[市場動向]
Google Earthのような使い勝手でデジタルツインを実現─ノルウェー製のIoTプラットフォーム「Cognite」
2019年11月18日(月)田口 潤、杉田 悟(IT Leaders編集部)
個々の機械や設備の状況をセンサーデータから把握し、デジタルツイン(デジタルの双子)を実現する、いわゆるIoTプラットフォーム。海外ではGEの「Predix」、Siemensの「Mind Sphere」、国内では日立製作所の「Lumada」、三菱電機の「INFOPRISM」などがあるが、ひと味もふた味も違う新顔が登場した。ノルウェーの企業であるCognite(コグナイト)の「Cognite Data Fusion」である。センサーデータはもとより配置図や写真画像、構成するあらゆる機器のマニュアルなど様々な情報を統合して扱える一方で、Google Earthのような直感的な使い勝手を備える。
まずCogniteの概要から。拠点を置くノルウェーは北海に面しており、1960年代に発見された北海油田の恩恵に与かる産油国である。同国有数の石油会社であるAker BPは、自社の海上油井事業をデジタル化する方針を打ち出した。そのために設立したのがCogniteである。「Akerでは最初に、PredixやMind Sphereなどを検証しました。しかし、これらはエンジンや医療機器などの装置向け。ポンプや配管など複雑で様々な機器から構成される大規模な石油リグ(海上プラットフォーム)全体のデジタル化には、フィットしませんでした。自ら作るしかないと判断したのです」(同社日本法人 代表取締役社長 徳末哲一氏)。
といっても完全にゼロからの出発ではない。ノルウェーにはかつて、企業向け検索エンジン「FAST ESP」を提供するファストサーチ&トランスファという企業があった。日本でも事業展開していたので聞いたことがあるかも知れないが、2008年に米マイクロソフトが買収して会社は消滅した。そのファストサーチ&トランスファの創業者であるジョン・マーカス・ラービック氏が、Akerグループからの依頼で2016年に設立したのがCogniteである。
したがってCogniteには情報やデータを集めて関連づけし、整理して表示する技術のベースがあったことになる。加えてラービック氏はノルウェーでは著名人。それを生かしてGoogleやMcKinseyなどのグローバル企業で活躍する同国出身者などが集まり、経営や技術を担っているという。「知名度はまだ低いですが、例えばインターンを募集すると、30人の募集に対して米MIT(マサチューセッツ工科大学)、カナダの有力理工系大学のウォータールー大学などから900人あまりが応募するまでになっています」(同)。
Google Earthの使い勝手で設備管理、保守を可能に
次にソリューションについて。図1にCogniteの「Cognite Data Fusion」の構成を示した。Data ExtractorsやData APIsといったアダプタやAPIを介して、設備や施設に関わるあらゆるデータを収集し、Raw Data Storage(データレイク)に格納する。様々な特性、形式を持つデータ群を変換したり、必要な形で関連付けしたりして、利用しやすい形にする。「例えば、油井では配管の設計図を取り込み、それとセンサーから得られる流量などを関連づけします。必要な部分に閾値などのルールを設定し、アラートを出すようにできます。また設計図にある部品や装置をクリックすると、保守の履歴やERPにある在庫データを見ることができるようになります。設計図がインタラクティブになるんです」(EVPオペレーション 小玉孝氏)。
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実際、デモ画面を見ると、例えばあるパイプの温度センサーのデータを機械学習によりモニタリングし、異常を検知すると、プラントの3Dモデルや写真合成した画像を表示。さらにポンプや制御機器の操作マニュアルを閲覧できる。またある工場の設備監視では、広域の地図から工場全体、一部の建屋、特定の機器といった具合に、あたかもGoogle Earthを使って地球全体から町の一角を見る(あるいはその逆の方向)のと同様の感覚で操作できた。
Google Earthとの違いは、写真から合成した3D画像や3DのCAD画面から機器をクリックすると、リアルタイムの稼働状況を知ることができること。パイプやポンプの流入量や製品の生産量、温度や振動に関わるデータなどだ。過去のデータも蓄積するため、1日前や前月の稼働状況も把握できる。「データ活用の基盤であり、表示に時間がかかるのは利用者のストレスになりますから、どんな過去のデータを見る場合でも抽出を70ミリ秒で行います」(小玉氏)。
3D画像を駆使した視認性の高さとコンテキストによる操作性の良さ、それにレスポンスの良さなどは、現状のIoTプラットフォームにはない特徴と言えるだろう。それにより得られるメリットは、突然の故障の低減やメンテナンスコストの削減、状況を把握しやすくすることによる現場の作業員の効率向上、障害発生時の問題把握と適切な対処の実施などだ(図2)。
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同社によると、1)センサーデータやERPの受発注データ、マニュアルなどをベンダーや形式を問わず集める統合API、2)利用視点からのストーリーに則って様々なデータを関連づけするコンテキスト化、3)機器やプラントの3Dデータとの統合、などが他のIoTプラットフォームとの違いだという。このうち2)や3)に特徴があることを考えるとPredixやMind Sphere、Lumadaとは、競合するよりも共存するケースの方が多くなるのかも知れない。
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