[市場動向]
「考えるよりも生むが易し」―センサーから始めるデジタルトランスフォーメーション
2017年12月26日(火)工藤 淳(フリーランスライター)
いまや「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を聞かない日はない。日々急速に進歩するデジタル技術を使って、新たなビジネスの可能性を探る企業は多いが、中でももっとも身近で大きな可能性を秘めているテクノロジーの一つがIoTだ。というと何やらハードルが高そうだが、実際には思いついたらすぐに、小さく始めて育てていくことが可能だ。今回はそうしたIoTの第一歩を踏み出すヒントを紹介しよう。
DXの第一歩は、使えるインフラがそろっているIoTから始める
デジタルトランスフォーメーションには、3つの段階があるといわれる。(1)IT利用による業務プロセスの強化→(2)ITによる業務の置き換え→(3)業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態……の3ステップだ。これをもっとも身近なデジタルトランスフォーメーションのツールである、IoTの活用事例で見てみよう。
たとえばある飲食店では、来店客が多いわりになぜか収益が上がらない。そこでトレーにICタグを取り付けて、お客さんが注文したメニューと選んだ座席、滞在時間などのデータを「見える化」して分析した。その結果、1人で来店する客が多いわりにカウンター席が少なく、1人でテーブル席を占拠してしまうため、後から来たグループ客が入れず、回転率も上がらないことがわかった。
これをデジタルトランスフォーメーションの3段階に合わせて変革していくと、(1)カウンター席とテーブル席の数および比率の最適化、(2)来店時の人数確認から席指定までをロボット化、(3)席指定だけでなく、来店状況に合わせた食材仕入れや売り上げレポートなどを他の業務システムと連携させて、ほとんどの業務プロセスを自動化・最適化……と言ったシナリオが考えられる。
「そうは言っても、うちの会社にはコンピュータの専門家もいなければ、そんな最先端のIT投資をする余裕もない」と言うかもしれない。だが現在世の中には、すでにこうしたさまざまなIoTを始めるための安価な、しかもセキュアに使えるリソースが存在するのをご存知だろうか。
たとえばKDDIが2016年から提供している「KDDI M2Mクラウドサービス」は、さまざまなM2M/IoT機器から送られてくるデータの収集・蓄積から、データのレポート表示など、M2M/IoTをビジネスで活用する際に必要な機能をワンストップで利用できるクラウドサービスだ。
クラウドサービスだから、導入の際に自社で高価なサーバーやネットワーク機器を導入し、維持し続ける必要もない。必要な時に接続するだけで、すべての機能を高度なセキュリティが保証された環境下で利用できる。
というわけで、コンピュータやネットワークなどの道具立ては、すでにそろっている。あと必要なのは、自社のデジタルトランスフォーメーションの第一歩を、IoTの活用から始めてみようと決めることだけだ。
すべての機能がパッケージされたIoTクラウドサービスがおすすめ
さて、IoTをいよいよ導入してみようと思ったはいいが、まず多くのIoT初心者が突き当たるのが、「具体的に、どんなセンサーをどこに取り付けて、どうやって運用するのか」という疑問だろう。専門のエンジニアでない限り、わからないのが当たり前だ。こうした場合にも、クラウドサービスを活用するのが賢明な選択となる。
繰り返しになるが、クラウドサービスではエンドユーザー側がハードウェアやソフトウェアを用意する必要がない。もちろんクラウドにつなぐためのネットワークやPC端末は必要だが、それ以外の部分はすべてクラウドサービスの提供者が面倒を見てくれる。
再び「KDDI M2Mクラウドサービス」を例にとると、同サービスではユーザーが必要とするIoTセンサーを豊富にそろえ、業種・業態、必要なデータや取り付ける環境に合わせて最適のデバイスを提供してくれる。
提供しているセンサーは2000種以上。振動計、騒音計、流量計、熱感知器、人感センサーなど、さまざまな機器に対応可能なため、先に挙げた飲食業だけでなく、製造業、建設業、流通・倉庫、不動産管理、交通といった各産業分野に広く応用できる。
センサーデータ以外では、監視カメラにも対応可能だ。リアルタイム動画などデータ量が膨大になる場合も、モバイル通信に最適化した上で送受信を行うことで、容量の大きな専用線などがない場所でも、快適に映像を見ることができる。
もちろん自社のビジネスにどんなセンサーが最適かといったことは、最初からわかるはずもない。試してみては、その結果を見てまた違うセンサーを……といった、一種の試行錯誤がどうしても必要だ。
それこそ「とっかえひっかえ」試してみて、自社のビジネスモデルや業務環境に一番合ったものを選ぶことができるし、そうやって探していかなくては、本当に使えるIoTに育てることはできない。
ちなみにここでの成功ポイントの一つが、社内利用のサービスで試してみることだ。内部利用ならば小規模で始められて、多少失敗しても大きな問題にならないので、トライ&エラーが必要なシステムを育てるには向いているからだ。こうした内部利用で経験値を上げて、自信がついたところで外部向けのサービスにも適用するのがよい。
データ分析に高価な専用ツールやデータサイエンティストは不要
IoTでは、センサーから収集したデータをいかに分析するかが、センサー選びにも増して重要なポイントになる。実際のところ、これまでIoTを手がけたことのない企業にとっては、センサーは選び以上にここがハードルになるのも事実だ。
というのも、これまでデータ分析というのは数理統計などの知識を持つ、データサイエンティストなどの専門家でなければとても歯が立たなかった。また分析のためのソフトウェアも高価で操作が難しく、専任のIT部処を持たない中堅・中小企業などでは、自社によるデータ分析は最初から考えないというところも少なくない。
この点でも、現在はクラウドで提供されている分析サービスがあり、自前でシステムや分析要員を用意する必要がなく、始めようと思えばすぐに始められるようになっている。そうした中の一つである「KDDI IoTクラウド~データマーケット」は、法人を対象にしたIoTデータ分析サービスだ。
ここではユーザー企業が持っているIoT業務データを、「セルフ分析ツール」や「マーケティング支援サービス」、「高度分析サービス」などの各種分析サービスを利用して分析することができる。また分析にあたっては、各分析サービスを担当するKDDIパートナーの持つデータ群との組み合わせることで、単独の業務データからは見つけることのできない、新たな課題やビジネスチャンスの発見、サービスの品質向上のヒントなどを把握することが可能だ。
新たな気づきから生まれる「カイゼン」を目指して今すぐ始めよう
IoTでエッジデバイスと呼ばれるセンサーから得られる多くのデータは、私たちに新しい気づきを与え、それがイノベーションや新しいビジネスの糸口となっていく。
たとえば工場の製造機器や車両などの「モノ」に取り付けられたセンサーから得られるデータをもとに、「部品交換から何時間経過すると故障が発生しやすくなるか」、「品質がもっとも安定するのは、温度が何度の時か」を知ることができる。
その結果、不慮のライン停止による利益損失を未然に防ぎ、品質の向上による顧客満足度のアップ、さらに歩留まりの改善による収益率の向上など、これまでベテランの経験値に頼るしかなかった“カイゼン”が容易に実現できるようになるのだ。
今回紹介したように、IoTによるデータ分析には、かつてのように高価なハードウェアやソフトウェア、専門知識を持ったデータサイエンティストなどを自社でそろえる必要はない。そうしたところを気にして第一歩を踏み出せないでいた企業は、今すぐ身近なところから取り組みを始めてみてはいかがだろうか。