[市場動向]

脱メインフレーム大作戦、最初の一歩でつまずいた全銀システム

稼働50年、デジタル通貨を見据えてゼロから再設計する選択はないのか?

2023年11月8日(水)佃 均(ITジャーナリスト)

2023年10月10日から11日にかけて発生した全銀システムのシステム障害。金融10機関で処理停止などに陥ったことで発生当初から広く報じられたが、ようやく行われた原因の説明には曖昧さが残り、どうにもすっきりしない。全銀システムの成り立ちや仕組みを振り返りながら、この事案が浮き彫りにした問題や「これから先の全銀システムはどうあるべきか」について考えてみる。

 2023年10月10・11日の両日に発生した全国銀行データ通信システム(全銀システム)のシステム障害。それによって三菱UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、山口銀行、北九州銀行、三菱UFJ信託銀行、日本カストディ銀行、もみじ銀行、商工組合中央金庫の10機関と他の金融機関の資金決済電文506万件のうち87万件の当日処理ができなかった。1973年4月に稼働して以来50年にして初の大規模トラブルだった(関連記事全銀ネットのシステム障害、発生から1日経過も復旧の目途立たず全銀ネットのシステム障害が復旧、他行宛の振込取引が通常利用可能に

 障害発生の直後、全銀システムを所管する一般社団法人全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は、「問題は中継コンピュータ(RC)で使われている特定のプログラム」と説明していた。10月7~9日の3連休に変更したのが、RCのレベルアップ(32ビットOSの「RC17」シリーズから64ビットOSのRC23シリーズ)だったから、「RCが原因」というのは説明のようで説明になっていない。

 その後、一部に「メモリー不足が原因」という情報も流された。しかし、全銀ネットが行った10月18日午後4時からの会見(写真1)によると、「RCのインデックステーブルが本番稼働準備前に損壊していたのが直接の原因」(事務局長兼業務部長の小林健一氏)という。手数料を計算するため、送金先金融機関の情報を格納したテーブルを読みに行くと異常停止(アベンド)する。そこで手数料処理プログラムを外したら復旧した。消去法でたどったところ、インデックステーブルが損壊していた──というわけだ。

写真1:10月18日午後4時から全銀ネットの会見が開かれた(出典:全銀ネット YouTube配信より)

「真の原因は不明」から透けて見える構造的な不備

 簡単に全銀システムの仕掛けを説明すると、基本となるのは「テレ為替」方式だ。送金先金融機関に向けて発信される電文をRCが受け取って、1件ずつインデックステーブルを参照して送信する。

 A銀行の口座保有者がB銀行の口座保有者に資金を送るとき、A銀行からB銀行へと実際に現金が動くわけではない。A銀行からB銀行に立て替えを依頼し、当該営業日の午後3時で締め切った集計を照らし合わせ、日本銀行に開設したそれぞれの金融機関の口座残高で相殺する(図1・2)。今回のRCリプレースは脱メインフレーム大作戦、その最初の一歩でつまずいたことになる。

図1:第7次全銀システムの構成(出典:全国銀行資金決済ネットワーク)
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図2:全銀システムの技術基盤(出典:全国銀行資金決済ネットワーク)

 会見での質問は大きく、技術的な疑問、補償方針の確認、責任の所在の3点に集約できる。このうち技術的な疑問としては以下2点が中心となる。

●障害発生の直後に切り戻し(元のシステムに戻す)ができなかったのか?
●なぜインデックステーブルが損壊したのか?

 全銀ネットは切り戻しについて、「RCをリプレースするため金融機関側のシステムも変更していて、10月7日正午が切り戻しのデッドラインだった」と言う。東西両センターを同時にリプレースしたため、RC23シリーズで突き進むしか他に手がなかったのだ。背水の陣で臨んだのは、どう見ても過信、慢心の批難を免れない。

 次に、なぜインデックステーブルが損壊したのかについては、全銀ネットは首をひねるばかりで明言を避けた。単体テスト、総合テストのどの段階でも障害は発生しなかった。それなのに本番稼働した10日午前8時半にアベンドした。なぜだか、さっぱり分からないという。

 テストデータに不備はなかったか、本番データを使ったランスルーは実施したのかなどの質問に対しては、「詳細設計から以下の工程は委託業者に任せている」というばかりで埒が開かない。プログラム言語の変更(COBOLからC、Javaへ)による不安定要素や、OSの変更(32ビットから64ビットへ)によるスループットの齟齬はなかったか──全銀ネットは「真因(真の原因)は不明」としている。

※編集部注:全銀システムの構築ベンダーであるNTTデータは2023年11月6日、システム障害の原因について現時点で判明している事項の説明を行った。直接の原因は、金融機関名テーブルを生成するインデックスプログラムの不具合(どのような不具合なのかは言及されず)により、中継コンピュータに展開する金融機関名テーブルと、金融機関名インデックステーブルを作成する段階でテーブルの一部が壊れ、それを中継コンピュータに展開してしまったとしている(関連記事全銀システム障害の原因はテーブル生成プログラムの不具合、新旧稼働環境の違いを吸収できず─NTTデータ)。

全銀システムの成り立ち

 システム障害原因の詳細・全容について、現時点では精査の結果を待つしかないのだが、総じて感じるのは、全銀ネットに当事者能力はあるのか、ということだ。

 そもそも全銀システムは1960年代後半、急速に進んだ銀行の大衆化──給与振込、現金取扱の機械化(キャッシュカードと現金自動支払機、住宅ローン、クレジットetc.──を背景に、全国銀行協会(全銀協)の要求を元に、当時の日本電信電話公社データ通信本部(略称:デ本、現在のNTTデータの前身)がナショナルプロジェクトとして開発・運用したものだ。

表1:全銀システムの歴史(出典:全国銀行資金決済ネットワーク)
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 年金システムや郵便貯金システムと同じように、国営に準じる扱いだったのだが、1985年4月にデータ通信本部が株式会社NTTデータとなり、2010年4月に全銀協が“子会社”として全銀ネットを設立した。これによって準国営システムが完全な民営システムに移行し、併せて全銀協─全銀ネット─NTTデータという多重構造が形成された(表1)。

 NTTデータの下には「パートナー」の名で富士通、日立製作所、NECといった旧メインフレーマーやマンパワー型受託IT系企業の大手が集まっている。NTT西日本の直系子会社の個人情報900万件流出事案に見るように、NTTグループ企業の多重構造化も進んでいる。現時点まで障害原因の究明がなされていない背景には、システム開発・運用をめぐる構造的な問題が潜んでいるように思われる。

●Next:障害発生後の対応への評価と、稼働50年ではっきり見えた限界

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