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[ベテランCIOが語る「私がやってきたこと、そこから学んだこと」]

次世代のIT部門のリーダーに向けて伝えたいこと

最終回

2017年4月3日(月)寺嶋 一郎(TERRANET代表/IIBA日本支部代表理事)

前回、前々回と、筆者の考えるデジタル時代を迎えたIT部門の向かうべき方向について考えてみた。いよいよ本連載の最終回を迎えるにあたり、次世代のITリーダーに向けてぜひ伝えたいことを書いてみようと思う。何かを読み取っていただければ幸いである。

他人ではなく自分を変えること

 正直に書くと、筆者はリーダーになりたての若い頃、「俺の言うことに黙ってついて来い」といわんばかりのやり方で部下を仕切ろうとした。部下が従ってくれなかったりすると、「なぜ俺に従えないのか?」などと怒ったりした。その結果、従わない部下との対立が深まり、仕事もうまくいかずに、にっちもさっちも行かなくなった苦い思い出がある。

 何度かそんなことを経験し、気づいたのは「あいつはこうすべきだ」と自分で思ったとしても、他人の思いはコントロールできないということだ。どんな状況下であっても、心の中の思いは自由なのだ。表面上は服従しているように見えて、心の中は上司への怨嗟の思いで一杯だったりする。自ら自発的に働いてこそ、生産的な仕事ができる。

 実は自分の思いでさえも、なかなか思うようにコントロールできない。ましてや他人の思いを支配できるはずがない。そうであるならば、この状況を変えるには、自分の思いを変えるしかないと、そう気づいた。頑張って変えられるのは自分の思いであり、そこから出発するしかないのだ。

 では、どうやって自分の思いを変えるか。まず冷静になり、客観的に自分を見つめ直す。なぜ「あいつが嫌いだ」と思うのか、その原因を考えてみる。トヨタには「なぜ」を5回繰り返すという風土があると言われるが、マイナスの思いを抱く原因を、まさに「なぜなぜ分析」で見つけ出すのだ。原因がわかれば、それを取り除く努力をし、次に同じような状況になっても同じ間違いは繰り返さないと誓えばいい。

 人はむかっとする時、その感情に任せて、暴言を吐いてしまい、後で後悔をしたりする。怒りの感情に身を委ねる前に、ゆっくりと深呼吸をして現状分析をしてみる。ひょっとして自分に落ち度がないのか、相手の立場に立ったらどうなのかなどと瞬時に分析できれば怒りは治まるかもしれない。

 もちろん簡単ではなく、その証拠に「アンガーマネジメント」という手法があり、そのための協会もある。怒りの感情はやっかいでマネジメントする必要のあるものなのだ。もしリアルタイムで怒りをコントロールできれば、暴発して人間関係に亀裂を生じるようなことをなくせる。そう考えるとメリットは大きい。特に部下を叱る時には感情的になってはいけない。本人の成長のためを考えて冷静に愛情を持って叱るべきである。

 昨今、シリコンバレーのIT企業では「マインドフルネス」と呼ばれる瞑想が流行っている。今経験していることをありのままに観察することで、ストレスが軽減、集中力が増し、他者を思いやれるようになるという。そうして社員は前向きになり、生産性も上がっていく。もともと座禅や内観、反省法につながるもので、これを仕事に活用しているわけだ。

 ちなみに、そういった企業はとうの昔に「成果主義」と言われる人事評価を捨て去っている。短期の数値成果を最優先した成果主義は、報酬という人参を目の前にぶら下げないと走らない社員ばかり作ってしまう。そんな問題点に気づいたのだ。それよりもチームとして互いに協力することを評価し、長期的な人材育成を主眼とした人事制度に変更している。これは、仕事の報酬は仕事で報いる日本の人材制度の本来の考え方だったはずだ。

試練は自分に足りないものを教えてくれている

 話を元に戻そう。部下だけでなく、上司や取引先などからリーダーには様々な試練が訪れる。そんな時、「あいつが悪い、会社が悪い」と責任を押しつけても、現実は変わらない。そればかりか、どんどん悪くなる。責任転嫁しても何かが好転することは決してない。変えることができるのは常に自分である。冷静になり、自分を起点として、こういう状況になった要因はなかったのか反省してみる。

 大事なのは、そういった試練も逆に自分を鍛えて伸ばすために訪れるのだと考えることだ。「ありがたいことに、この逆境は自らの足りないこと、欠けていることを教えてくれている!」と前向きに捉えるのだ。神様はその人に乗り超えれない試練は与えないという。苦難を通じて人間は様々なことを学ぶ。そうやって自分が成長していくことこそが、本当の幸せではないだろうか。

 さらに、リーダーは自ら意思決定したことに対して、責任をとるのも大事だ。さらに部下を引っ張っていく上で、彼ら彼女らの仕事に責任を持たなければならない。そういった責任を回避しようとすればするほど、その時はいいとしても状況は悪循環となる。逆に、どんな結果になってもちゃんと受け入れようと腹をくくれば、うまくいくものだ。

 筆者自身、「失敗したら辞表を出そう」と思いながら進めたプロジェクトがある。命を取られるわけでもないし、腹を据えれば不思議と怖くないものだ。幸い、辞表を書かずに無事に定年を迎えることができた。これも優秀な部下のお陰である。「失敗したら俺が責任を取るから、頑張ってやってくれ」と任せれば、部下はめったに失敗などしないものだ。

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