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ERP連携で“最良の顧客体験”を追求したCRM―「C/4HANA」を国内投入したSAPの勝算
2018年7月31日(火)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
SAPジャパンは2018年7月25日、CRM(顧客関係管理)アプリケーションスイート「SAP C/4HANA」の提供を開始した。これまで「SAP Hybris」の製品名で展開してきたCRMスイートの刷新で、これに伴い、2013年8月にSAPによる買収後も残っていたHybrisブランドや、さらにはCore Systemsなど他の買収企業の社名は消えることとなった。名実ともに統合されたSAPブランドの製品群を擁して、SAPはレッドオーシャンのCRM市場でシェア拡大に挑む。
先行ユーザーがC/4HANAを選定した理由
SAP C/4HANAは2013年8月にSAPが買収したスイスのhybris(買収後のブランドはHybris)の資産をベースに、5年をかけてSAPが投じてきた大規模なCRM関連の投資(Core Systems、Gigya、CallidusCloudといったフロントエンドソリューションの買収や、SAP S/4HANAやLeonardo、FioriといったSAPの技術・製品との連携)が、ようやく完成形に達したマイルストーン的な製品だと言える。SAPは2018年6月の年次コンファレンス「SAPPHIRE 2018」において、Hybrisブランドを終息させて、新たにSAP Customer Experienceブランドを展開していくことを明らかにしたが、これは「SAPのCRM」と呼べるポートフォリオが整ったという宣言でもある。
長い期間と大規模な投資が費やされたSAP C/4HANAは、CRM製品自体の完成度だけではなく、セールスフォースをはじめとする競合との関係や市場におけるターゲティングに関しても十分に戦略が練られている。あえて競合製品との連携を可能にしたのも、「CRMにおけるタテ(ERPなどバックエンドとの連携)とヨコ(フロントエンド間の連携)のつながりを生かせるのはSAPだけ。セールスフォースは確かに最大の競合だが、我々は一度獲得した顧客を失う率はほぼゼロに近い」(高山氏)という自信に基づいている。
また、SAP C/4HANAのターゲティングについては、製造業、小売卸売業、サービス業の3つがメインだが、高山氏は「(顧客の)企業規模は関係ない。年商100億円未満の企業でも十分にSAP S/4HANAの対象になる」と語る。
具体的には、「海外売上の比率が20%以上」「ECサイトの売上が10%以上、代理店ポータルからの売上が10%以上」「顧客との接点(タッチポイント)に何かしらのデジタルチャネルを保持」「タッチポイントを3つ以上保持(EC、代理店、実店舗など)」といった条件を満たしている企業、つまりデジタルビジネスの比率が高い企業であれば、SAP C/4HANAとの親和性は高いとしている。
説明会では、SAP C/4HANAの国内顧客としてアウトドア総合メーカーのスノーピークが紹介された。新潟県三条市に本社を置く同社はアウトドア用品を作って売るだけではなく、ここ数年は7つの分野での新規事業を展開し、海外事業にも積極的で、全売上の21%に上るという。
スノーピーク 取締役 執行役員のリース能亜氏(写真3)は、SAP C/4HANA導入前の背景として「(事業が好調で)顧客の数は増えているが、タッチポイントが多様化・複雑化して、これまでのビジネススタイルではスケールしにくくなってきていた」ことを説明。優秀なセールスマンはこのご時世、採用が難しく、また顧客接点を最大化するには人間の知見だけでは限界があり、そこで確たる顧客動線を確保し、顧客接点をしっかり管理するCRMを求めた結果、SAPを選んだという。
同社はSAP S/4HANAをERP基盤として利用しており、SAP C/4HANAのフロントエンドソリューションとしてSAP Marketing CloudとSAP Commerce Cloudを導入した。「100億円規模の企業にとっては、さまざまなベンダーの製品を組み合わせるパッチワーク型のシステム構築は二重投資のムダが大きくなりやすい。クラウドネイティブで管理も自動化されており、さらにバックエンドも連携しているSAPのシステムは一気通貫でカバーできる。我々にとっては効率がよいソリューションだった」(リース氏)
クラウドネイティブのCRMはデジタルビジネスの成功に大きな影響を及ぼす。長年築いてきたHybrisブランドを、ある意味捨てるかたちとなった今回のSAPのリブランディングだが、レッドオーシャンとなりつつあるデジタルマーケティング市場におけるSAPの最大の強みは、やはりS/4HANAとの連携にあるだろう。同社が強調するバックエンドからフロントエンドまでの“エンドツーエンド”なシステムが、デジタルビジネスの世界でどんな存在感を示すことができるのかに注目していきたい。