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[ベテランCIOが語る「私がやってきたこと、そこから学んだこと」]

次世代のIT部門のリーダーに向けて伝えたいこと

最終回

2017年4月3日(月)寺嶋 一郎(TERRANET代表/IIBA日本支部代表理事)

前回、前々回と、筆者の考えるデジタル時代を迎えたIT部門の向かうべき方向について考えてみた。いよいよ本連載の最終回を迎えるにあたり、次世代のITリーダーに向けてぜひ伝えたいことを書いてみようと思う。何かを読み取っていただければ幸いである。

感謝からスタートし、まず与えること

 先日、ある異業種交流会に参加した。まず互いにお客様を紹介し合うのだが、そこで一つ感心したのが「Give First、まずは与えよ」というルールだ。自分がお客を得るために努力するのではなく、まずは他人にお客さんを紹介する努力をするのだ。他人に与えることで信頼を得て、それがめぐりめぐって他人から与えられるようになる。

 この「まず与える」という考え方も大事だと思う。自分から与えることで、与えられる。与えられなくても気にしない。与えた人でない別の人から与えられるかもしれないからだ。そうして互いに与え合うことが始まっていく。奪い合う世界より、与え合う世界のほうがどれだけ住みやすい世界だろうか。

 常に不平、不満を持ち、現状に満足せず「もっとあれも欲しい、これも欲しい」と人から奪うような思いを抱いていて、幸せになれない。これさえ手に入れば幸せになると思ってても、手に入った途端に、また次の欲がでてくるものだ。欲には限りがなく、やはり、足ることを知るということも大事だ。

 何よりも、人は一人では生きられない。様々な人の「お陰」で生きている、というか「生かされて」いる。そうであれば、まず今日、命があることを感謝をすべきなのではないだろうか。実は感謝をすることで、まわりが輝いて見えるようになる。ぜひ感謝の思いで一日を始めることをお勧めしたい。

先を見てガイドをするのがリーダーの役目

 クラウドで世界を変えたAWSの社員と話して感銘を受けたことがある。Amazonではオフィスや家具などにはお金を使わない代わりに人を重要視する。どんなに優秀でもビジョンや社風に共鳴する人材でなければ決して採用しないのだという。そして目の前の利益より長期的なビジョンの実現を優先するという。

 こんな話もある。Amazonの本業である書籍販売とカニバリゼーション(共食い状態)するという理由で、ウォールストリート(株主)から電子書籍への進出に反対された。しかしビジョンを優先して、Kindleが生まれた。まさに彼らの経営こそ、いい意味での日本的経営ではないかと思う。

 それに比べ日本企業は今、利益最優先の数値経営の悪弊に染まっていないだろうか。利益は結果として後からついてくるものであり、ビジョンや人材育成が本来、大事なのだ。数値しか見ない経営者は、近い将来、人工知能に取って代わられるだろう。企業が社会に奉仕し、社員を幸せにするために、真にやるべきことは何で、それがやれる人材を見定め、育ってることこそが大事なのではないかと思う。

 このことから明らかなように、リーダーの重要な仕事とはビジョンの提示と人材育成だと思う。リーダーは時代の先を見て、どちらの方向へいくべきかを指し示さなければならない。そして未来の見取り図を掲げなければならない。

人材育成は育つ場を作ること

 そして人材育成も大事だ。これからのデジタル時代、新たなビジネスモデルの創出を行う企画力、実行力こそが企業の浮沈を決める。それができる人材は簡単に育成できない。人の能力にはスキルとセンスがあり、スキルはある手順で学べば身につけることができる。センスはそうではない。企画を作り、実行するにはスキルではなく、センスが必要だ。

 本社をスリム化する前の積水化学の生産技術部では、ポテンシャルのある学生を一本釣りで採用し、彼らを工場に派遣して現場で様々なIE(インダストリアルエンジニアリング)やシステム導入などの経験をさせる。月に1回は全員を集めて、それぞれの仕事の進捗や課題などを議論させ、また最新の技術や手法などの勉強会を行っていた。そこはメンバーが互いに切磋琢磨をする場でもあった。

 人材育成の勘所は、人が育つ「場」をいかに作るかということに尽きるのではないかと筆者は思う。メンバーが全員が同じように育つわけではないが、そういった場ですくすく伸びる人間こそが、会社を支え引っ張る人材となるだろう。

 ちなみに、グローバルなデジタル変革の初戦において、日本は欧米企業に惨敗したと筆者は思う。日本ではプログラマやエンジニアの地位が低く、将来を担う理工系の学生も少ない。ある会社の新入社員の女性がIT部門に配属されて泣き出したという話も聞いた。10年前だけではなく、今もITは“3K”どころか“7K”、さらには“42K”とまでも言われる不人気な職種なのだ。

 このデジタルビジネスの時代に、まったくもって日本のITにまつわる惨状には目をつむりたくなる。国をあげて抜本的な改革の手を打たないと、グローバルなデジタル化の大波にのまれ、多くの日本企業が姿を消していく…。そうならないために、まずは日本企業のIT部門が強くなり事業をリードする存在にならなければならない。

 IT関係の仕事をした経験から学んだことを本連載で書き綴ってきた。きれい事と思われる読者がおられるかもしれない。しかしこんな時代だからこそ、きれい事(=ビジョンや想い)は重要だと筆者は思う。それなしにする仕事は、面白くないのではないかと考える。新たなパラダイムシフトの中で、その先頭に立つ次世代ITリーダーの皆さんに、今回の記事が少しでも参考になれば幸いである。
 

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