[経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略]

ビジネス改革を成功させる「IT-リエンジニアリング」【第12回(最終回)】

2018年11月1日(木)青柳 行浩(NTTデータ グローバルソリューションズ ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長)

「経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略」もいよいよ最終回である。今回は、デジタル時代に合った基幹システムを目指す「IT-リエンジニアリング」をどう進めていくのか解説する。デジタル変革=ビジネス変革の現代において、IT-リエンジニアリングはその根幹を成すものと言える。

 今から四半世紀前、1993年に『Reengineering the Corporation: A Manifesto for Business Revolution』(日本語翻訳版は『リエンジニアリング革命』)が出版された。Michael HammerとJames Champyの両氏は同著の中で「コスト、品質、サービス、スピードのような重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネスプロセスを根本的に考え直し、抜本的にそれを再設計すること」、有名なBPR(Business Process Reengineering)を提唱した。

 当時、日本経済を含めた世界経済は戦後復興の成長著しい時代が終焉を迎え、閉塞感のある重苦しい状況に落ち込んでいた。この状況を打破しようと、多くの企業はこのBPRという新しい経営改革手法に飛びついた。一方、ITの世界では、BPRの加速、サポートすることが期待できるERPパッケージが提供され始め、カスタムメイドが主流だった企業情報システムの構成は「IT革命」という名の下にERPパッケージでの構成へ移行していく流れに一気に傾いた。

VUCA時代の経営計画

 それから約四半世紀が経過した現在では当時の閉塞感からは脱却したものの、当時に比べてより将来が見えない状況、いわゆるVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)時代が到来してきている。従来型の経営改革(BPRやERP)だけでは、「コスト、品質、サービス、スピードのような重大で現代的なパフォーマンス基準」を改善することはできても、VUCAから発生するリスクを軽減し、VUCA時代に勝ち残ることはできない。今までとは異なる手法による企業活動の革新が必要になってきている。

 BPRのタイミングでERPパッケージが登場したように、ITの世界ではデジタル技術が急速に進化し、手の届く存在になってきた。デジタル技術は今後企業がVUCAに対応するための大きなカギとなるといえる。これまでの連載でデジタル技術により改善されるのはデジタル化の4つの対応機能だと説明してきた。デジタル化の4つの対応機能によりVUCAから発生するリスクを軽減させることが可能になるのだ(図1)。

図1:VUCAとデジタル化の4つの対応機能
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 企業活動はすでにITが存在しなければ成立しなくなっているのは言うまでもない。BPRではビジネス・プロセスを根本的に見直す必要があり、それをサポートするためにITが必要だったが、これからはITがビジネスをリードしていく時代がやってきている。BPRをサポートするためにITを見直すのではなく、デジタル技術を踏まえた上で、ITをリエンジニアリングすることで、ビジネスを変えていく。従来型のITを抜本的に見直す「IT-リエンジニアリング」時代の始まりだ。

 BPRがビジネスに対して目指した改革のように、IT-リエンジニアリングでは企業のITをリストラクチャリングし、システムを再構築することで、VUCA時代を勝ち残る業務へ変革していくことを意味している。BPRの記述に倣えば、IT-リエンジニアリングは、コスト、品質、サービス、スピードの改善はあって当たり前の要素として、「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性のような重大で現代的なリスクへの対応を劇的に改善するために、ITを根本的に考え直し、抜本的にそれを再設計すること」だ。

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