2022年9月1日、設立1年を迎えたデジタル庁が、これまでの活動報告「デジタル庁活動報告書」を公開した。主な出来事/デジタル庁の活動方針/成果と進捗/組織づくり/今後の取り組みの5項目で構成されている。その内容はともかく、1年間の活動報告を公表すること自体、霞が関の官僚文化と異質なことは言うまでもない。官民合同の新パワーがどうやって岩盤に風穴を開けていくのか、報告書に書かれていない課題を拾ってみた。
「デジタル庁は“視界不良”」──この記事が本誌に掲載されたのは2020年12月21日だった。視界不良とは穏やかではないのだが、頭ごなしに否定するのでなく、同記事のタイトルは「今こそ必要なグランドデザイン」と続く(関連記事:デジタル庁は”視界不良”、今こそグランドデザインが必要に)。
同記事は、当時、菅義偉内閣の目玉政策としてデジタル庁の設置が決まり、その基本方針の発表を受けたものだ。それから2年、さてデジタル庁の視界は晴れただろうか(関連記事:本誌のデジタル庁関連記事一覧)。
デジタル庁が1年間の成果をアピール
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2022年9月1日に公開された「デジタル庁活動報告書」。同庁のWebサイトからダウンロードして、だれでも閲覧することができる(画面1)。
報告書で目につくのは、“成果”の文字だ。第1節「主な出来事」で《設立1年で、着実に改革やサービスを前進》と謳い(図1)、5ページ「公共サービスの提供とインフラ整備を推進」、6ページ「官民の境目のない新しい組織を目指し、組織を改革」とたたみかける。
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第3節「成果と進捗」の最初のページにはここぞとばかりに“成果”が並ぶ(図2)。本文では、例えばマイナンバー制度関連の報告として以下を挙げている。
●マイナンバーカードは2022年7月現在で1059万枚を新規に交付、累計5815万枚に
●カード保有率は36.0%から9.8ポイント増えて45.8%に
●健康保険証のひも付けは1833万件
●公金受取口座のひも付けは1291万件
ほかにも、新型コロナウイルス関連政策として以下の成果を挙げている。
●新型コロナウイルスワクチン接種証明書アプリ「COCOA」のダウンロード数は842万件
●補助金申請システム「jGrants」の利用は6.6万事業者から2.5倍増の16万事業者
●法人共通認証基盤「gBizID」のプライムアカウント登録は22万件増
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官民の境目なく透明性を重視
この活動報告の公表と同時に、同庁の事務方トップであるデジタル監の浅沼尚氏が報道機関向けにレクチャー(記者仲間の間では「記者レク」と呼ばれる)を行っている。「何をやっているのかわからない、という声に応えた」(浅沼氏)ものだそうだが、中央府省庁でこのような前例を探すのは難しそうだ。
他の府省庁はキャリア官僚が主導するのに対し、デジタル庁は総員750人のうち3分の1を民間出身者が占める。「官民の境目のない新しい組織」を標榜し透明性を重視するのは、中央府省庁にあっては異質な感が強い。
デジタル庁が入居するのは霞が関でなく紀尾井町(いずれも東京都千代田区)というのは単なる符合にすぎないにしても、推測するに、テレワークやワーケーションは当たり前、他府省庁との兼業OKという働き方に既存の府省庁の幹部は違和感を持っている。そればかりか、「IT/デジタル」を錦の御旗に縄張りを侵食される(かもしれない)という警戒や反発がある。
浅沼氏が口にした「何をやっているかわからない」の声の主は、霞が関の府省庁なのではなかろうか。“成果”を強調したのはそれゆえ……と考えると、活動報告も記者レクも霞が関向けのアピールだったのか?──と疑いたくなってくる。
●Next:デジタル庁発足1年の最大の成果は、皮肉にも……
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