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富士通、2048ビットRSA暗号の安全性を量子シミュレータによる実験で確認

2023年1月23日(月)日川 佳三(IT Leaders編集部)

富士通は2023年1月23日、量子コンピュータによって既存の暗号が解読されてしまう懸念に対して、現在普及しているRSA暗号の安全性を量子コンピュータのシミュレータを用いて定量的に評価する実験を実施したと発表した。実験の結果、鍵長2048ビットのRSA暗号が安全であることを確認した。2048ビットのRSA暗号を解読するためには、約1万量子ビットに加え、ゲート数が約2兆2300億、深さが約1兆8000億の量子回路が必要で、約104日の間、量子ビットを誤りなく保持する必要があるという。

 富士通は2023年1月、量子コンピュータによって既存の暗号が解読されてしまう懸念に対して、現在普及しているRSA暗号の安全性を、量子コンピュータのシミュレータを用いて定量的に評価する実験を実施した(関連記事量子コンピューティングは暗号化技術を形骸化させるか―RSAのCTOに聞く)。

 実験の結果、鍵長2048ビットのRSA暗号が量子コンピュータに対して安全であることを確認した。実験では、合成数を素因数分解する量子回路を生成する汎用的なプログラムを、RSA暗号を解読する量子アルゴリズムであるショアのアルゴリズムを用いて実装。富士通が2022年9月に開発した39ビットの量子シミュレータ上で動かし、正しい量子回路を生成できることを確認した。9ビットのRSA型合成数(2つの異なる奇素数)であるN=15(3×5)からN=511(7×73)までの96個の素因数分解に成功した。

 さらに、上記の汎用的なプログラムを用い、10ビットから25ビットのいくつかの合成数を素因数分解する量子回路を実際に生成。この際の計算リソースから、2048ビット合成数の素因数分解に必要な量子回路の計算リソースを定量的に見積もった。

 この結果、2048ビットの合成数の素因数分解には、約1万量子ビット、ゲート数は約2兆2300億、深さは約1兆8000億の量子回路が必要なことが分かった。試算すると、約104日の間、量子ビットを誤りなく保持する必要がある。このような量子コンピュータは短期的には実現できないことから、RSA暗号の安全性を確認した。

 なお、RSA暗号は、インターネット上のSSL/TLS通信など、データの秘匿性や完全性を保証する技術として、世界中で広く利用されている。RSA暗号の安全性の根拠は、巨大な合成数の素因数分解が困難であること。現在の素因数分解記録が829ビットであることから、将来の計算能力の向上などを考慮し、鍵長2048ビットのRSA暗号の利用が推奨されている。

 「理想的な量子コンピュータを用いた場合、巨大な合成数であっても素因数分解が容易で、長期的にはRSA暗号から耐量子計算機暗号などの代替技術への移行が必要になる。しかし、2048ビットの合成数を実際に素因数分解する量子コンピュータについて、実験事例が少なく、計算リソースの見積もりが困難である」(富士通)

 実験では、39ビットの量子コンピュータシミュレータとして、スーパーコンピュータ「富岳」と同じA64FXプロセッサを512ノードで構成した「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700」を稼働。また、同システムで量子ビット状態情報の再配置を自動実行する新規開発技術を用いて、64ノードで再配置を行わない場合と比較して100倍以上高速化し、従来であれば16時間を要していたN=253(11×23)の素因数分解を463秒で実行した。

 富士通は今後、量子コンピュータが暗号の安全性にもたらす影響を継続的に調査する。また、2023年度第1四半期までに、量子シミュレータを40量子ビットまで拡張する計画である。材料分野などでの活用を見据え、理化学研究所の協力の下、2023年度中に64量子ビットの超伝導量子コンピュータの実現を目指す。

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