[経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略]
デジタル化の主役は周辺システム【第8回】
2018年5月8日(火)青柳 行浩(NTTデータ グローバルソリューションズ ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長)
ガートナーが提唱する「ポストモダンERP」では、ERPと周辺システムとの連携に焦点が当てられている。オンプレミスとクラウド、ハイブリッドクラウドといった利用環境を超えたシステム連携が当初は注目されたが、現在ではデジタル化の波にさらされている周辺システムとの連携が、ERPシステムの重要なテーマとなりつつある。今回は、ERPをデジタルトランスフォーメーションに適用させるために必要な、SAP S/4 HANAと周辺システムの連携について解説する。
デジタル時代の基幹システムではERPシステム(SoR=System of Record)中心の従来の基幹システムに加えて、周辺システム(SoE=System of Engagement、SoI=System of Insight、SoC=System of Contents)が含まれてくるようになる。
ERPシステムの欠点がここに
ERPシステムは業務と財務情報と連動させることで、企業活動を円滑にかつ精度高く実行することを可能にする非常に優れたシステムだが、すべての業務の結果が財務情報に密接に連動していることがERPシステムの欠点でもある。ERPシステムは財務情報の単位に沿った業務には適合するが、直接財務情報に紐づかない業務などそれに外れた業務では他の代替え手段(手作業、アドオンや他のパッケージ等)が必要となってしまう。周辺システムはその欠点を補完するために存在しているといえる。
デジタル化の対象は周辺システムが主役となっており、今後周辺システムは更なるデジタル化により高度化していくことになる。デジタル化の効果を最大限活用するためにはERPシステムと周辺システムが有機的に連携することが必須であり、周辺システムのデジタル化に対してERPシステムが対応していないとデジタル化の効果を享受できない。ガートナーが提唱しているポストモダンERPはデジタル化を有効に機能させるためにERPシステムと周辺システムの機能配置を考え、基幹システムの実現形態を最適化するという発想だ。(図1)
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SOA(Service Oriented Architecture)では、システム機能の組み合わせによって柔軟なシステム構造の実現を目指したように、ポストモダンERPでは基幹システムを構成する各システムを、オンプレミスやアウトソーシング、クラウドを含めた様々な実現形態を最適に組み合わせて構築することで柔軟なシステムの構造の実現を目指している。SoRを中心にSoE、SoI、SoCのシステムを組み合わせる基幹システム(群)のベストオブブリードによる新しい形態であり、各システムがAPIを経由して疎結合することで、SOAと同じように柔軟なシステム構造が実現される。
ベストオブブリードといっても、必ずしも各システムを異なるベンダーで構成する必要はなく、すべてのシステムを同一のベンダー構成しても問題はない。SAPにおいてはECC6.0 で、コアモジュール(ERP)とERPシステムに不足しているシステム機能をカバーする周辺モジュール(M&A等で獲得したモジュールが相当数あるが…)を提供しており、ポストモダンERPのシステム構築は可能になっている。
しかし、ECC6.0 ではシステム機能の追加を繰り返してきたことや周辺モジュールの多くが他社より獲得したものであるため、システム機能が交錯し、SoR、SoE、SoI、SoCのように明確に分割、配置されていない。これを改善するためS/4 HANAでは、シンプリフィケーション(Simplification)という表現で、ECC6.0のコアモジュール(SoR)と周辺モジュールで重複しているシステム機能の統合や周辺モジュールのシステム機能の一部をコアモジュールへ組込むという整理を進めている。
S/4 HANAでは、システムの機能がSoR、SoE、SoI、SoCとしての役割が明瞭になるように振り分けられ、デジタル化を有効に活用できる最適なシステム形態を構築できるようになってきている。(図2)
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マネジメントや業務部門に対して、「これからの基幹システムはどんなところがよくなるんだ?」と聞かれたときにどんな回答ができるだろうか?デジタル化が流行している現時点では「これからは攻めのITを充実させていきます」のようなお茶を濁した回答でごまかせる可能性もあるだろうが、ITの専門家として少々情けない。
前述のデジタル化に向けてのSoR、SoE、SoI及びSoCの最適組み合わせを考えると、デジタル時代の基幹システムで変わるのは次の4つの業務への対応機能になる。
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