[市場動向]

次世代スパコン「富岳NEXT」が2030年頃稼働へ、NVIDIA GPUでAI性能を追求

理研・富士通・NVIDIAの連携で、富岳比5倍のハードウェア性能、10~20倍のアプリ性能を目指す

2025年8月25日(月)日川 佳三(IT Leaders編集部)

理化学研究所は2025年8月22日、スーパーコンピュータ「富岳」の次世代フラッグシップシステム(開発コード名:「富岳NEXT」)の設計・開発に着手すると発表した。富士通、NVIDIAとの連携の下で開発プロジェクトを推進する。シミュレーション用途のハードウェア性能は「富岳」比で5倍以上を見込むうえ、GPUを搭載してAI性能を追求する。2025年度内に基本設計を終えて2030年頃の稼働を目指す。

 理化学研究所(理研)は、スーパーコンピュータ「富岳」の次世代となる、HPC(High Performance Computing)フラッグシップシステム(開発コード名:「富岳NEXT」)の設計・開発に着手する。富士通、米NVIDIAとの連携の下で開発プロジェクトを推進する。

 日本のフラッグシップシステムとしては初めて、GPUを加速部(アクセラレータ)に採用する。富岳や「京」といったこれまでの国産スパコンが追求してきたシミュレーション性能に加えて、NVIDIA GPUの搭載によってAI性能を追求する設計となる。なお、システムは神戸市中央区港島南町のポートアイランド(第2期用地)にある理研神戸地区隣接地に設置・整備することが決定している図1関連記事富士通、「富岳」後継のスパコン「富岳NEXT」の設計へ、理研から受注)。

図1:次世代スパコン「富岳NEXT」が目標として定めるアプリケーション実行性能(出典:理化学研究所)
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 富岳NEXTの全体システムおよび計算ノード、CPUの基本設計を富士通が、GPUの設計をNVIDIAが主導する。2025年度内に基本設計を終え、2026年度以降は詳細設計に移行、2030年頃の稼働開始を目指す。理研は稼働時点の2030年頃の時勢を見据えて、量子コンピュータ(QC)のソフトウエアを富岳NEXTでも活用できるように適用を進める。

倍精度HPC性能は富岳の5倍以上、AI性能を追求

 富岳NEXTのハードウェア性能として、シミュレーション用途のFP64(倍精度浮動小数点演算)で富岳に比べて5倍以上となる2.6EFLOPS(エクサフロップス)以上を想定している。AI処理に向けたFP8(8ビット浮動小数点演算、スパース性を利用した場合)は、600EFLOPS以上を目標として開発する。

 CPUは、富士通の省電力Armプロセッサ「FUJITSU-MONAKA」の後継CPU「FUJITSU-MONAKA-X(仮称)」を採用。メニーコア、SIMD機能拡張、行列演算エンジン(Arm SME)の内蔵などの特徴を持つ。

 アクセラレータとして搭載するNVIDIA GPUでは、CPU/GPU間の接続にNVLink Fusionの採用を検討するほか、先進的なメモリー技術の採用を視野に入れるという。

トータルで富岳比100倍のアプリケーション高速化が目標

 富岳NEXTでは、ハードウェアによる高速化と並行して、ソフトウェアによる高速化として、10~20倍のアプリケーション実行性能の向上を目指す。重要な部分を高精度で、負荷の大きい部分は低精度で演算する混合精度演算や、低精度演算向けハードウェアを利用した高精度演算など、各種の手法を組み合わせる。

 現行の富岳は、開発当時最新の半導体技術や高性能メモリの搭載により、前世代の京に対して約40倍のハードウェア性能を達成。また、理研が主導したアプリケーションの高度化/最適化手法により、約3倍のアプリケーションの高速化を図っている。

 「富岳は、トータルで一部アプリケーションにおいて目標とした100倍を超える性能向上を成し遂げたが、近年では、半導体プロセス技術による速度向上・電力効率向上の鈍化により、大幅なハードウェア性能の向上が難しくなりつつある。そのため、ハードウェアによる進化に加え、ソフトウェアおよびアルゴリズムの革新による新しいアプローチが不可欠になっている」(理研)

 こうした状況を踏まえて富岳NEXTでは、上述の富岳比5倍のハードウェア性能向上と、10~20倍のアプリケーション実行性能向上を合わせて、京から富岳への刷新で目標とした性能向上と同様、トータルで最大100倍程度のアプリケーションの高速化を目標に置いている。この目標を、富岳開発時点と同程度である約40MW(メガワット、1MWは100万ワット)の電力制約の中で目指すとしている。

●Next:次世代計算基盤の性能を最大限に生かした想定ユースケース

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