マイクロサービス、RPA、デジタルツイン、AMP……。数え切れないほどの新しい思想やアーキテクチャ、技術等々に関するIT用語が、生まれては消え、またときに息を吹き返しています。メディア露出が増えれば何となくわかっているような気になって、でも実はモヤッとしていて、美味しそうな圏外なようなキーワードたちの数々を、「それってウチに影響あるんだっけ?」という視点で、分解していきたいと思います。今回取り上げるのは「深層学習(ディープラーニング)」です。
【用語】ディープラーニング(深層学習)
「AI」という文字を目にしない日がないほど、人工知能(Artificial Intelligence: AI)が関心を集め、様々な用途が提案されるようになりました。英ARMの消費者アンケート調査によると回答者の61%がAIによってより良い社会が実現すると回答し、特に医療や自動運転に対する期待が明らかにされています。 ここへきて急速に実用化が進む第3次AIブームの火付け役となった中核技術が深層学習(Deep Learning:ディープラーニング)です。
ワシントン大学の研究チームによる脳震盪検出スマートフォンアプリ「PupilScreen」、GoogleとMITラボが開発するリアルタイムフォトレタッチアプリ等、続々応用事例が発表されている深層学習。人間が学び方を指示する従来の機械学習(Machine Learning)に比べると、学習過程におけるデータ分析前の「特徴量の抽出」という工程を自動化した点がイノベーションです。機械にルールを与える必要がないため、データクレンジングやコーディングに伴う人間の手間がグッと省力化されました。ビッグデータとGPUをはじめとするハードウェアの革新により導入環境も整い、今後も普及が加速するものと見られます。

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【イノベーション】ディープがもたらしたAIブレークスルー
AIを実現する中核技術要素が、機械学習です。基本的なモデルは(図2)の通りで、機械に学習させる画像などのインプットデータと目指すべきアウトプット(正解)を与え、正解に近いアウトプット(推論結果)を導き出すためのデータ変換アルゴリズムを計算、学習させます。学習を経て得られた手法を用いてデータ処理を行う(推論)ことにより、データ分類や分析、予測が自動化され、「知能」として機能します。

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データ処理には、インプットデータをデータの項目ごとに分類する必要があり、商品の写真ならばサイズや形状、色などのデータ項目(特徴量)が使われます。
機械学習と深層学習の一線を画す違いは、この分類方法の学び方です。例えば「危険・立ち入り禁止」の看板をそれと認識させるために、従来の機械学習では、黄色という「色」、危険という「文字」など、データを仕分けるための抽出ルールを人間が設計してプログラムとして与えます。このためどのようなルールが必要か、メタデータが正しく記述されているか(「都道府県」の欄に「市町村」が混ざっていないかなど)、といった学習前の工程に膨大な処理が求められます。
他方、深層学習は、大量の看板の画像をそのまま与えることにより、機械自身が「色」「文字」「サイズ」「背景」といった抽出ルールを学習し、計算アルゴリズムとして取り込んでいきます。ルールを与えていない分、従来の機械学習よりも学習に時間がかかりますが、人間の手間が大幅に省力化されるため、結果的にはコスト削減につながるといわれています。

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ディープニューラルネットワーク(DNN)
深層学習を可能にしたのが、ニューラルネットワーク(Neural Network: NN)。なかでもニューロンの層が深いNN、ディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network: DNN)は、従来型NNの処理が抱えていた「人間による訓練」という必須の工程から、機械の学習方法を解放したコア技術と言えます。特長は従来単一階層だったニューロンが150層などの深い階層に渡っている点で、NNよりもデータ往来の方向性が自由で、データ間の相互関係や微妙なパターンを認識します。このため、従来人間がコード化して与えていた「特徴量の抽出」という作業を、機械自らが学習できるようになりました。

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NNの計算式自体は単純で、それぞれのインプットに対し重み(パラメーター)を乗じた合計がアウトプット(予測結果)です。インプットは決まっていますから、アウトプットと目指すべきアウトプットである正解の誤差が最少になるように重みを調整していくことになります。
NNの流れは、Googleが無料公開するAIフレームワーク「TensorFlow」のTensorFlow Playgroundなどを操作してみると、理解しやすいでしょう。階層が深くなり計算方向が多様化すればするほどアルゴリズムが複雑になり、ブラックボックス化しやすいというDNNの注意点も、体感できると思います。

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「教師」による学習
機械学習は、しばしば人間がコンピューターに対しどの程度の情報を与えるかによって区分され、与えられる情報は「学習」のための教師(Supervised)または訓練(Training)と呼ばれます。より多くの教師を与えられるほど学習の精度向上が期待できますが、膨大なデータを用意する必要があります。画像認識の場合は教師データが不可欠で、実際の学習でデータが充分でない場合には、水増しやデータの加工(画像ならばコントラスト比や向き、解像度を変更)を行い、教師データを増幅することもあります。
他方、過去の学習結果から機械自身に学習方法を覚えさせる手法が教師なし学習や強化学習で、DNNの得意分野です。データが与えられなかったり、少ない場合でも一定の予測を実現しようとする取組みで、学習主体である機械が、自らの環境から得られるデータをもとに試行錯誤し、正解に近づくための適切な行動を学習します。GoogleのAlphaGoで注目を集めたほか、自動運転などに取り入れられています。
●Next:第3次AIブームの主戦場は?
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