CDO(Chief Digital Officer、最高デジタル責任者)とは、デジタルトランスフォーメーション時代に登場した、新たなITリーダーの役職である。これまで企業のITリーダーの役職と言えばCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)というのが相場だったが、最近ではCIOをCDOで置き換えたり、CIOとは別にCDOを設置する企業が増えている。そこで本稿では、日本企業におけるCDOの役割と効用について論じてみたい。

グローバルでは19%の企業がCDOを設置

 CDO(Chief Digital Officer、最高デジタル責任者)とは、全社的なデジタル技術の活用(新規事業開発、業務プロセス改革、組織の最適化など)を推進するITリーダーに与えられる役職である。この役職名が使われ始めたのは2015年くらいのことだが、PwCグループのStrategy&の調査(2016年)によると、CDOを設置している企業の割合は、グローバルで19%、日本でも7%に上るという。まさに、CDOはデジタルトランスフォーメーション(DX)時代の到来を象徴する役職と言えよう。

 ちなみに、同じCDOでも「Chief Data Officer(最高データ責任者)」と呼ばれる役職もある。こちらはデータ活用に責任を負うポストであり、昨年11月に設立された一般社団法人CDO Club Japanでは、最高デジタル責任者と最高データ責任者を明確に区別したうえで、それぞれを組織に必要な役割としている。

 ただし、最近は断り書きなしで単に「CDO」と表記した場合は、最高デジタル責任者を指すことが多く、本稿でもその意味で使わせていただく。

 簡単に言ってしまえば「CDO=DX担当役員」ということになるわけだが、なぜ新しい役職名が必要なのか、CIOという肩書では不十分なのかということを理解していただくには、IT部門の役割と立ち位置の変化について今一度確認しておく必要があるだろう。

権限の弱い日本のCIO

 従来、IT部門が担当してきた業務は、基幹系システムや情報系システムなどの社内システムの運用管理を中心に、事業部門からの要請に応じてITの立場から協力したり、従業員のサポート(ヘルプデスクなど)をしたりすることであった。今で言うところの「守りのIT」がIT部門の業務内容であり、IT部門はコストセンター(売上が立たない部署)として、事業部門から軽く見られることも少なくなかった。

 そこにやってきたのがDXの波である。現在のIT部門には、デジタル技術を活用してビジネス改革を牽引する役割が期待されている。「攻めのITでプロフィットセンターへ」というのもよく聞かれるフレーズだ。

 さて、IT部門のトップというとCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)というイメージが強いが、これは誤解を伴った認識である。本来、CIOはIT部門責任者とは独立して設置される役職であり、全社的なIT戦略の策定、執行に責任を持つポジションである。CEOやCFOなど、「C」で始まる役職は「Cスイート」などと呼ばれ、役員クラスに与えられる肩書であり、本来の意味のCIOもその一員である。

 ところが、日本企業においてはCIOという肩書きを持っていても、役員権限がなく、実質的には「情報システム部長」にすぎないケースが少なくない。そもそも日本の会社法では「CxO」の役職は定義されておらず、「CxO」を名乗っていたとしても、それはグローバリゼーションが進む中で世界的に通用しやすい役職名を呼称として利用しているに過ぎない。経営トップの名刺に「代表取締役社長 兼 CEO」などと書かれていることがよくあるのは、法的な役職(代表取締役社長)と呼称(CEO)を併記しているからである。

 CIOに話を戻そう。肩書だけのCIOの権限が届く範囲は、当然ながらIT部門内に制限される。事業部門の非効率的な業務プロセスに気づいたとして、改善提案はできてもそれを強制する力はない。部門長クラスのCIOでは、下手に他部署に改善提案などしようものなら、「うちのやり方に口を出すな」と言われかねない。権限の弱いCIOが受け身の姿勢になるのは、無理なからぬことである。

 IT部門にデジタル改革の策源地としての機能が期待され、それを断行する強いリーダーシップがCIOに求められたとしても、名ばかりのCIOでは力不足だ。

CDOの設置でボタンの掛け違いを正す

 こうした状況下にある企業にとって、CDOという新しい役職は、ボタンの掛け違えを正すよい機会だと捉えることができよう。

 もし、自社のCIOに本来の意味での役割と権限が与えられているのであれば、CDOをCIOが兼任してもよいだろう。もっとも、それにはCIOその人がビジネスに精通していることが条件となる。

 CIOとCDOには、ビジネスと技術のどちらの視点からでものを考えられる力量がほしいところだ。だが、あえてどちらに重きを置くかで適性を述べるなら、CIOが「ビジネスもわかる技術畑の人」とすれば、CDOは「技術もわかるビジネス畑の人」となるだろうか。実際、現在CDOを名乗っている人の中には、事業部門やマーケティング部門の出身者も多いという。

 いずれにせよ、企業におけるITの重要性がますます高まり、ITが関わる領域が拡大している今、どんなに有能な人間だとしても、その全領域を一人で掌握し、ディレクションするのは困難になりつつある。そこで、CIOを守りのITの責任者と位置付け、攻めのITの責任者として新たにCDOを設置するのは有効な手となるだろう。

 ただし、CDOを設置する際に重要なのは、CIOと兼任させるか、別途設置するかという点ではない。部署を横断して物申せるだけの強い権限を与えることである。既存のIT部門とは別に、DX担当部署として「デジタル推進部」などを設置する企業が増えているが、実質「デジタル推進部長」(部門長クラス)のような名ばかりのCDOを生み出してはならない。

 経営者がDXの重要性を強く認識し、その取り組みへの熱意を全社に周知したいのならば、CDOに強い権限を与え、それを組織図上で示す覚悟が必要となるだろう。