ITベンダーは時に、“実験場”として新しいプロダクトを自社導入し、得られたナレッジを還元する形で顧客に導入を提案することがある。NECは自社を顧客企業のDX支援のための実験場と位置づけ、社内DXを推し進めている。2024年3月8日に開催された「データマネジメント2024」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)のセッションに、NEC コーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部 ベースレジストリデザイングループ ディレクターの秋田和之氏が登壇し、新たに整備したデータ利活用基盤のポイントや、生成AI活用に向けた取り組みと成果を語った。
提供:Denodo Technologies株式会社
目指すべき将来像の明示を通じて社内DXが加速
NECは顧客企業のDX推進を支援する立場であるとともに、自らも経済産業省の「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄」に、2020年から3年連続で選出されているDX先進企業でもある。同社は、まずは自社を実験場として社内DXを推進し、蓄積されたナレッジを顧客、さらに社会へ還元し、循環させていくという方針を示している。
「その出発点は2019年に策定した“NEC DX-Agenda”にまで遡ります」と語るのは、コーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部 ベースレジストリデザイングループ ディレクターの秋田和之氏だ(写真1)。
「当社には過去、社内で広範にデジタル化を推進しながら、当初の期待ほど成果が上がらなかった苦い経験があります。これを教訓にNEC DX-Agendaでは、プロセス、経営基盤、カルチャーなど、社内DXにおける9つの変革対象を明確化し(図1)、併せて効果測定の手法も取りまとめることで、DXで目指す姿を具体的に明示しました」(秋田氏)
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以来、NECでは変革対象のDXに矢継ぎ早に取り組み、着実に成果を上げてきた。同社が2021年に発表した「2025中期経営計画」では、DXによる全社エクスペリエンス変革を通じた「EBIDTA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)成長率で年平均9%」「エンゲージメントスコアで50%」などの目標が掲げられた。「エンゲージメントスコアは当初の19%からすでに40%を超え、あらゆる認証を顔認証で行う“NEC まるごとDigitalID”の社内展開も進むなど、取り組みは堅調に推移しています」と秋田氏は説明する。
仮想化技術やデータカタログでデータ活用を促進
先行きの不透明感が増すVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代にあって、技術トレンドの急激な変化によりDX基盤の陳腐化が一気に進むなど、技術的リスクも着実に高まっている。これを受けたNECの対策が、グローバルスタンダードかつ、クラウドファーストでの「コンポーザブルモデル」による基盤整備だ。
「マルチベンダーな複数ツールによる、適材適所の構成を通じてベンダーロックインを回避できるだけでなく、ツールの容易な入れ替えによって陳腐化にも迅速な対応が可能です。現在、グループ全体で1000を超えるツールを利用しており、それらを自社製品で連携させています」(秋田氏)
その中にあって進化を続けているのが、データ利活用基盤だ。同社では一般的に広く用いられている「データレイク」「ビュー」「BIツール」の3層構造のアーキテクチャを採用してきた。こうした、従来型のデータ活用基盤の課題として広く指摘されているのが、データが増えるほど、どこに、どんなデータがあるかを現場が把握しにくくなる点だ。
NECでは、その課題を解決するためにはITシステムの全体最適化とデータドリブンの実現が必要と考え、グループ全体のITシステムからのデータを仮想的に統合する「One NEC Dataプラットフォーム」の稼働を2022年に開始した。プラットフォームは、データ仮想化技術、クラウドデータベース、データストリーミング、プロセスマイニングといった技術で構成されている(図2)。例えば、データ仮想化技術に採用されているのが、Denodoのデータ仮想化プラットフォームだ。
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物理的に分散したデータをDenodoのデータ仮想化技術により論理的に統合し、一元的な把握を実現する。その上で、目的のデータに対するETL機能を使ったデータ抽出処理によって、データの移動を伴うことなく事前に設計したビューに仮想的にロードし集約する。どこに、どのようなデータがあるのかは、データカタログの「Global Data Catalog」で確認する。
「データ仮想化によって、社内外に散在するデータへの容易な把握とアクセスが実現します。事前にDWHを構築する必要のない、迅速かつ低コストでのデータ活用が可能になり、データ活用のコストとリードタイムはそれぞれ78%、75%削減されました。社内データの可視化でデータカタログは不可欠である点を踏まえ、厚めに人を当てガバナンスを意識しつつ登録作業を進めています」(秋田氏)
プラットフォームにはデータを集める(データ仮想化)Denodoのほか、データを貯めるクラウドデータベースとしてSnowflakeが、データを活用するためにプロセスマイニングツールのCelonisやBIツールのTableauが、リアルタイムにつなげるためのデータストリーミングプラットフォームとしてConfluentが採用されている。
生成AIを安全に利用する仕組みを社内展開
NECが今後のDXの加速に向け力を入れているのが生成AIの活用だ。社内展開に向け2023年に「NEC Generative AI変革オフィス」をCIO/CISOの直下に新設。カスタマイズ可能な生成AIをハードとソフト、コンサルティングサービスとともに提供する「NEC Generative AI Service(NGS)」(図3)の社内提供を5月に開始した。社内ユーザーは2023年12月末時点で3万4000人に達している。
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NGSは、生成AI技術を安全に活用するための仕組みだ。閉域網内での利用を前提に、SSO(シングルサインオン)による認証や生成AIエンジンに渡した全情報の保存、それらの常時トレースの実現などを通じ安全性を担保している。プロンプトの学習による情報漏洩対策にも配慮した仕組みとなっており、約2週間で環境を構築できるという。2023年7月からNGSの一般提供を開始、社内ノウハウの蓄積と社内エコシステムの形成を通じた社内外での生成AI活用の促進、さらに進化を目指している。
一方で、世界トップクラスの日本語性能を有する独自の国産LLM(大規模言語モデル)を開発し、2023年12月に「cotomi」として発表している。LLMはcotomiのほかマイクロソフトの「Azure OpenAI Service」、Anthropicの「Claude」、Stability AIの画像生成AI「Stable Diffusion XL」の利用が可能だ。
NECでは現在、NGSの価値検証も兼ねた社内利用を、多様な領域に拡大させているという。その1つが、社内ユーザーサポートだ。これまで人が行ってきた作業を生成AIに代行させるべく、マニュアル117冊や1万1000件以上の社内のインシデントデータをLLMに登録して検証を実施中だ。
「この取り組みはまだ道半ばです。チャットでのやり取りを通じ、全トラブルを社員に自己解決してもらう計画ですが、現状の自己解決率は10%にとどまります。回答精度の向上には、学習データのクレンジングとチューニングが重要なことを改めて学ばせられました」(秋田氏)
最後に秋田氏は、「DXによる変革対象はブランディングやカルチャー、組織・人材など、きわめて広範に及びます。データ活用や生成AIにより何ができ、どれほど成果を上げられるのか。その知見を社会に届けられるよう、我々はこれからも参照されるべき実験の場であり続けます」と締めくくった。
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