[経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略]

企業活動にとってのITの役割とは何か─SAP2025年問題への対策を考える【第2回】

2017年9月22日(金)青柳 行浩(NTTデータ グローバルソリューションズ ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長)

企業の基幹システムとして最も利用されているSAPから従来のR3の後継として全く新しいS/4HANAのリリースやデジタル化というブームの到来により、企業における基幹システムの今後の在り方やITの位置づけが混迷の様相を呈してきている。本連載では基幹システムとデジタル化の関係を明らかにし、今後の基幹システムをどのように考えていくべきかを検討していく。第2回目は企業の活動にとってのITの役割は何かということを整理し、今後のITを検討する上でのフレームワークを策定した。

 企業活動は、保有している各資本(財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)を個々の事業に配分し、資本を増加させるために、事業毎に事業活動を行うことだ。複数事業を運営している企業では、企業全体の資本を増加させるために一つ一つの事業活動を単独で行うだけではなく、各事業間でのシナジー効果を考慮した上で、事業横断でどのように全体最適化するかも重要な経営課題といえるだろう。そして、増加した各資本を再投入、事業活動を行うことで継続的に企業拡大を目指す(図1)。

図1:企業活動とは
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 事業活動は各資本からOUTPUT(製品、サービス、廃棄物、その他)を生成し、それをOUTCOMESとしての各資本に変換する一連のプロセスを指している。この事業活動を具体的に展開したものが、事業のバリューチェーンといえる。バリューチェーンでは、事業活動は、主活動(INPUT(資本)からOUTPUT(製品・サービス等)を生成し、OUTCOMES(資本)に変換するプロセス)、支援活動(主活動が円滑に効率よく機能するように支援するプロセス)の2つの活動に大別される(図2)。

(図2)企業活動におけるバリューチェーン
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バリューチェーンにおけるITの役割

 バリューチェーンでITは次のような3つの役割を担っている。

①IT = 工場・装置
 ITが主活動や支援活動を行うための工場や装置になっている。例えば、銀行では個人や企業から預金を集めて、それを企業や個人に融資を行い、預金金利と融資金利の差で収益をあげるというのが基本的なビジネスモデルだが、預金及び融資の管理はすべてITで処理されており、ITが銀行にとっての主業務のための装置になっているといえる。一方一般購買のプロセスから発生した伝票を会計処理につなげる一連の自動仕訳などの処理は支援業務における装置になっていると言えるだろう。

②IT = 業務支援
 ITが主活動や支援活動における業務の支援を行っている。例えば、各業務の実績を収集して、最終的に管理レポートを作成するという作業に対して、ITで収集された実績情報を分析し、人手で管理レポートを作成するという作業が業務支援にあたるといえる。

③IT = 製品・サービス
 IT自体が製品やサービスになっている。例えば、SaaSベンダは開発したアプリケーションを提供することがサービスとなっている(図3)。

図3:バリューチェーンにおけるITの役割
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 上記①~③の役割を担うためにITにはさまざまな機能が存在しており、それぞれの機能は非差別化機能と差別化機能に分類することができる。非差別化機能はすでに他社が実現しており、企業の競争優位に対して影響がない機能、差別化機能は、まだ他社が実現していない、もしくは圧倒的にすぐれており、企業の競争優位に働く機能のことだ。

 企業のITの中に非差別化機能が不足している場合には、ITを利用する通常業務が他社よりも劣り、競争優位どころか競争劣位となってしまう。例えば、数年前までは、インターネット販売はごく限られた企業のみが対応していたため、インターネット販売機能を保有していた企業はしていない企業に対して競争優位にあった。しかし、技術が汎用化していくことにより差別化機能であったインターネット販売機能が今では非差別化機能に転換してしまったのだ。インターネット販売を行っていない企業は他社に対して競争劣位にいるのではといえる状況にすらなっている。

 このように油断していると差別化機能は、技術や提供方法のコモディティ化により陳腐化し、非差別化機能に移行してしまい、単なる差別化機能だと思い、導入を行っていなかった企業は競争劣位になってしまう可能性があるのだ(図4)。

図4:非差別化機能と差別化機能
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 基幹システムというと人により、システムの範囲や対応している業務が異なってしまうので、本稿では基幹システムは主活動及び支援活動における工場であり、業務を実施するための装置のことと想定し、①の範囲を指すこととする。

 ERP登場以前の基幹システムでは主活動でいえば購買・在庫、生産・サービス提供、物流、販売・マーケティング及びアフターサービスなどの個々の活動単位でシステムが構築され、各システムの間をシステムインターフェースや人手により連携していた(未だにそうなっている企業もあるが・・・)。特に主活動のシステム間は連携していても、主活動と支援活動のシステムの間が分断されている場合が多く、一か月に一度しか連携していないため、翌月の後半にならないと経営数字が明確にならないという状況も普通に存在していた。

 主活動内と支援活動内及び主活動と支援活動のシステム全体をデータ連携させたものがERPパッケージといえる。ただし、①-1は銀行の勘定系システムのように業種・業界にきわめて依存しており、ERPパッケージで実現されていない場合も多い。

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