2016年11月29日、インプレスは「IT Leaders Forum 競争戦略としてのワークスタイル革新」セミナーを都内で開催した。当日は、注目すべきユーザー事例のほか、Sansan、ワークスモバイルジャパン、Box Japanの最新ソリューションを詳説するセッションが設けられた。基調講演の壇上に立ったのは、デンソー 技術開発センターDP-EDA改革室 室長の鈴木万治氏。同氏は、『デンソーが挑む企業SNSによる「真の総智総力」の実現~やってみてわかったことと、これからの展望~』と題して、企業コラボレーション実現に必要な“デンソー流”社内SNS活用のポイントについて語った。

タイムライン型の情報構造へTOPページを改良した理由

 前述のように、デンソーではDP-EDA改革室のプロジェクトにSNSを導入した。電子ハード設計環境をグローバルで刷新する2年間の時限組織で、設計から生産まで多くの部署が関連するプロジェクトだ。

 そこでSNSに求められた役割は、(1)海外拠点の意見の吸い上げ、(2)グローバルな情報共有、(3)つながっている感覚の共有などだ(図2)。

図2:DP-EDA改革室でのSNS活用(初期の例)(出典:鈴木氏のプレゼン資料より)

 早速、コミュニケーションサイトが立ち上げられた。ところが、初期のサイトでうまくいったのは「プロジェクトの名称公募」のみ。それ以降は、投稿者が鈴木氏だけといったような状態が続き、メンバーの利用がなかなか活性化しなかったという。

 その理由を考えた時、鈴木氏は、TOPページがいかにもポータルサイト然としており、どこに何の情報があるのかがわかりにくいことに気付いた。ROMが大半で、サイレントマジョリティが多いという日本ユーザーの特性にマッチしていなかったと鈴木氏は振り返る。

 そこで、TOPページの構成を、Facebookを参考に「タイムライン型」に変更した。これにより、すべての情報がTOPページタイムラインに流れてくるようになり、自分が見たい情報をクリックすれば詳細画面を見ることができるよう改良された(図3)。

図3:ポータル型からタイムライン型へ <出典:鈴木氏のプレゼン資料より>

 「ポータル型のTOPページは、情報が構造化され、定型的な業務には向いている一方で、全体の情報の流れの把握が困難だというデメリットがある。このため、組織横断型に進めるプロジェクト型の業務には不向きだ」(鈴木氏)。

 現在も、社内SNSのさらなる利用促進という課題に取り組んでいる。今のところ、欧米の社員の書き込みが多く、彼らの意見を集約するのには一定の効果があることが確認できたものの、組織文化、ITリテラシーの面で日本社員との壁を感じることもあるという。メールとは異なる情報共有の手段として、また、組織を超えた「顔がみえる」コミュニケーション基盤としての改善を続けているとのことだ。

“和魂洋才の活用”には組織文化の彼我の違いを理解する必要がある

 こうした改善を、鈴木氏は“和魂洋才の活用”と位置づけている。和魂洋才とは、日本古来の魂を大切にしつつ、西洋の優れた知識や技術を取り入れて調和・発展させていくという意味の言葉だ。そのためには、組織文化の彼我の違いを理解することが欠かせない(表1)。

表1:和と洋の文化のまとめ(出典:鈴木氏のプレゼン資料より)

 たとえば、狩猟文化の欧米では、狩猟の上手な個が強烈なリーダーシップを発揮し、組織を引っ張っていく。一方、農耕文化の日本では、労働集約型のため個の力よりも組織力が重視される。

 こうした思想はボードゲームにも反映される。たとえば、西洋のチェスと日本の将棋の大きな違いは、チェスは取られた駒は盤上から取り除かれるだけだが、将棋では奪った相手の駒を味方の駒として活用することができる点にある。

 また、欧米ではマニュアルが重視され、何かを短期間で習得することが良いこととされる。一方、日本の伝統的な教え方は“見取り”だ。弟子は師匠から言葉や文章で教わるのではなく見て学ぶため、時間はかかるが、自分なりの解釈を加え、師を超えることもできるという特徴がある。

 さらに、ものづくりでは、ブロンズ像などの塑像は「スクラップ&ビルド」が基本で、作りながらバージョンアップしていく。一方、日本の木像の一刀彫りなどは、失敗したら終わりという思想で、最初から高い集中力と完成度が求められる。

 “和魂洋才の活用”を実現するには、こうした彼我の違いに留意し、下記の点に留意するべきであろう。

  1. いきなり直接的な成果を狙わない:欧米的な活用は、文化的にも人事制度的にも壁がある
  2. 奥ゆかしさの文化を理解する:間違えることに対しての過度の意識や、強く意見を述べることへの戸惑いがあることを理解する
  3. ゆるやかな“場”の醸成を目指す:組織の縦串が「ポータル」とすると、ソーシャルな横串が「SNS」であり、明確に区別することが重要

 SNSを日本という土壌にあった使い方をするにはまず、元気な苗床、すなわち「情報発信力のあるキーユーザー」を育て、時間をかけて“場”を醸成していくことが大事だ。