2015年、ICT関連の大きなトピックと言えば、IoT(Internet of Things)とAI(Artificial Intelligence:人工知能)だろう。そのうちAIについて新たな動きがあった。米国の著名な起業家や投資家、研究者が結集し、オープンな形でAIを研究する「OpenAI」の設立である。
人の仕事を奪ったり、破壊したりする(邪悪な)ものではなく、人類全体の利益に貢献するAI(人工知能)を開発する――。2015年12月11日、そんな目的でAIを研究開発する団体の創設が明らかになった。
名称は「OpenAI」。米シリコンバレーの著名起業家や投資家が集う非営利の団体であり、最低でも10億ドル(約1200億円)の資金を擁して、次世代AIに取り組む。成果はオープンソースとして公開し、誰もが利用できる形にする計画だ(OpenAIのWebサイト、画面1)。
OpenAIのトップを務めるのは、電気自動車の先駆者として知られるTesla MotorsのCEOであるElon Musk氏、スタートアップ支援として著名なY Combinatorのプレジデントを務めるSam Altman氏。研究のトップはIlya Sutskever氏(機械学習の専門家でGoogleのBrain Teamにおけるキーメンバーを務めた)、CTOはGreg Brockman氏(Stripeというフィンテック・ベンチャーの元CTO)が担う。ほかにも世界的なリサーチ・エンジニアやサイエンティストが結集した。
資金はトップの2人に加えて、Reid Hoffman氏(LinkedInの創業者)、Peter Thiel氏(起業家、投資家で『ゼロ・トゥ・ワン』の著者)といった個人のほか、Amazon Web Services 、印Infosys、YC Researchなどの企業も拠出する。OpenAIに集まった研究者、投資家、起業家の顔ぶれの豪華さは過去にはない。
もっとも、具体的な研究内容や分野、研究計画は、今のところそれほど鮮明ではない。例えば資金について、「10億ドルの資金はコミットされているが、今後数年はごく一部を使うだけ」としている。目指すのは「人間が行う知的なタスクを実行するAI。ただし人間の仕事を置き換えるのではなく、拡張することが目標」。それに向けて、自身の研究成果や他の研究成果を睨みながら年次ベースで研究計画を決め、実行する模様だ。外部の若手研究者とも協力、支援する。
それにしてもなぜ今これほどの人材が結集し、OpenAIをスタートさせたのか?
トップを務めるMusk氏は、以前から「AIは実在する最大の脅威」「AIは悪魔を呼び出すようなもの」など、”AI懐疑論者”として知られる。宇宙物理学者のStephen Hawking氏、Bill Gates氏なども同様だ(参考:Stephen Hawking, Elon Musk, and Bill Gates Warn About Artificial Intelligence)。
しかし批評家のように外部から声を上げているだけでは影響力は限られる。それなら同じ問題意識を持つ人を集め、協力してAI研究を先導するべき――そんな考えがあるようだ。OpenAIがWebサイトの冒頭で、「ゴールは、人類全体の利益に最大限資する方向でデジタルインテリジェンスを進化させること」と、人類全体の利益をあえて宣言するゆえんでもある。