[イベントレポート]
デジタル変革期の中で見えてきた、日本のデータセンター/クラウドの課題と勝機
2017年9月27日(水)狐塚 淳(クリエイターズギルド)
「自然外気冷却」「DC併設型太陽光発電」「IoT」「マシンラーニング/高火力コンピューティング」……2011年にフラッグシップとなる石狩データセンターの開設でクラウドシフトに舵を切ってから、業界に先駆けたチャレンジを加速させているさくらインターネット。クラウド&データセンターコンファレンス2016-17(主催:インプレス)のクロージング基調講演には、同社創業社長でこの業界きっての論客としても知られる田中邦裕氏が登壇。海外メガクラウド勢に対する差別化ポイントも含め、日本の事業者にとっての「課題」と「勝機」を詳らかにした。
第4次産業革命でプラットフォーマーの地位を確立するデータセンター
競争が激化する中で今後、データセンター事業者はどんな戦略を取っていけばよいのか。田中氏は「産業構造の変化に着目すべきです」と説く。
1989年、世界の時価総額トップ20社中、15社が日本企業で金融系が中心だった。しかし、2017年にランクインしているのは、アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックといったIT企業ばかりだ。日本企業はトップ20に入れず、代わって中国企業が目立っている。第3次産業革命=IT革命の結果、日本企業がランキングから追い出されたとも言える状況だ。
第2次はエネルギー革命で石油メジャーが、第3次ではIT企業が伸びました。第4次ではどう変わるのか。「AIやIoTが伸びると言われていますが、注目すべきはそれに伴うデータ量の飛躍的な増加です。データが増えれば増えるだけ蓄積・処理・転送の仕組みが問われます。これらを行うにはデータセンターが不可欠です」(田中氏、図4)
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第3のプラットフォームと呼ばれるモバイル、クラウド、ソーシャル、ビッグデータの4つの技術要素はビジネスのあり方を変え、自社だけでの開発が難しくなる。そこで、スタートアップへの投資やオープンイノベーションへの注目が高まった。
「第3のプラットフォームを構成する技術要素はすべてデータセンターを必要とします。この市場は拡大し、この先2ケタ成長が見込まれています。今の産業でこれだけ伸びる業界は稀有で、私たち事業者に大きなチャンスがあるのです」(田中氏)
一方で、IT業界全体の成長は前年度0.3%の減少が予測されている。「では、成長を続けるアマゾンや楽天は一体何の会社でしょう。そう考えるとすべての会社がIT企業になっていき、今後はIT業界という呼び方がほとんど意味をなさなくなるかもしれません。そんな中でも、データセンターは最後まで必要とされるIT業界のプラットフォーマーだと思います」(田中氏)
第4次産業革命では、モノがモノとして売れる時代ではなく、モノをサービスとして売る時代になると田中氏。「例えば、iPodが爆発的に売れ出したのはiTunesミュージックストアができてからでした。それまでは安いMP3プレーヤーのほうが売れていましたが、正規の楽曲を100円、200円で買えるというユーザー体験によって売れ出したのです」
アップルのように、従来モノを売っていたメーカーがサービスをセットにしてビジネスを展開するためには、それを提供する基盤としてデータセンターを確保しなくてはならない。第4次産業革命期は、そうした企業に支持されることがデータセンター事業者の大きなビジネスチャンスであると田中氏は強調した。
「最近、デジタルトランスフォーメーションがよく言われています。また、FintechやAgritechなど、「○○○×tech」、Xtechで新しいビジネスや市場が生まれています。テクノロジーとの結びつきがあらゆる業界に浸透していき、デジタルで変革を起こす。そのときに必然的にデータセンターが利用されるようになるわけです」(田中氏、図5)
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IT企業の衰退の中でも、データセンターは成長する
「さくらインターネットの戦略は、成長していく環境を発見し、そこに集中投資をすることです。今後も伸びるデータセンター市場にどう投資をしていくか。AI、IoTを重点的に取り組めば、これらに関心のあるユーザーが利用しにきてくれます」と田中氏。
加えて、スタートアップやコミュニティとの密接な関係を築くことも重要であるとした。「多様化する社会でいかにさまざまな人の意見を取り込んでいくか。当社はスタートアップの盛んな福岡に新拠点を作りました。また、大阪本社を梅田に移転した際にスタートアップが常駐できるスペースを設けました」(田中氏)。こうした取り組みはどの企業にとっても実行可能だとした。
そして、戦略的投資を行うにあたって、事業を3段階に分けて考えているという(図6)。「強みのある部分と、業界が伸びている部分、将来のためにやっておかなくてはならない部分の3つをしっかり把握する必要があります」(田中氏)
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さくらインターネットの場合、強みのある部分はレンタルサーバーだ。田中氏は、多くの企業は強みを守ることに比重をかけがちだが、成長分野をいかに作るかが重要と強調した。
「成長分野については収支計画を常に問い、しっかりキャッシュフローを回す必要があります。そして、安定分野で稼いだキャッシュフローを新規分野に投入して、こちらも伸ばしていくことが大切。事業を区分しておかないと、安定分野の利益の最大化に、企業の大半の体力を使ってしまうからです」(田中氏)
新規分野は収支計画を作らず、捻出された余力の中で取り組む。田中氏によれば、やがて新規分野が成長分野に取って代わりつつあるとき、新しいことをやりたい人材と、ビジネスを軌道に乗せる人材では特性が異なるため、採算を伸ばすマネジメント向きの担当者に変更する必要があるという。
さくらインターネットは現在、クラウドやGPUサーバーを成長分野、IoT向けモジュール開発を新規分野と位置づける。こうした事業の位置づけは、経営のトップが自覚的に取り組んでいかなくてはならない、というのが田中氏の見解だ。氏は次のように語ってセッションを締めくくった。
「データセンター業界で最も重要なのは経営者の意識改革なのだと思っています。現場の担当者が苦労しているだけでなく、データセンターを自社保有していることでいかに自社の強みを強化していけるか。それを経営者自身が真剣に考えることが、データセンター業界の今後の課題であり、成長の源泉になるのではないでしょうか」(田中氏)