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広がるAIの応用分野と、それが示す現時点での限界

「東ロボくん」凍結が意味するところ

2017年4月17日(月)大和 敏彦

AI(人工知能)は着実に応用分野を広げ、成功事例が出てきている。一方で東大入試突破を目標にしていた「東ロボくん」の開発が凍結されたり、ガン治療にAIを使う米MDアンダーソンがんセンターのプロジェクトが保留されたりなど、現時点でのAIの限界やAIプロジェクトの進め方を考えさせられる出来事が起きている。今回は、AIの成功事例や停止されたプロジェクトからAIの活用と限界について考えてみたい。

 『IoTとAIが変えるUI(ユーザーインタフェース)』で触れたように、AIの応用である音声認識や自動応答がアシスタント機能やボットという形で広がってきている。他の分野でもAIの活用は色々と始まっている。使用目的からその活用を整理してみたのが図1である。それぞれを見てみよう。

図1:現時点でのAIの応用分野図1:現時点でのAIの応用分野
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(1)自動応答などのアシスタンス機能

 銀行や保険会社のコールセンター、WebページやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の会話ボットにおける自動応答という形で使われている。コールセンターでは、AIが音声認識により、会話の内容を文字の形で記録するとともに顧客の声をリアルタイムに解析し、顧客の課題を突き止めて回答の候補や回答のための情報を見つけ出す。オペレーターの顧客対応時間を減らすことによって、顧客満足度の向上とオペレーター不足の解消が同時に可能になる。

 また米Googleは、検索の利便性向上へ応用している。機械学習によってWebサイト内のキーワードからそのサイトの特徴を認識し、その学習によってユーザーがより便利に必要な情報を探し出せるようにしている。

(2)膨大な情報の中から最適解を見つけ出す

 自動応答の回答を見つけ出すのにも使われているが、膨大な情報から正確に最適解を見つけ出すのは、AIが得意とする分野である。米IBMの「Watson」が、米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」でクイズ王を下す実績を上げたのが、その一例だ。医療分野での応用が進んでおり、膨大な医学雑誌や論文、臨床医療のデータ、数十万件に及ぶ医学的根拠から、その病状への最適対処を見つけ出す。米Enliticは、CTスキャンやMRI、顕微鏡写真、レントゲン写真などの画像をディープラーニング(深層学習)によって学習させ、解析結果と遺伝子情報を組み合わせることでガンの悪性腫瘍を的確に発見できるシステムを開発し、精度が高い診断を可能にしている。

(3)ルールを見つけ出す

 膨大なデータから因果関係や、相関関係、論理関係を見つけ出し、それを元に最適化を図る。一例が、データセンターの省エネへの応用である。Googleは「AlphaGO」を生み出した米DeepMindのニューラルネットを使い、データセンターの5年分のデータを学習させ、それを基に想定されるサーバーの使用量に対する電力量の予測モデルを作った。そのモデルを使い、サーバーが、より多くの電力量を必要とする時間を予測し、その時間に冷却システムが使う電力量を下げることでデータセンター全体の電力量を最適化する。これによりデータセンターの冷却に使う電力を40%節約したという。

 ここで発見したアルゴリズムは、大型の製造工場や、大規模な施設の空調システムにも水平展開ができる。ディープラーニングによってルールを見つけ予測モデルが作れれば種々の最適化が図れる。

(4)判断と実行の高速実行

 これまでより、より柔軟に対応するために高速な判断と実行が必要な分野にAIが使われている。株のトレードやビジネスマッチングへのAI応用は大きな流れになっている。個人を対象に、「ロボットアドバイザー」と呼ばれる投資の分析とアドバイスを行うサービスもあるが、株の「高速トレード」と呼ばれる分野ではAIによる売買が主流になっている。高速トレードは、米国市場と英国市場のような異なる市場において「同銘柄の金額差」や「システム処理の時間差」を利用し、1秒間に2000回という超高速で取引し、少額の利益を積み上げるものだ。高速トレードの90%をAIによるトレードが占めるとされている。

 ビジネスマッチングの分野も同様だ。「RTB(Real Time Biting)」と呼ばれる技術を使った広告枠への入札がその一例である。RTBでは、消費者がサイトなどにアクセスし、広告枠を表示しようとする瞬間に入札が行われる。広告主は、ユーザーのページ閲覧履歴などに基づいて推定された属性を元に、その競売に参加するか、いくらで参加するかなどを瞬時に判断する。消費者の属性に基づく効果的な広告配信が可能になる。これらの例のように、いくつかの条件に基づき瞬時に柔軟な判断を下すためにはAIが必要とされる。

(5)行動監視

 機械学習によって最適解が見つけ出せるということは逆に、正しくないものを見つけ出せるということでもある。Googleは、Webサイトの特徴を発見するとともに、Webサイトのデータを分析することで、質の低いコンテンツや有害コンテンツを見分け排除している。他にネットワークやサーバーのログ、メールを分析し、不正や不正の兆候を見つけ出けだしたり、サイバー攻撃の兆候を見つけ出したりするためにAIが使われている。

 クレジットカードの分野では、不正使用が広がることを防止している。AIがクレジットカードの使用状況を常時モニタリングすることで、会員の利用パターンを把握し、パターンから大きく外れる行動を発見したり、蓄積している不正使用のパターンと合致したりすれば、カード会社から会員に連絡し不正使用の広がりを防止している。これによって不正使用被害額は、従来の年間100億円超から2015年時点で85.3億円に抑えられているという。

(6)自動運転

 画像認識やセンサーの技術と機械学習によって、自動車の自動運転の実現や高度化が急速に進もうとしている。それを先取る形で、現時点の技術による自動運転の応用範囲が広がっている。ロボット掃除機の「ルンバ」が、その一例だ。ルンバは、部屋の形状や家具の配置などを地図データとして作成することで、センサーによって障害物を避けるだけでなく、同じ場所を通らず無駄が少ない効率よいルートで掃除をし充電器の位置を探し出して充電する。

 米Amazon.comが買収したロボット「Kiva」は、AIを使って棚を移動させるロボットで、倉庫や集配センターにおけるピッキングのための棚の移動を最適化する。Kivaに商品の選択と運搬を任せることで、作業員の無駄な動きを削減できる。

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