[ザ・プロジェクト]
酒類・食品業界の枠を超えたSCMの担い手へ、4300社/200万件超の商品マスターを統合─ジャパン・インフォレックス
2011年2月17日(木)川上 潤司(IT Leaders編集部)
ジャパン・インフォレックス(JII、本社:東京都中央区)は国分や日本アクセス、菱食など国内の総合卸売大手が扱う酒類・食品のマスターデータ管理を一手に担う。その規模は4300メーカーの商品200万件を超える。IT活用の基本として質と量が共に求められるマスター管理をいかに実現しているのか。システムと業務遂行の両面から工夫のポイントを聞いた。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉
- 井口泰夫氏
- ジャパン・インフォレックス 代表取締役社長
- 1971年4月、国分に入社。EOSやPOSなどのシステム導入・運用を手がけた後、1999年3月に取締役情報システム部長に就任。日本加工食品卸協会情報システム委員会座長、METI流通SCM全体最適化情報基盤整備事業企画委員会委員などの要職を歴任。2006年1月から現職。酒類食品卸売業協働基盤の運営や各種業界標準仕様の普及・推進をけん引している
- 吉田泰則氏
- ジャパン・インフォレックス Inforex 推進部 システム企画チーム 課長
- 1990年4月、国分入社。北海道支社にて酒類商品の受発注/MD業務に従事した後、1992年3月に本社マスタ管理部に異動し、コード管理業務や営業支援系マスタ管理システムの立ち上げに参画。2002年4月にジェフネットへ、2006年7月にジャパン・インフォレックスへ出向。システム全般の維持・管理および開発の企画立案などを担っている
- 黒田 亮氏
- ジャパン・インフォレックス Inforex 推進部 システム企画チーム 専任課長
- 2003年4月に野村総合研究所入社。同社のASPサービス「BizMart」のインフラ設計・構築や、流通業向けシステムの企画・開発などに携わる。経済産業省などによる商品情報共有化システム「GDS」の実証実験プロジェクトにも参画。2010年7月、ジャパン・インフォレックスに出向。以来、同社のシステム企画・管理を担っている
- 谷原郁子氏
- ジャパン・インフォレックス Inforex 推進部 商品情報管理チーム 課長補佐
- 1994年4月に雪印アクセス(現:日本アクセス)入社。マーケティングや商品開発業務を経て、2000年4月からコード管理業務に従事する。2002年4月、ジェフネット発足に伴い同社へ出向、マスター構築に取り組む。2009年6月、ジャパン・インフォレックスに転籍。EDIデータに関するヘルプデスク/データ管理業務の運用部隊をマネージメントする
─ 酒類・食品業界におけるサプライチェーン高度化の担い手として、着実に成果を上げているとうかがっています。本題に入る前に、まずは業界の動向を簡単に教えてください。お酒や食品は身近な存在ですが、その流通となると見えにくい部分もありますので。
井口: 少しさかのぼりますが、ご存じのように、お酒と食品はもともと別の業界だったので、メーカーさんや卸はそれぞれに存在していました。小売業も同様で、食品店や酒販店があったでしょう。そこに店舗を全国展開する大規模な小売り、いわゆる組織小売業が登場した。消費者にとってはワンストップで色々な商品を手に入れられて便利ですから、当然のように「買い場」として組織小売業のウェイトが高まり、従来の単一カテゴリの小売りさんが衰退する。それに比例して卸も減少する。こうした大きな流れがあります。
─ 業界の構造がガラリと変わってきた。
井口: 主に食品卸の数値ですが、日本加工食品卸協会に加盟している卸は1989年に約300社ありましたが、2010年には約半分の149社にまで減ってます。
─ 酒類・食品の卸にとっては受難の時代だ。
井口: 背景にはさまざまな要因があります。生鮮・チルド食品志向の高まりは、その1つです。売り場だけでなく、物流インフラについても冷蔵・冷凍設備を整えなければなりません。それには投資が必要ですから、資本力がある企業でないと参入できない。結果として大手企業への集約が加速しました。酒類販売免許が自由化されたことも大きい。国税庁の調べで、酒類卸は1996年の約1600社が2008年に約600社に激減しています。
─ 市場規模そのものはどうでしょう。
井口: どんどん縮小する傾向にあります。何しろ、胃袋の大きさと市場規模が密接に関係していますから。
─ 確かに、胃袋の大きさ以上には伸びませんね(笑)。
井口: 少子高齢化が進み、胃袋が小さくなっていけば、食べる量は減ります。どう考えても、この業界は縮小するしかありません。
─ そんな悲しいことを…。何か方策はないのですか。
井口: 取扱商品の幅を広げること、東南アジアや中国など海外へマーケットを広げていくこと。この2つしかありません。
登録情報の項目数が増え高まるマスター管理負荷
─ そうした中、酒類・食品業界のデータマネジメント専門会社として2006年にジャパン・インフォレックス(JII)が誕生した。その経緯は?
井口: フルラインの商品を取りそろえる総合化が急速に進み、卸各社は同じ商品を扱うようになりました。すると同業者間で重複する業務が増えますから、なるべく共同化して全体のコストを減らそうという動きが出てきた。そこで2002年、国分と日本アクセスが、商品マスターの管理や営業支援コンテンツの共同化を担う新会社ジェフネットを設立。一定の成果を上げた後、共同化に賛同する他の卸を含め、より多くの出資企業によってJIIが設立され、ジェフネットからマスター管理の事業を譲り受けました。
─ 酒類・食品のマスターを共同化する取り組みに、卸各社は一様に興味を持っていたのですか。
井口: はい。(JIIの設立を)説明にいくと「待ってました」という声が圧倒的多数でした。営業など競争力の原点を一緒にやるというのはあり得ませんが、マスターデータを共同化する利点については何の疑いもなかったと思います。
─ それだけマスター管理に手を焼いていた。
井口: 仕入れ価格やリベート条件、商品名でよかった時代は苦労していなかったんですよ。ところが、一方で自動倉庫をはじめとする物流のシステム化に伴う管理項目の増加があり、他方では単に商品のスペックだけでなく特徴など定性的なマーケティング情報まで登録が必要になってきた。その結果、1つの商品に対して登録しなければならない情報の項目数が、この数年だけみても3倍ほどに増えてしまいました。
─ そんなに増えたんですか!
井口: 特に大きな要因となっているのは品質情報です。かつては原産国や消費期限などでしたが、アレルゲン情報に加えて、原材料も登録する。
─ 消費者への情報提供は大切ですが、品質情報はキリがありません。
井口: どこまでマスターとして用意するか、今まさに業界で検討しているところです。現時点で、とりあえず230項目としています。
─ 230項目だと、「とりあえず」のレベルを超えてます(笑)。
井口: メーカーさんから商品情報を入手する手段も複層化しています。FAXやメールはもちろん、ファイネット(本誌注:業界VANの運営会社)の業界データベースなどさまざまな仕組みを使わないとマスターが整わない。
─ 項目が増えたうえに、情報の入手経路も多様化した。そこに最近の新商品ラッシュが加わると、マスター管理は気が遠くなるような作業になりますね。
井口: 多いときは年間で30万件超える新商品が出ます。卸にとってマスター管理はとてつもなく負荷の大きな業務になってきているわけです。
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