世の中ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が叫ばれているが、一方で経済産業省から「2025年の崖」というレポートが示されるなど、レガシーシステムがDXの阻害要因となることが懸念されている。DXで成功を掴むため、これまで静観を決め込んでいた基幹システムの刷新に今こそ踏み出さなくてはならない。この課題に向けて企業は何から始めるべきか――。本稿では、ジャスミンソフトが開催した年次イベント「Wagby Developer Day 2018」において発信された数々の重要なメッセージを紹介しよう。
エンタープライズアジャイルを支援するWagby
ジャスミンソフトが市場展開する「Wagby(ワグビィ)」は世に「超高速開発ツール」と呼ばれるジャンルの代表的製品であり、Webベースのエンタープライズアプリケーションをノンプログラミングで開発することを可能とする。設計情報から業務ルール、画面、データベーススキーマなど、すべてを自動生成するのが特徴で、DX時代にますます重要性が高まっているビジネスの俊敏性を高めるものとして耳目を集めている。
ビジネスを根幹から支える基幹システムの領域で超高速開発ツールのメリットを活かすべく、「Wagby」は進化を続けている。「基幹系とWagby」と題するセッションに登壇したジャスミンソフト代表取締役の贄良則氏は、サーバーサイドで完結するトランザクション処理、楽観ロックと悲観ロックの併用が可能なロック処理、マルチプラットフォーム/マルチデバイス対応、メッセージサーバーと連携した非同期処理とSpring Batchに対応したバッチ処理、Spring Securityを導入した認証と認可、IPAが提唱する「安全なWebサイトの作り方」に対応したセキュリティなど、Wagbyの内部に踏み込んで解説した。一つひとつの詳説は割愛するが、ビジネスにとっての“本丸”をカバーすること、そして最新の技術トレンドに追従することを徹底していると言える。
さらに特に力を込めて語ったのが「エンタープライズアジャイル」に向けたWagbyの取り組みである。日本におけるエンタープライズアーキテクチャを俯瞰すると、オンプレミスのSoRアプリケーション層とSoEアプリケーション層はほとんど連携がとれておらず、分断しているのが実情だ。ここでSoR<Systems of Record>とは主にビジネスの実態を記録しながら日々の業務を回すために使われるシステムを指し、SoE<Systems of Engagement>とは取引を顧客にとっての豊かな体験を標榜しつつ積極的に働きかけながら互恵関係を築くことを目指した戦略的で新しいタイプのシステムを指す。当然ながら双方は密に連携することが求められる。
「SoRアプリケーション層の中身を見ると、基幹システムとは別にExcelマクロやAccess、Visual Basicなどで作られた処理がかなりの割合を占めて巨大化し、メンテナンス不全な状態に陥っています。まずここをなんとかしないと、SoEとSoRのシームレスな連携は困難です」と贄氏は問題点を指摘。そして、「目指すべき形」として次のように説いた。
「レガシー層のすべてを無理にパブリッククラウドに乗せ換える必要はありません。特に法定業務を中心としたアプリケーションはほとんど手を入れる必要がなく、そこにわざわざコストをかけるのは無駄と言えます。ただ、Excelマクロをはじめとするブラックボックス化した処理、さらにERPパッケージをカスタイマイズしている部分は別です。これらを切り出してWagbyで再構築し、パブリッククラウドに乗せ換えてSoEアプリケーションとの連携を強化することを検討すべきです」。
REST APIゲートウェイによりSoRとSoEを融合
そもそも、なぜ現在のERPシステムはカスタマイズの塊になっているのか。多くの場合、もともと財務会計を主体としたパッケージであるERPに、管理会計のUIやビジネスロジックを次々にアドオンしていったのが原因である。したがって、この管理会計にまつわるアドオンをあらためてERPから切り離し、Wagbyで再構築すべきというのがジャスミンソフトの提案である。「これによりERPパッケージ自体に手を入れる必要がなくなり、メンテナンス性は飛躍的に向上します」と贄氏は強調した。
もう1つの問題点として贄氏は、メールにExcelシートを添付して関係者間で情報を共有している状況を挙げた。これが属人的なExcelマクロの温床となっており、無駄な二重・三重入力業務を発生させるほかセキュリティ上でも重大な懸念となっている。さらに、ここにRPAを適用しようという動きがあることが悪循環を加速させる。「業務フローを見直すことなく単純に面倒な処理をRPA化してしまうと、ますますその業務が固定化され、ブラックボックスから抜け出せなくなってしまうのです」と贄氏は会場に訴えかけた。
ここでも推奨するのがWagbyによる再構築という手法だ。「Webアプリ化することでこそ、必要な人が、必要な時に、必要な情報を入力して活用する『データ発生源入力の原則』を堅持し、セキュリティの問題も解消することができます」(贄氏)。具体的にWagbyはこの取り組みをどのように支援するのかというと、SoEアプリケーション層へのゲートウェイ(REST API)を提供する。これによりSoR側での業務処理はすべてWagbyにまかせ、SoE側ではUIの開発・整備に専念することが可能となる。
すでにここまで準備が整っているのだから、企業は一日も早くSoRとSoEの融合に向けたアクションを開始すべきだろう。実際、時間的な猶予はほとんど残されていない。「SoRとSoEが分断された状態で、もはやSoR側の改革はあてにできないと、SoE側の開発メンバーが独自に業務処理を書き始めているケースも見られます。この状況を放置すると、業務処理そのものが二重化することが避けられません。SoRとSoEの文化的な溝も深まるばかりで、全社的なデジタルトランスフォーメーションはますます遠のいてしまいます」と贄氏は警鐘を鳴らした。
2020年にはIoTを想定したリアクティブ対応も実現
もちろん今後に向けてもWagbyは、SoRとSoEの融合をテーマにさらに機能強化を進めていく計画だ。2019年1月に出荷されるWagby R8.2では、svnやGitといった別製品を使用することなく複数メンバーでリポジトリを共有し、チーム開発を行うためのラインナップとなるWagby Unlimited Enterpriseが新たに加わる。さらに同年5月のWagby R8.3ではREST APIによるマイクロサービスや外部認証強化、11月のWagby R8.4では現在のJSPに加えたThymeleafのサポートといったロードマップが示されている。
そして2020年4~7月を目標とするWagby R8.5では、REST APIによるリアクティブ対応を実現する計画だ。今後、SoE側のアプリケーションにはIoTを通じて無数のデバイスが接続されるようになり、毎秒数千回といった桁違いのリクエストが発生することが予想される。この処理負荷の増加にあわせてサーバーを増設できればよいのだが、コスト的な問題がのしかかる。リアクティブ対応はまさにその解決策となるもので、ノンブロッキングな検索処理を実現することで、サーバー1台あたりの処理件数をこれまでより向上させることができると期待されている。
その先に見えてくるのが、従来のようなコストセンターではない、自らが「稼ぐ力」を備えた次世代の基幹系システムの実現である。「事務効率化(守り)にとどまっていた基幹系から、稼ぐ(攻め)ことに一歩を踏み出す基幹系への転換こそが、デジタルトランスフォーメーション対応の核心となります」と贄氏は訴求した。
●お問い合わせ先
株式会社ジャスミンソフト
http://www.jasminesoft.co.jp/
Wagbyについて
http://wagby.com/