企業の成長や競争力の向上に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)の実行が重要な意味を持つ中で、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)をビジネスに活用するための環境も整ってきた。その一環としてエコシステムが拡大しているのが「フォグ(Fog:霧)コンピューティング」である。今回は、フォグコンピューティングの動向と、その価値を考えてみたい。
前回、企業にとって、ますます重要性を高めている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と、そのためのテクノロジーとしてのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を取り上げた。IoTは、センサーやデバイスの進化と相まって、データの収集と分析を簡単に実現し、データの見える化を進める。データ分析によりルールや相関・因果関係といったリッチなインサイト(洞察)も見つけ出せるようになった。これらが新ビジネスの開発や既存ビジネスの変革の方法を変貌させる。
当然ながら、IoTの前提はクラウドである。クラウドは、豊富なコンピューティングパワーとストレージによって、企業のオンプレミスにあるサーバーやストレージを置き換える安価で柔軟なインフラとして浸透してきている。同時に、開発環境やサービス、スケーラブルな仕組みによって、新しいビジネスのプラットフォームとして重要な役割をも担っている。こうした流れを受けて、Amazon.comやMicrosoft、Google、Salesforce.com、IBM、Oracleといった米国の大手ITベンダー各社が「IoT Stack as a Service」を提供することで、クラウドやIoTの推進をビジネスとして加速させている。
しかしクラウドによるデータ処理では、迅速な応答が必要な用途では、解析処理のための時間やネットワークの送受信によって発生する遅延が許容できない状況が起きてくる。クルマの自動運転や工場内でのロボットによる自動作業、データに基づいた迅速なアクションを伴うようなケースなどが相当する。データ量の増大によっても、デバイスとクラウド間のデータ転送にネットワーク帯域が対応できなかったり、ネットワークの輻輳によって生じる遅延が許容できないレベルになったりする可能性がある。
迅速な応答を支えるための仕組みとしてのフォグ
これらの課題を解決するためには、低遅延でデータを取得する方法と、データを即時的に処理し迅速に応答するための仕組みが必要になる。そのソリューションとして考えられたのがフォグコンピューティングだ。
フォグコンピューティングについては2015年8月に『IoTが求めるフォグコンピューティングの実際』と題して一度、取り上げた。その後、フォグコンピューティングを推進する団体が設立されたほか、2016年10月には米HPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)がセンサーデータを収集するゲートウェイとエッジで分析するためのコンバージドシステムを発表するなど、関連製品も増えてきている。こうしたフォグコンピューティングの最新動向から、その必要性や価値を改めて考えてみたい。
フォグコンピューティングでは、コンピューティング、ストレージ、ネットワークで構成されるリソースをエッジに展開し、ローカルにデータを処理する。このエッジに配させるリソースを「フォグノード」と呼ぶ。ローカルでの処理により即時性に対応できるだけでなく、フォグノードのパワーを使って、データに基づく判断と、それに続くアクション、分析やストリーミングデータのモニタリングや画像認識を実行できる。デバイスからクラウドに大量データを送って、ネットワーク帯域を圧迫することも防げる。
ただし、フォグノードが独自に動くわけではない。図1に示すように、クラウドと連携しながら両者で役割を分担する。すなわち、フォグコンピューティングは、クラウドによる全体最適の機能と、フォグノードが実現する部分最適の機能を緊密に連携することによって、クラウドのインテリジェンスをエッジに広げると共に、様々な要求により柔軟に対応できるアーキテクチャーの実現を目指している。そのため、データの処理やデータ保存の連携、ルールなどインサイトの共有のほか、クラウド側からのフォグノードのモニタリングや管理が必要である。
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