[経営者をその気にさせる―デジタル時代の基幹システム活用戦略]
基幹システムのSoE、SoI、SoC【第7回】
2018年4月16日(月)青柳 行浩(NTTデータ グローバルソリューションズ ビジネスイノベーション推進部 ビジネストランスフォーメーション室 室長)
アメリカでのIT投資が最終的に日本との成長率の差として現れてくるまでに時間はかかったが、現在では差異が開くばかりになっている。IT投資が生産性を向上かつ企業の成長性を上げることはあきらかだ。しかし、少なくとも日本では、依然として基幹システムへの投資を含めたIT投資を(経営者を含む)ステークホルダーに納得させるためにはITが企業に対してどのような価値をもたらすかを説明しなければならない。特にすでに稼働している基幹システムの再構築への投資は、投資額も巨額となることが多く、経営者を納得させるために必要なハードルはかなり高い。一方で「働き方改革」における日本企業の生産性向上に対する圧力の高まりやデジタル化の流れがあり、経営者を説得できる材料は揃ってきている。今回は企業価値の向上に対してITがどのように役立つか考えてみたい。
企業活動は、保有している各資本(財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)を個々の事業に配分し、これらの資本を増加させるために、事業毎に事業活動を行うことであり(連載第2回)、企業価値は各資本の総和といえる(上場企業においては企業価値と時価総額の関係性もあるが、話が複雑になるのでここでは対象としない)。つまり、企業活動の評価は企業活動の結果、各資本がどのくらい増えたかということになる。
上記の6資本のうち財務資本、製造資本は有形資産であり、残りの知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本は無形資産に分類される。無形資産は一部の資産を除いて、評価が難しく、計数化できたもののみを加えていわゆる企業価値としている場合が多い。無形資産の評価としては経済産業省から2017年5月に “価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス”が提示されており、今後、企業価値評価が今よりは少しは明確になってくる可能性はあるが、それでも社会・関係資本、自然資本は評価がしにくい状況は変わらないだろう。
一般的に有形資産+計数化できる無形資産の変化分が定量効果、計数化が難しい無形資産の変化分は定性効果と呼ばれる。ITにおいても同様に企業価値の向上のためにこれらの定量効果/定性効果の創出が必要となる。(図1)
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これまでのIT投資に対する評価は主に「コストの削減」、「資産利用効率の向上」及び「企業力の向上」のうちの「生産性の向上」の3つの効果が主となっており、いわゆる守りのIT投資の範囲になることから効果を数値化することが可能だった。一方攻めのITに対する評価は「売上の向上」及び「企業力の向上」のうちの「無形資産の増強」の効果が主になっており、攻めのITに対する効果である「売上の向上」は企業を取り巻く環境の影響が大きく、評価が難しい。同様に「無形資産の増強」は数値化することが困難になっている。
そういう意味では攻めのITでは、IT投資を定量効果で導き出すことはできていない。最近ではこの攻めのITはSoE(Systems of Engagement)、守りのITはSoR(Systems of Record)と呼ばれている。
分析のSoIとコンテンツのSoC
SoEは“キャズム”の著者で有名なジェフリー・ムーアが出した”Systems of Engagement and The Future of Enterprise IT”というホワイトペーパーに端を発している。このホワイトペーパーではEnterprise IT 1.0をSoR(Systems of Record)、The Next Stage of Enterprise ITを Systems of Engagement(SoE)と定義している。SoRという言葉は以前にも使われていたようだが、SoEという言葉はこのホワイトペーパーが最初であり、今までSoR以外のシステムとされていた種々のシステムをSoEという用語(概念)でとりまとめたことがこのホワイトペーパーの優れた点だ。
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