[「2025年の崖」に立ち向かうERP刷新プロジェクトの勘どころ]

基幹系システム刷新プロジェクトの落とし穴(業務改革編):第3回

2019年4月17日(水)磯谷 元伸(NTTデータ グローバルソリューションズ 代表取締役社長)

前回は「グローバル標準ERPの導入・運用メリット」を中心に述べた。今回と次回は実際の基幹系刷新プロジェクトを推進する難しさ・落とし穴について考えていきたい。まず今回は第1回でも取り上げた、「基幹系システム刷新の前提となるグローバルレベルでの全体最適化・業務改革が、特に日本国内導入において難しい理由・背景」について、著者なりに紐解いてみたい。

1.強い現場力が招く個別最適や国別最適化

 これまでの日本の成長過程において、たゆまざる製品・サービス品質向上やQC活動により、強い現場力を持つのが日本企業の特徴の1つと言われてきた。

 一方で、企業競争力に直接的にかかわらない業務領域においても、部門ごと・事業所ごとで創意工夫を重ねてきた結果、開発当時のスタッフや事業所単位での方針により、個別最適な業務プロセスになっている。

 これまで使ってきた基幹系システムもそういった各現場での個別ニーズを要望として取り入れ、30年以上前から営々と開発工数を積み重ねて個別にスクラッチで開発してきていたり、せっかく入れたERPもアドオンが多かったりと、部外者にはほとんど解読不能なブラックボックスと化しているのではないだろうか。

 国内事業中心の時代はそれでよかったかもしれない。だが、国内外においてM&Aによる事業拡大をしてきた中で海外事業も拡大し、自社の個別最適な業務プロセス、基幹系システムを海外事業や買収した子会社に適用するのは非現実的だ。従来の自社事業だけでなく、国別でもグループ別でも当面の措置としてシステムを温存した結果、個別最適なシステムがさらに乱立し、それを何とか繋ぎ合わせているというのが実態だろう。

 欧米のグローバル企業では、グローバルM&Aに伴うPMI(Post Merger Integration:合併成立後の統合プロセス)において、トップダウンによる買収先事業の見える化を最優先に考え、グローバル最適化された業務プロセスへの統合・組み込みを精力的かつスピーディーに進めていく。また、PMIのチームにグローバル経験豊富な財務部門や生産・販売、そしてIT部門の尖鋭たちが参画しているのが特徴である。

 一方、日本企業におけるM&Aでは、まずは買収先との時間をかけた融和・シナジー創出に力点を置いている。そのため、結果的に連結項目以上の具体的な財務状況や生産・販売実績の見える化、バックオフィス業務の整理・統合は後回しになりがちだ。

 さらに日本の本社スタッフも日本国内の対応経験しかなく、グローバルな視点でシンプルかつロジカルに経営管理業務を行う真のグローバル本社になり切れていないことも、グローバルレベルでの最適化を阻んできた理由の1つと考えられる。

2.上位報告に対する過剰な気遣い

 本社スタッフや各部門の管理スタッフは、先輩たちがそれぞれの部門で過去営々と作り込んできた「○○グループ管理会計標準」「○○生産計画実施要領」などの各社固有の精緻な、時として過剰なルールを尊重するあまり、改めて冷静に見直す、時にはゼロベースで考えるといった機会を持たなくなっている。

 そして、日本国内のスタッフは自社事業や自社の歴史あるルールに精通し、かつ優秀であるがゆえに、上司への報告もシステムからの単純アウトプットに飽き足らず、各部門・各個人で上司にわかりやすいようにExcelやPowerPointでそれぞれに加工を重ねている。言ってみれば「Excelの伝言ゲーム」が行われている。

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