NEC、野村ホールディングス(野村HD)、野村証券、情報通信研究機構(NICT)、東芝は2022年1月14日、株式取引に量子暗号通信を適用する検証を実施したと発表した。実際の株式取引データを大量に暗号化して伝送した際の、低遅延性と大容量データ伝送への耐性について検証した。検証の結果、従来のシステムと比べて遜色のない通信速度を維持できることと、大量の株式発注が発生しても暗号鍵を枯渇させずに通信できることの2点を確認した。
NEC、野村ホールディングス(野村HD)、野村証券、情報通信研究機構(NICT)、東芝は、株式のトレーディングに量子暗号通信を適用する検証を実施した。実際の株式取引データを大量に暗号化して伝送した際の、低遅延性と大容量データ伝送への耐性を検証した(図1)。
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検証では、遠隔地同士で暗号鍵を共有する方法として、光の粒である光子に鍵情報を乗せて伝送する量子鍵配送(QKD)装置を利用した。NICTが2010年にQKD装置を導入して構築した試験用通信ネットワーク「Tokyo QKD Network」の上に、投資家と証券会社を模した金融取引の模擬環境を整備した。実際の株式注文と同様の模擬データを生成するアプリケーションを、野村HDと野村証券が開発した。
伝送する株取引メッセージの暗号化には、ワンタイムパッド(OTP)を採用した(図2)。OTPの特徴は、暗号が第三者によって解読されることがない情報理論的安全性を持つことである。一方、デメリットとしては、伝送データと同じ量の暗号鍵が必要となることから、暗号鍵が枯渇するリスクがある。今回の検証では、鍵の枯渇に対する備えとしてAES256も併用した。AESには情報理論的安全性はないが、暗号鍵を短時間で更新することによって十分なセキュリティ強度を持つと考えた。
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こうして、OTP、AES(ソフトウェアベースの実装:SW-AES)、AWS(低遅延な回線暗号装置:COMCIPHER-Q)の計3種類の方式を用いて、それぞれの通信性能を測定した。証券会社の株式業務で1日に伝送する取引メッセージ(FIXメッセージ)のデータ総容量と、その数十倍のデータ伝送量を想定した応答時間について、3種類の暗号化方式の違いによる影響を検証した。
●Next:暗号化方式の違いによる影響の検証結果
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