[ザ・プロジェクト]
400万件超の商品マスターをクラウドに移行、食品流通のデジタル化を加速する情報インフラへ─ジャパン・インフォレックス
2025年12月26日(金)愛甲 峻(IT Leaders編集部)
酒類・食品業界の商品マスターの流通を担うジャパン・インフォレックス(本社:東京都中央区)が、約30年にわたって運用してきた基幹システムのモダナイゼーションに取り組んでいる。業界共通の商品マスターとあってトラブルが許されないプロジェクトを2023年に着手、まずは2025年6月にクラウドへの移行(リフト)を完了。今後はクラウド上でアプリケーションやデータの最新化(シフト)という2フェーズで進める。移行は単に基盤刷新なので難度は低いかと思いきや、さにあらず。キーパーソンにプロジェクトの実際を聞いた。
ジャパン・インフォレックス(JII)は、2006年に国分や日本アクセス、菱食など大手卸が共同出資して設立した企業である。酒類・加工食品業界に特化した商品マスターデータの流通サービス「Inforex登録サービス」「同データ連携サービス」を運営している。食品などのメーカー各社が商品の名称やサイズなどの基本情報や画像、物流情報などの商品マスターデータを登録すると、それを卸売業や小売業などに提供、配信するのが基本的な役割だ。
ただし、単にマスターデータを仲介するだけでなく、JIIはこの過程で商品や画像の情報をクレンジングしたり、同一JANコードの商品を代表商品に名寄せして提供したりといった、データマネジメントの業務も担っている。本誌は2011年にもJIIを取材しているので、興味のある読者は参照いただきたい(関連記事:酒類・食品業界の枠を超えたSCMの担い手へ、4300社/200万件超の商品マスターを統合─ジャパン・インフォレックス)。
その取材から15年近く経った現在は、倍近い8000社以上の酒類・加工食品メーカーと50社を超える卸売会社などが利用している。管理する商品マスターの件数も、1商品1件とした場合でも約290万件、入り数違いなどのバリエーションを含めれば400万件を超える。当時も今も、日本における酒類や加工食品の流通に欠かせない基盤の役割を持つ。
少々ややこしくなるが、JIIはこのサービスに加えて、2013年に同業のファイネットから承継した同様のデータベースサービス「FDB」も運用している(図1)。もともとFDBが先にリリースされており、FDBに登録されたデータはInforexサービスに連携される。酒類・加工食品業界に似た機能を持つサービスが2つある意味がないので、JIIはファイネットからFDBを譲り受けた。一方でFDBにはアレルギーや原材料、栄養成分など品質情報があるため、現時点でもInforexとFDBは併存している。
図1:商品マスター管理事業の概要(出典:ジャパン・インフォレックス)拡大画像表示
さらに2019年には品質情報提供サービス「Q-PITS」を、2023年には小売業者と卸売業者の間のデータ交換を業界標準の形式(流通BMSフォーマット)で統一する「EDIプラットフォーム事業」を開始している(図2、関連記事:食品卸/小売間の受発注を共通システム化したEDI共通プラットフォームが運用開始)。
図2:EDIプラットフォーム事業の概要(出典:ジャパン・インフォレックス)拡大画像表示
FDBやQ-PITSの詳細はさておき、JIIはこれらのサービスの提供を通じて、食品流通に関わる情報の共通化や標準化を推進し、食品メーカーや卸売業などの顧客が商品開発やマーケティングなどに注力できるように支援する。同社で情報システム部 部長を務める我妻英典氏(写真1)はこう語る。
「酒類や加工食品に関わる情報ニーズは増える傾向にあります。例えば商品の画像に加えて動画もマーケティングに使われるようになっていくでしょう。情報の正確性や鮮度はもちろん、そうした新たなニーズを先取りして食品流通業界の効率化や高度化に貢献するのが当社の使命です」
写真1:ジャパン・インフォレックス 情報システム部 部長の我妻英典氏ところが、である。JIIはシステム基盤の老朽化という大きな問題を抱えていた。何しろInforexの基本設計は、国分と日本アクセスが両者のマスター共通化を目的として2001年に設立したジェフネット(JIIの前身)にまで遡る。ざっと四半世紀前であり、ハードウェアは必要に応じて更新してきたものの、今もオンプレミスだ。
「ソフトウェアに至っては改修を重ねたためにブラックボックス化し、何をするにも調査に時間とコストを要します。実はハードウェアもメーカーのサポートが終了し、第三者保守を利用して動かすだけで精一杯の状態でした」(我妻氏)
レガシーシステムの問題を解消しなければ使命を遂行するどころか、前に進めない。そこで、(1)業界全体のデジタル化に伴う環境変化に対応できる安定した事業基盤の構築と、(2)レガシーの脱却による業務効率化やデータ精度の向上および新たなニーズへの対応、この2つを対応方針に定めて、システム刷新プロジェクトがスタートした。
実際にはオンプレミスからクラウドへの移行(クラウドリフト)と、クラウド上でのソフトウェアの最新化(クラウドシフト)の2フェーズで進める。現在はクラウドリフトを完了した段階だが、ここまでがなかなかハードだった。以下では、このクラウドリフトのプロジェクトの足跡を紹介する。
●Next:30年ものの旧システムが抱えていた課題と対応策
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