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[イベントレポート]

デジタルが導くクルマと社会の未来―“攻め”の日産を支えるグローバルITインフラ構築・運用の実際

クラウド&データセンターコンファレンス 2017 Summer オープニング基調講演レポート

2017年7月26日(水)狐塚 淳(クリエイターズギルド)

2016年、ルノー・日産アライアンス総販売台数は996万1347台に達し世界4位に――自動車業界の変貌期に“攻め”の姿勢を崩さない日産。好調な業績を支えるのが、中期IS/IT戦略「VITESSE」に基づき、日・仏・米の3拠点を軸に構築されたグローバルITインフラである。2017年6月20日、東京都内で開催されたクラウド&データセンターコンファレンス2016-17(主催:インプレス)のオープニング基調講演に、同社グローバルIT本部でチーフITアーキテクトを務める石島貴司氏が登壇。デジタルビジネスで要求される高い俊敏性・柔軟性を獲得すべく、クラウドや先端OSSも果敢に採用したグローバルITインフラの設計・構築の軌跡を詳らかにした。

世代管理で進化を続ける標準プラットフォーム

 日産のグローバルITインフラの要となる標準プラットフォーム。最大の特徴は、プラットフォームに「世代管理」の概念を取り入れている点だ。

 Global IS/ITは、6年間のIS/IT戦略プログラム期間中、同時に新旧2世代の標準プラットフォームを管理しながら新世代への移行を図り進化させていくというライフサイクルを構築している。第1世代では日産内の共通プラットフォーム化、第2世代では仮想化を採用してWindowsとLinuxの両OSのサポートを完了し、範囲をルノーのIT環境にも拡大。第3世代では、これまでの方向性を継承しつつ新技術への対応を図り、CAD環境を担うシーメンスのチームセンターともプラットフォームを共通化した(図6)。

 標準プラットフォームがもたらした効果として、2017年6月時点で2655ノードが物理サーバー221台で稼働し、仮想化集約が順調に進んでいる。石島氏によれば、ITリソース提供のリードタイムも以前なら2週間かかっていたものが、最短1日で可能となっているという。

図6:世代管理による標準プラットフォームのシフトアップ(出典:日産自動車)
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 この時期を通じて、インフラチームはコストパフォーマンスを維持しながら、さまざまなサービスの提供に貪欲に取り組んだ。石島氏は、VITESSEの最終年度の成果として、「サポートするユーザー数とTCO(総所有コスト)の指標から、コストパフォーマンスをほぼフラットに袂ながら全体の最適化、効率化を実現することができました」と自チームの活動を評価した。

日産のデジタル経営を支える「INNOVATE」

 VITESSEプログラムの完了と共に一区切りを迎えた日産のグローバルITインフラ刷新だが、もちろんGlobal IS/ITの取り組みに終わりはない。この先6年のINNOVATEプログラムは、「データ駆動」「俊敏性」「革新性」の3つのキーワードを掲げ、デジタルテクノロジープラットフォームの整備に本腰を入れることになる(図7)。

図7:INNOVATEプログラムで目指すデジタルテクノロジープラットフォーム(出典:日産自動車)
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 石島氏は、デジタルテクノロジープラットフォームの構成要素として必要な3つのプラットフォームを挙げた。「1つ目がデータドリブンを支えるビッグデータ/IoTプラットフォーム。2つ目がビジネスのスピードに追従するためのハイブリッドクラウドプラットフォーム。3つ目がデジタル化の進展により危険が増しているサイバー攻撃に対処するセキュリティプラットフォーム。この3軸でデジタルテクノロジープラットフォームを実現していきます」

 具体策として、ビッグデータ/IoTプラットフォームでは、ビッグデータへの扱いを容易にするためのデータのカタログ化と、そこからビジネス部門のユーザーが直感的に洞察を引き出すことを可能にするビッグデータパイプラインサービスをHadoopベースで構築するプロジェクトが始動している。また、ハイブリッドクラウドプラットフォームの推進では、基幹系システム(モード1)で旧プラットフォームからの移行を急ぐと同時に、新たな価値を創出するシステム(モード2)として、クラウドファーストな考え方、文化、組織、プロセスの確立にも注力する構えだ。

 石島氏は最後に、近年の取り組みの1つとして、システム/アプリケーションのモダナイゼーション(現代化)プロジェクトを紹介した。「一連の構築や移行を短期間かつ低コストで行うための、アプリケーションポートフォリオ分析の取り組みです。既存のシステムやアプリケーションのビジネス価値を数値化し、それをベースに、アプリケーションの廃止、再構成または改修、プラットフォームの単純アップグレードといったような仕分けを行っています」(石島氏)。また、このプロジェクトのコントロール拠点として、インドの開発子会社がモダニゼーションサービスを手がけているという。

 デジタルトランスフォーメーションの潮流の中、新技術へのたゆまぬ対応や、クルマの範疇を超えた領域でのビジネスの立ち上げなど、ルノー・日産アライアンスの経営には今後、さらなる変化が待っている。中期経営戦略と同期したIS/IT戦略に基づき、6年単位で刷新を重ねてきたグローバルITインフラは、経営やビジネス部門が挑むさまざまなイノベーションを文字どおりの基盤として支えることになるだろう。

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