組み、ノーコードの開発プラットフォーム「PEXA」を用いて基幹システムをクラウド上で再構築した。現場の端末をスマートフォンとLINEアプリへ移行してペーパーレス化や残業激減を実現しただけでなく、単品管理による精緻なデータ経営へと舵を切った同社。その軌跡と舞台裏に迫る。
「TAKAMI BRIDAL(タカミブライダル)」は、ブライダルコスチュームのレンタルを主業務とする高見株式会社のブランド名だ。本稿では社名ではなく、タカミブライダルで通すことにする。
本社は京都市左京区の五条通り、弁慶と牛若丸で知られる五条大橋まで歩いて5分ほどのところにある。現在、全国約75カ所にドレスサロンを展開し、従業員数は823人(2025年6月30日現在)、ウェディング貸衣裳業では最大規模と言っていい。創業は1923(大正12)年の呉服商、高見重信商店にさかのぼる。厳密には今年が103年目だが、キリよく100年企業とさせてもらう。
画面1:タカミブライダルのWebサイト拡大画像表示
社内にITエンジニアが1人もいない
タカミブライダルが業務改革をスタートさせたのは2018年1月。主導したのは、当時、常務だった坊農昌弘氏だ。「スマートワークプロジェクト(SWP)」という議論の場に各部門の代表が集まって、コスチューム事業全般の業務の流れを見直し、あるべき働き方を検討した。当然、業務システムも対象になった。ところが驚いたことに、同社にはITエンジニアが1人もいなかった。業務改革チームに、ではなく従業員の中に1人も、という意味だ。
東京オフィスに「システム部」はあるのだが、主業務は社内エンドユーザー向けのヘルプデスクとITパートナーの窓口。その環境の中、同社が達成したのは次のようなことだった。
- クライアント/サーバー型基幹システムをクラウド(AWS)に移行
- 接客現場の端末をスマートフォンに転換
- 基幹システムを再構築
- 売上管理をSaaS(ミロク情報サービス「Galileopt DX」)に連動
- 併せてデータを正規化
- 新システムの構築はノーコードによるDevOpsで実施
- 漢字コードに文字情報基盤(MJ)を採用
- ペーパーレスを実現
- リアルタイムなデータ経営を実践
これにより接客の現場に立つスタイリストは、多くの時間を顧客サービスに充てることができるようになった。どのようなコスチュームが好まれるかを実績データから予測し、ラインアップが最適化された。物流が効率化し、レンタルサービスの原価管理が実現した。「データ分析を基にしたレンタル業の原価管理はおそらく初のケース」という。
これほどの改革を、同社は企画立案から丸3年で達成し、伴走型のDevOpsによる機能改善が続いている。背景にあるのは経営陣の決意と、「だからこそ当社は本業の高度化に専念する」という割り切りだ。
とはいえ、ITの世界は気合いで何とかなるものではない。深層を探ると、サードパーティのIT企業3社の連携と、その基盤を作った「PEXA(ペクサ)」という基幹システム向けフレームワーク/ノーコード開発プラットフォームの存在が見えてきた。
「スマートな働き方」を目指した
SWPチームが最初に考えたのは、「コストを下げる」「集客を増やす」の2つ。市場自体が縮小するのは避けられない。そこで気がついたのは、「ブライダルコスチュームの需要は変わらない」ということ。披露宴の小規模化やフォト婚の普及は、衣裳に対するニーズを『量から質』へと変化させているのではないか──。
決して安価ではないコスチュームを選んでもらうには、どうすればいいか。だれでも思いつくのはイメージ戦略だが、SWPチームが見出したのは「ホスピタリティという付加価値」だった。そのためには現場を接客サービスに専念できるようにする。それがホスピタリティにつながり、競争優位につながる。
レンタルするコスチュームは約5万点。それが全国約75カ所のドレスサロン、東西2カ所の衣裳メンテナンス施設(LAB)にストックされている。花嫁花婿が希望するコスチュームがどこにあって、どのような状態なのか、現場のスタイリストはその場で答えることが求められる。ところが旧システムは経営管理の視点で作られていて、確定したデータしか扱えない。
「もっとスマートな働き方ができないか。それがテーマになりました」。業務改革を主導した坊農氏は言う。
アナログの負荷が生んでいた経営の無駄
SWPチームでは、コスチューム事業にかかる接客方法、物流、仕入、システム、細かなところでは名称の統一などもテーマとなった。そこから浮かんできたのは、まず接客の現場に立つスタイリストのストレスを軽減することだった。
メモと伝票、電話、ファクス、キーボードというアナログの負荷もあったし、ITシステム作業の負荷もあった。花嫁花婿やその家族に「いい結婚式だったね」と喜んでもらいたいのに、実態はコスチュームの照会とデータの打ち込み作業に追われている。脱アナログとホスピタリティの実現が目標だった。
一方、経営の観点からも課題が指摘されていた。「当時、コスチュームは品番で管理されていました。同じ品番でも10着、20着あるとそれぞれを電話やファクスで確認しなければなりませんでした。枝番が付いていれば個別管理ができるのですが、旧システムはそのような対応ができなかった」。こう話すのはスマートワークプロジェクトで中心的な役割を果たした商品担当取締役の高見和利氏だ。
いったん決まったオーダーが変更されることは珍しくない。「あれでよかったのか?」という思いもあれば、流行が気になることもある。
「それでスタイリストは、予備のコスチュームを押さえるんです。使わないかもしれないけれど、システム上では予約が入っている。そうすると仮予約だらけになって、結果として多くの機会損失に繋がってしまいます」(高見和利氏)
ということは、実際には着用されていない衣裳のクリーニングやメンテナンス、無駄な輸送・配送が発生することでもあった。システム上の「予約」が信用できないので、配送されたコスチュームを係員が1点ずつ、伝票と見合わせて確かめる。その労力のためにアルバイトが増えていく。ニーズの動向を正確に捉えきれず、ラインアップの最適化が不十分になる──等々だ。
●●●Column
ウェディングコスチュームは特注品と同じ
「ブライダル産業の原型はホテルウェディングなんです。宿泊ができて、式場があって、レストランとバンケットホールがある。そこに衣裳屋さん、美容師さん、写真屋さん、花屋さん、旅行代理店が集まって、現在のウェディングのスタイルが固まった」。坊農氏はそう説明する。
ウェディング用のコスチュームはカウンセリング・衣裳選び・サイズ合わせを経て予約となる。
顧客ごとにオーダーシートが作成され、挙式直前、その情報に従ってLABでメンテナンスされる。そしてアクセサリーなどの小物をセットして式場に配送される。
式と披露宴で使用されたコスチュームはLABに戻され、そこでクリーニングとメンテナンスが行われる。これが基本的な流れだ。
少しややこしいのは、扱っているのはドレスやタキシード、和装の打掛や帯だけではないことだ。洋装であればドレスのスカート部分を膨らませるパニエ、タキシードの下に着るフォーマルシャツ、グローブやシューズ、花嫁の髪飾りやブーケなどがある。ドレスやタキシードはレンタルだが、インナーやグローブは販売商品だ。それを挙式の日まで正確・的確に管理しなければならない。
写真1:タカミブライダルのドレスサロン。優雅なウェディングドレスが並ぶ(出典:タカミブライダル)●Next:ITエンジニア“ゼロ”からのレガシー刷新プロジェクトが始まった
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