SAPジャパンは2016年11月17日、ERPの新版「SAP S/4HANA 1610」の提供を開始した。これまで独立していたSCMなどの機能を統合して簡素化したほか、ユーザーインタフェースの新版に対応している。
今回のSAP S/4HANAの新版について、S/4HANAジェネラルマネージャーの長坂宏毅氏は「処理のシンプル化とUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上を図った」としている。
処理をシンプル化するというのはどういうことか。例えばかつて銀塩写真の時代には、カメラで撮った写真を遠隔地の人に送るには、カメラのフィルムを現像して紙に焼き付けたものを郵便で送る必要があった。現在は、スマートフォンで撮ったデータをインターネットを介して送るだけで済んでしまう(図1)。この工程のシンプル化が、時間やコストの大幅な削減を生んでいる。
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この構造の違いをERPに適用させたのが、S/4 HANA 1610となっている。その前段となっているのが、2015年11月にリリースしたSAP HANA Enterprise Management 1511。それまでのSAP Business Suiteは、SRM(購買)、PLM(研究・開発設計)、SCM(サプライチェーン)、CRM(顧客管理)、Industry(業種別固有機能)などの製品が、それぞれに固有のデータベースを持つ独立したソリューションとして開発されていた。
SAP HANA Enterprise Management 1511では、SAP HANAデータベースに各ソリューションを最適化し、データベースを統合したシンプルな構成にした。処理の高速化やスループットの向上を実現したほか、トランザクション処理(OLTP)とレポート分析処理(OLAP)の融合を図っている(図2)。
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新版では、SAP Business Suiteからの移植などにより、サプライチェーン関連を中心に機能を拡張している。SAP EWMから移植された「拡張倉庫管理」は、マテハン(マテリアル・ハンドリング)機器による自動化、作業と作業員の最適化、モバイルデバイス対応などを導入できる埋め込み型機能。「資材所要量計画」は、SAP SCMの「生産計画および詳細計画」を移植したもの。
UXの向上は、2013年から採用されているHTML5ベースのシンプルなUI(ユーザーインターフェース)のデスクトップ/モバイルアプリである「SAP Fiori」の新版「2.0」により実現している。ユーザー個人が使い易いように、詳細なパーソナライズ設定が行える“Me”エリアにワンクリックでアクセスできるほか、システム内の高速検索や、個人に連動した様々な通知へのアクセスを一元化した「通知のパーソナライズエリア」を設けた。
加えて、新たな業種別ソリューションとして「石油・ガス」と「小売」を追加したほか、レポート分析/シミュレーション機能の高度化を図っている。
S/4HANA 1610でシンプル化されたデータモデルと、リアルタイム集計可能な新しいUXの採用により、可能となる機能を2例あげている。会計伝票のバッチ連携を排除した統合データモデルと、明細伝票へのドリルダウンを可能にしたKPIコックピットにより、継続的な月中での収益把握が可能になる。また、在庫をリアルタイムに反映可能なデータモデルと、即座に反映できるKPIおよびそれに基づいたシミュレーションにより、例外対応にかかる業務コストの削減が可能になる。
提供形態は、従来のオンプレミスに加え、クラウド版も用意した。SAP HANA Enterprise Cloud(HEC)から提供する「Custom HEC」のほか、オンプレミス機能をすべてカバーしたS/4HANA Cloudの「Private Option」、SaaSとして特定機能を提供する「Public Option」がある。