[イベントレポート]
「AIはクリエーターを補佐する副操縦士」─画像生成AIにAdobeならでのアプローチ
2023年4月25日(火)指田 昌夫(フリーランスライター)
クリエイティブ、ドキュメント、マーケティング、顧客体験の複数領域にわたって製品・サービスを提供する米アドビ(Adobe)。2023年3月21日~23日(米国現地時間)に米ラスベガスで開催した年次イベント「Adobe Summit 2023」で、同社は生成AI(Generative AI)を自社製品に組み込むことを発表した。AIの新たなブレイクスルーを、アドビはどう捉えて形にしたのか。製品の特徴と基になる戦略を2回に分けてレポートする。
クリエイティブとマーケティングの連携へ
多くの人がクリエーター向けソフトウェア大手という印象を持つアドビだが、その事業形態は広範かつユニークである。1980年代から続く「Adobe Illustrator」「Adobe Photoshop」などのクリエイティブソフトウェアでは、業界ナンバーワンの地位を維持している。一方で、2000年代からデジタルマーケティング関連のソフトウェア企業を次々と買収。「Adobe Experience Cloud」というサービスブランドで、第2の事業の柱を構築した。
長らく独自した道を進んできた2つの事業だが、その距離はここへ来て急接近している。本来、Adobe Summitはデジタルマーケティングを中心に企業のDXを取り上げるコンファレンスだが、今回のメインテーマは、クリエイティブ製品によって生み出したデジタルコンテンツを、いかにマーケティングなど企業のビジネス活動に組み込むか、だった。
その理由を、基調講演に登壇したアドビ会長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン(Shantanu Narayen)氏(写真1)は次のように語った。「すべてのすぐれた顧客体験は、画像、ビデオ、ドキュメントなどのコンテンツから始まる。問題は、そのコンテンツがどのようにパフォーマンスできるかである。Adobe Experience Cloudは、アートとサイエンスをつなぎ、アナリティクスを付け加えた、アドビのデジタルビジネスの中心であり、コンテンツの制作から運用までを包括的に提供するスイートとして提供している」。クリエイティブ領域(コンテンツ制作)とビジネス(マーケティング機能)をまとめて提供できるアドビ独自の強みを、CEO自らアピールした。
また、同社デジタルエクスペリエンス事業部門担当プレジデントのアニール・チャクラヴァーシー(Anil Chakravarthy)氏は、「Experience-Led Growth(顧客体験が成長を主導する)」というキーワードを示して、こうアピールした。
「すべての企業がデジタル企業になろうとしている。なぜなら、デジタル企業はすぐれた顧客体験を提供することで圧倒的な費用対効果を挙げ、高い利益成長をしているからだ。だが、デジタル企業になることは容易ではない。アドビは企業のデジタル化を支援していく」
企業の成長のためには、コンテンツ制作からマーケティング活動までのワークフローをデジタルで一気通貫につなぐことが不可欠であり、そのためのソリューションを提供するというのがアドビの主張である(写真2)。
生成AIに対するアドビの回答
今回のAdobe Summitで最も注目を集めたのは、生成AI(Generative AI)関連の発表だった。日本でも大きな話題を呼んでいる「ChatGPT」が、自然言語を処理・生成する対話型AIモデルであるのに対し、アドビは、自然言語から画像を自動生成する画像生成AIモデル「Adobe Firefly」を開発した。
アドビが画像生成AIを開発した背景は、クリエーターの作業負担の増加にある。チャクラヴァーシー氏は、「過去2年で、コンテンツの量は2倍になった。そして今後2年間でさらに5倍に増加する」と語る。2年で5倍。とてもではないが、クリエーターの手に負える量ではなくなる。そうなる前に、手を打っておく必要があるとアドビは考えたわけだ。
ここでのポイントは、膨大なデジタルコンテンツには、クリエーターが作らなくてよいものが非常に多く含まれるということである。写真・画像素材サービスなどから画像を入手してそのまま使用すれば、クリエーターの手を煩わせる必要はない。しかし、コンテンツとしてドンピシャのものが既存のサービスに存在しないことも多いし、探し当てるのには膨大な時間がかかってしまう。
そのためどうしても、近いイメージから修正したり別の画像と合成したりして、人の手で画像を生成するケースが多かった。クリエーターにとっては、画像の検索や簡単な修正などの「創造性に乏しい単純作業」が増えていき、本来の仕事に手が回らなくなっている。
●Next:Fireflyはビジネスに使える画像生成AI
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